第六十五話 四人の絶望
当初の予想とは違い伝説のサキュバスとは出会うことは出来なかったのだが、前田にとってどう転んでも得しかない状況になっていた。
本命の麻奈ちゃんが選ばれれば今までの苦労が全て帳消しになった上にお釣りも来て幸せな余生を過ごすことが出来ると思うし、自分のためにいろいろとしてくれているイザベラちゃんになっても何一つ損なことなんて無い。むしろ、外国人を相手にすることなんてこれから先の未来永劫無いと考えられるので、これ以上にない思い出が出来てしまうだろう。
それに、麻奈ちゃんとそっくりなうまなちゃんが選ばれたところで外れではないのだ。外れどころか、麻奈ちゃんには遠慮して出来ないようなこともうまなちゃんにならお願いできるんじゃないかという想像もしていた。それと同様で、イザベラちゃんに似ているイザーちゃんにもお願いしやすいんじゃないかと思っている。
つまり、誰が選ばれても前田にとってそんなことは何一つなく、こんな機会でもなければ相手にされることはない四人の誰か一人が相手をしてくれるという願ってもないチャンスがやってきたということなのだ。
今まで何度も繰り返してきた辛い人生が報われる瞬間が今この時にやってきたと言っても何一つおかしくない状況になったのだ。
だが、当事者である四人の美少女は徹底的に抗う姿勢を見せていた。
「勝手にそう決められても困るんだけど。なんで私がこんな気持ち悪いやつの相手をしないといけないのよ。いや、私じゃなくて他の子が相手をするってのも考えたくないくらい気持ち悪いんだけど」
「そうよそうよ。私が相手をするってのも嫌だけど、他の子がそんな目に遭うところなんて見たくも聞きたくもない。こんな理不尽なことが起きるなんて聞いてないし」
「麻奈ちゃんとイザベラちゃんの言うとおりだよ。ここに来るときに私たちは何も関与しないって約束だったのに、あんたの言い方じゃ私たちが相手をしないといけないってことになっちゃうでしょ」
「そんなのおかしいよね。私たちは何もしないってちゃんと契約を結んでたし、そのことはあなたたちも知っているはずよね?」
「そうは言いますけど、これも全てまー君が決めたことですから。最初から全て決まっていたことなんですよ。あなたたち四人の中の誰か一人がこの気持ち悪い男の相手をしてこの世界にとどまりたいと思わせる必要があるんですから。それと、本当に申し上げにくいんですが、契約書にはサキュバスがいない場合は代わりにあなたたちの誰かが相手をするって書いてますよね?」
その言葉を聞いてあらためて持っていた契約書を確認するうまなちゃんとイザーちゃん。契約書には確かにうまなちゃんとイザーちゃんそれに異世界からやってきた麻奈ちゃんとイザベラちゃんは前田の相手をしなくてもいいと書かれている。その部分は他の文字よりも大きく書かれており色も目立つように赤色になっていた。
ただ、その文の最後に小さな文字で“ただし、サキュバスが存在しない場合は除く”と書かれていたのだ。
サキュバスが存在しない状況なんてありえないことなので考えもしなかったのだが、なぜかこの伝説のサキュバス島には現役のサキュバスは誰一人として存在していない。それどころか、この世界からもサキュバスが消えてしまっているのだ。
「そう言うわけですから、もう腹をくくって誰がお相手するか相談してみてはいかがでしょうか?」
「サキュバスが一人もいないなんてことはないでしょ。この世界のどこかにいるサキュバスを呼び戻しなさいよ。それくらいは出来るでしょ?」
「もちろん、サキュバスがどこかにいれば呼び戻すことは出来ますよ。この世界のどこかにいれば可能なんですがね」
「その言い方だと、この世界にはもうサキュバスはいないってことなの?」
「そうなってしまいますね。この世界だけではなく他の世界からもサキュバスはどんどんいなくなってるんですよ。あなた方の良く知る方のまー君が色々な世界線からサキュバスを集めてそこの気持ち悪い男に関わらせないようにしてるんですからね。何を考えているのかわからないですけど、いろいろな世界に存在するサキュバスを絶滅させたところでその気持ち悪い男がどうなるとかないんですけどね。でも、そのおかげであなたたち四人のうちの誰かが悲しい目に遭うということですからね。それはそれで素晴らしいことだと思いますけど」
どの世界にいてもまー君のやることは常識外れだと思った五人は置かれている状況を冷静に考え始めていた。
前田は最初こそ誰が相手をしてくれても嬉しいと思っていたのだけれど、みんなの話を聞いていくうちに自分の相手をしてもらうということがだんだんと申し訳なく感じていた。それも、自分が何度も世界線を移動したことで強化されていったまー君の力が色々な世界に迷惑をかけているという事にも責任を感じつつあった。
麻奈ちゃんとイザベラちゃんは完全に巻き込まれた側ではあったが、自分たちが会いたい本物のまー君が凄い事をしているという事が知れてうれしく思っていた。ただ、そのせいで自分たちがとんでもない目に遭ってしまうかもしれないと思うと単純に喜んでもいられなかった。
うまなちゃんとイザーちゃんは前田と一番かかわりの深いまー君がそこまでの力を持っていることに対して得も言われぬ恐怖を感じていた。それと同時に、この世界にいるまー君が前田をこの世界にとどめるためだけに自分たちを利用しようとしていることに対して非常に強い憤りを感じていた。
五人はそれぞれ別のことを考えてはいたのだけれど、共通していたのはこの世界にいるまー君も別の世界にいるまー君“ヤバい”という事だった。




