第六十二話 魔法陣の中の不自由
まー君の体を挟むように出現した魔法陣はゆっくりと明滅しながら徐々に体力を奪っていった。少しだけ感じる息苦しさは心理的なものなのか現実に起こっている出来事なのか理解出来ていないけれど、まー君は魔法陣の中から外へ出ようとする意志を持っていなかった。
自称前田と女たちはまー君に罵声を浴びせているようなように見えるのだが、魔法陣の影響なのか何の音も聞こえない。音だけではなく温度も湿度も風さえも感じられなかった。
呼吸がしにくくなっているのは大気が動いていないからなのかと思って自分の体を動かしてみたところ、いつもと違って水中の中にいるような抵抗を感じてはいたのだが、それ以外はいつもと変わらないようにしか思えなかった。
それを見ていた自称前田は慌てたように魔法陣をさらに追加してきた。
どうやら、この魔法陣を追加するのには相当な体力を必要とするらしく自称前田はまー君の上に新しく増えた魔法陣を確認すると安心したのか大きく息を吐いてその場に座り込んでいた。女たちも自称前田同様に座り込んでいるのだが、その疲れ方は本気でマラソンをした後のようで多量の汗をかいているのがハッキリと見えていた。
魔法陣が追加されて数分が経過した。
依然としてまー君は少しだけ息苦しい感じはしているもののそれ以外は特に支障はなかった。魔法陣の外にいる自称前田たちは座り込んだまま立ち上がろうともしていないのだけれど、少しだけ距離を開けているようにも見えていた。三人が座っていたところに出来ている汗染みが後ろに下がっていることを物語っていた。
まー君は自分の動きに合わせて魔法陣が光ることに気付き、それが何となく面白く感じていたのでいろいろな動きを試してみた。
意味もなく胸の前で手を叩いてみたところ、両手が重なった瞬間に魔法陣が強烈に発光し外にいる三人が座ったまま同時に後ろへ倒れていた。パチパチと拍手をした時には何も影響がないように見えたのだが、大きな力を持って動くと何らかの力が外に向かって働いているようだ。
少しだけ面白いことを思いついたまー君は三人が倒れているのを見ながら隠し切れない笑みを口元に浮かべていた。
まー君は立ったまま目を見開いて動きを止めると三人は這ったままゆっくりと近付いて下から見上げるようにまー君の状態を確認していた。
何か相談をしているように見えるのだが、三人の声が全く聞こえないのでリアクションをとることも出来ないまー君は黙って遠くを見つめていた。
女性二人の肩を借りて自称前田がゆっくりと立ち上がりながら恐る恐るといった感じでまー君の顔を覗き込む。
全く動かないまー君を見て安心したのか自称前田は二人の女性の方へと視線を向けた。
その瞬間、まー君は自称前田に向かって胴回し蹴りを放った。
自称前田にその攻撃は直接あたることはないのだけれど、何らかの不思議な力が働いてしまい衝撃波が自称前田の腹部に直撃した。
自称前田の体は臍から上下二つに分かれて壁の方へと向かって飛んで行った。
女二人の叫び声は全く聞こえないのに物凄く叫んでいるということだけはまー君にも伝わっていたのだが、それ以上に自分のやった行動の結果にまー君はドン引きしていた。
自称前田の体は上下二つに分かれたもののお互いを求めあうかのようにゆっくり近づく。上半身が必死に下半身をくっつけようとしているのが見えるのだが、あまりにも焦っているからなのか血がついて滑るからなのか一向に上手くいく気配は感じられない。
女性二人もまー君を警戒しつつ這って自称前田のもとへと近付いて手をかざしているのだが、自称前田から発生している血だまりは広がっているまま変わることはなかった。
どれだけの量の血を流しているのだろう。普通であれば完全に死んでいるのではないかと思うくらいの量の出血があるのにもかかわらず、自称前田の体は上半身も下半身もお互いを求めあうように動き続けていた。
逆に考えると、止まってしまうともう元に戻れないのかもしれない。
相変わらず水の中にいるかのように動きづらく息苦しいのは変わらないのだが、三人との距離が離れるとその感覚も少しずつ弱まっているように思える。本当に誤差だとしか思えないような程度の違いではあるが、確かにそう感じられるほどまー君の感覚が敏感になっているのだ。今ならもう一度あの三人に向かって何らかの攻撃が出来るかもしれない。
そう思うだけで何もせずに慌てている三人をそっと見守ることにしたまー君であった。
何となく、本当に意味なんて無いのだが、急にその場で上に飛んでみたいという衝動にかられたまー君。
勢いよく飛び上がれば空に向かってとんでもない力が向かうのだろうと想像していたのだが、その結果はまー君の思っているものと違う形になってしまった。
その場にしゃがみこんで飛ぶ力をためたまー君は思いっきり空に向かって跳ね上がった。
今なら垂直飛びで自信過去最高の記録を出せると確信したのだが、その思いもむなしくまー君の体は天井に向かって飛びあがることは出来なかった。
飛び上がろうとした瞬間、まー君の足元を中心に床が崩れ落ちていったのだ。




