第六十六話 作戦会議
今すぐにやらなければいけないこと。
それは、どうにかしてこの世界にサキュバスを呼び戻すことである。それが不可能であるのならば、思い切って前田をサキュバスのいる世界へと送り付けてしまうという事だ。
当然、そんなことをこの世界のまー君は許したりしないのだろうが、自分たちが嫌な思いをするくらいであるならそれも仕方ないと思う四人の美少女であった。
「まー君には悪いと思うけど、こんな気持ち悪い男の相手をするなんて私には無理。他のみんなもそうだよね?」
こんな時にはちょっと気まずそうに反応をするのがお約束だと思うのだけれど、うまなちゃんの質問に対して三人は即答と言ってもいいくらいの反応を見せていた。もちろん、完全に同意していた。
「偽まー君にもちょっと苛ついてきたし、私はうまなちゃんの案に賛成だな。イザベラちゃんもそうだと思うけど、この世界で戦う力を手に入れたからには反撃をしてもいいんじゃないかなって思うんだ」
「やっぱりそうだよね。私たちは相当強くなったみたいだし、あの程度の男たちなら相手にならないんじゃないかなって思ってたんだ。でも、うまなちゃんとイザーちゃんに敵対するようなことはしたくないって感じてたかも」
「大丈夫だよ。私もうまなちゃんも二人のことを敵だなんて思ってないから。むしろ、ここでの話を聞くとまー君の方が出来なんじゃないかって思ってたくらいだよ」
「だよね。あいつってそこまで強くないのに調子に乗りすぎたよね。自分の置かれてる状況と立場をはっきりさせてあげた方が良いと思うな。ただの人間が私たちのことを思い通りに操れるなんて思い上がりも甚だしいよね」
四人とも前田の事なんてもう存在しないものとしか思えないような態度で話が進んでいった。それでも問題はないと思ってはいるのだけれど、前田としては少しくらい気にしてくれてもいいのではないかと思い始めていた。
だが、四人が話をしているところに割り込んでまでアピールする勇気は持っていなかった。この状況で何かを言おうとしても聞いてもらえないだろうし、聞いてもらえたとしても自分の伝えたいことは何一つとして伝わらないという事を察することくらいは出来るのだ。
「じゃあ、このまま前田を本物のまー君がいる世界まで送り付けるってことでいいかな?」
「それで問題ないんだけど、どうやって前田を本物のまー君がいる世界に送り付けるの?」
「その点は心当たりがあるんで大丈夫だよ。私たちには本物のまー君がどこにいるかの見当なんてつかないし見つけられることはないんだけど、この世界にいるまー君に聞けばどこにいるか教えてくれると思うからね」
「私たちも自分たちより優れた自分がいれば何となく察知することが出来るんだけど、残念なことにここにいる五人はどの世界の自分たちよりも優れている存在になっちゃうんだよ。ちょっと修業しただけで魔法のエキスパートになっちゃった麻奈ちゃんとイザベラちゃんは言うまでもないんだけど、この気持ち悪い前田はどこの世界にも存在しない一点モノなんだ。本来であればもっと丁重に扱ってしかるべき存在なはずなんだけど、何度も失敗をやり直すっていう凄くズルいことをしたせいでこんなに気持ち悪くなっちゃってるんだよね。これだけ見た目でハンデを背負っても仕方ないくらいズルいことを繰り返してたってことなんだけど、まだ人間として見ることが出来る姿を保ててるあたりは運が良いのかもしれないね」
そこまで言う程かと思いつつも、自分の顔を思い出すと納得してしまう前田であった。
その点を考えてみると、麻奈ちゃんが自分の告白に対して辛らつになってしまうのも仕方ないなと納得は出来た。だけど、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかなと淡い思いを胸の内に秘めて悟られないようにそっと蓋をしていた。
「それでは、今からまー君のいるところに戻って四人で説得してみようか。私たちが誠心誠意心を込めて説得すればきっと本物のまー君のいる場所を教えてくれるはずだよ」
「ちゃんとわかってもらえるように主要都市の説得からしていった方が良いかもしれないよ」
「でも、主要都市の説得よりもまー君に敵対している国に力を貸してみた方が良いんじゃないかな。その方が偽物のまー君も早く諦めてくれると思うな」
「その程度であいつが心を入れ替えるとは思えないかも。あいつは本気で前田のことをここの世界に縛り付けようとしてるし、上手くいったら本物のまー君と立場を入れ替えようとしているんだからね」
「雑魚のくせに生意気だね。じゃあ、こんな作戦はどうかな? 偽物のまー君のところの防衛ラインと補給ラインを完全に分断しちゃったら良いんじゃないかな?」
さすがにそれはやりすぎだろうと思った前田であったが、作戦を立案した麻奈ちゃん以外の三人はその作戦に乗り気であった。
「それいいかも。あいつが諦めなかったとしてもあいつの味方はみんな諦めるでしょ。そうなったら、わがままを貫くことなんて出来そうもないね。どんな独裁者だって味方が誰もいなくなったらおしまいだろうし」
「麻奈ちゃんって顔に似合わずえげつない作戦が思いついちゃうんだね。私は麻奈ちゃんだけは敵に回したくないかも」
「とりあえず、偽物のまー君を孤立させるってことでいいわね?」
全員の視線がなぜか前田に集中していた。
この作戦を自分が立案したという事にしろとでも言われているように感じた前田はそっと頷いていた。
四人の表情は少しだけ和らいだようにも見えたのだけれど、誰一人として前田と目を合わせようとはしていなかった。




