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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第五十八話 前田と伝説のサキュバス島

 伝説のサキュバス島にたどり着いた俺たち一行は目の前に広がっている光景に言葉を失った。


「なんか、思ってたのと違うんだけど」

「私たちにそんなこと言われても困るんだけど」

「それにしても、噂で聞いていたよりも何倍もさびれている気がするよね」


 この世界にやってきてから荒廃している街を見るのは慣れているはずなのに、目の前に広がっている光景はあまりにも無残すぎた。

 壁が取り除かれていて部屋の中が丸見えになっているのは良いとして、室内にあるベッドの上に乱雑に骨が積み重ねられているのだ。

 ベッドに覆いかぶさるようにうつぶせになっている複数の骨があるように見えるのだが、いったい何人分の骨なのかは頭蓋骨を数えてもはっきりしないような気がする。明らかに頭蓋骨よりも多い数の骨が重なっているように見えるのだ。

 そこに近付くことをためらって誰も歩こうとはしない。こんな場所だったなんて聞いていたら来なかったのにと誰もが思っているだろう。


「あんたら、こんなところまでよく来たね。何のもてなしも出来ないけれど、ゆっくりしてくださいな」


 骸骨が喋りだしたと思って声のする方をゆっくりと確認したところ、やや血色は悪いが生きている人がそこにいた。老人と呼ぶにはまだ若いがサキュバスとしては微妙な感じがする女性が俺たちのことをじっと見ている。体からは力強さを感じることはないのだけれど、その眼光はとらえた獲物を逃がさないといった力強さを見せつけていた。

 それよりも、どうしてこんな場所にいるのか聞きたいことはたくさんあるのだけれど、本音を言えば今すぐにでもまー君のいる街に帰りたいと思っていた。


「ここって伝説のサキュバス島ですよね?」

「そんな風に言われていた時期もあったみたいだね。昔はサキュバスの娼館でにぎわっていたみたいだけど、とある事件が起きてからサキュバスたちは出稼ぎに行ってしまったよ。ここに残っているのはもう私と数人を残すだけになってるのさ。あんたら、まー君に言われてここにやってきたんだろ?」

「そうですけど、まー君の知り合いですか?」

「知り合いってほどではないけれど、時々私らと連絡を取り合ってはいるんだよ。いつかこの島が伝説のサキュバス島として再興するように力を貸してくれて入るんだけどね。イマイチどうすればいいのか誰もわからないのさ」


「サキュバスはここにはいないってことですか?」


 女性は俺の言葉を聞いていたはずなのに答えることはせず、俺から目をそらしてうまなちゃんたちの方を向いてしまった。

 サキュバスがいないということを聞いてはいけないということなのだろうか?


「世界中に散らばっているサキュバスがもう一度この島に戻ってくるようなことがあればいいんだけど、なかなかそう言うわけにはいかないんだよね。あんたたちのようにこの島を訪れるものはそれなりにいるんだけれど、上手い事サキュバスたちの帰省とタイミングが合わないもんだから何の進展もないんだよ。今回だってそうさ、あんたたちがここに来るのがあと二日早ければ東の国で一番有名なサキュバスがいたんだけどね。本当に残念なことをしたよ」

「じゃあ、いろんなサキュバスに会ってきてここに戻ってくるように伝えればいいってことですか?」

「そんなことをしても無駄さ。あんたらが何もしなくてもサキュバスたちはここに戻ってくるし、まだ駄目だということを確認して出ていくだけなのさ」


「どうしてほしいのかハッキリ言ってくれたら俺も協力するけど」

「ハッキリ言ったところであんたに何が出来るって言うんだろうね。何の力もないただの人間のあんたにいったいどんなことが出来るっていうのか教えてもらいたいもんだね」

「まあまあ、お互いに冷静になって話し合おうよ。確かに前田は何の力もない気持ち悪い男ではあるけれど、この前田にはなんだかよくわからないタイミングで都合のいいことが起こる運命なんだよ。だから、前田がここにいるだけで何かいいことが起こるはずだよ。でも、気持ち悪い前田がいる間は他の男が遊びに来ることもないんだろうけど、それはあんまり気にしなくてもいいんじゃないかな。多分、まー君がここに来ることを許可しないだろうし」

「うむ、薄気味悪い男が来てどうしようかと思っていたけれど、そういうことなら気にしないでおくか。不気味なオーラが滲み出て怖いと思ってしまっていたけれど、そのマイナスを塗り替えるほどの何か都合の良いものがあるのだとしたら気にしないことにしよう」


 俺のことを悪く言われることには慣れているはずなのだが、割と不気味に見える女にまでそう言われるのは少しだけショックだった。

 あの骨がいったい何なのか説明もされていないし、こんな不気味な場所にいる女にも薄気味悪いと思われる俺っていったいどれだけ酷い見た目なんだろうね。自分でもある程度は理解しているけれど、そんなにいう程かなって思ってるのは内緒にしておこう。


「一つ聞きたいんだけどいいかな?」

「何かな?」

「あそこにある骨って、人骨だよね?」

「人骨だね。人骨と言っても純粋な人間種だけではなく悪魔とか天使とかもいたりするけど」

「どうしてあんな風にベッドの上に重なってるの?」


「この島にかけられた呪いを解くために戦いに挑んだものの末路……ってやつさ」


 本当に良く無い予感がする。

 俺もあの骨の一部になってしまうんじゃないか。そんな予感がしていた。


 でも、そうなりそうになったら俺は別の世界に逃げればいいだけなんだけどね。

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