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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第五十三話 大人になれ

 大人になるというのはどういう意味なのだろうか?

 俺には簡単だと言い切っていたことから考えると、年齢的なものではないということだろう。さすがに年齢をごまかしたところですぐにバレてしまうと思うし、そんな単純な事であるのならば俺には簡単だなんて言い方はしないはずだ。

 きっと、誰にでも簡単に出来ることだって言ってくれるんだろう。


 では、俺には簡単だという大人になる方法とはいったい何なのか?

 経済的に自立した大人になれというのも無理な話であるし、精神的な面で大人になれというのであれば俺の精神はもう大人に近いと言ってもいいのではないかと自負している。

 ただ、そのどちらもこの女が言っていることと当てはまらないのではないかと考えられるのだ。

 なぜなら、そんな回りくどい言い方をすることなくハッキリと言ってくれそうだからだ。

 そう考えると、この女がハッキリと言いにくい事なんだろうと思う。


「俺になら簡単な話ってことだけど、どういう意味で簡単なのか教えてほしい。きっと、俺が思っているような単純なことではないんだと思うし、言い出しにくい事なんだろう?」

「うーん、そうだね。なかなかはっきりとは言いだしにくいことではあるんだけど、大丈夫。君なら簡単に出来るようなことだから。そんなに意識しなくても大丈夫大丈夫」

「言いにくいことだとしても、俺はちゃんと伝えてほしい。今のままじゃどうすればいいかわからないから」

「そう焦らないで。これから順番に伝えていくからさ」


 女はどこから取り出したのかわからない一冊の本を俺に手渡してきた。

 それを受け取った俺はどういうリアクションをすればいいのかわからなかったけれど、とりあえず表紙を見ていないふりをしてごまかそうとした。

 だが、それは当然うまくいくはずもなかった。


「とりあえずその本を見てもらいたいんだけど、それを一通り見てくれたら君にやってもらいたいことはおおよそ理解出来ると思うんだ。こうやって明るい場所で見るようなものじゃないかもしれないけど、陰でこそこそとするよりは少し健全に感じるでしょ?」

「どう考えても健全じゃないと思う。ここで見ようが自室で見ようがトイレの個室で見ようが健全じゃない。これって十八禁マークはついていないけど完全にエロ本でしょ。こんなのを見て理解出来るって意味が分からないんだけど?」


 いきなりエロ本を渡されて動揺してしまったが、この状況でエロ本を渡されて動揺せずに平然としていられるものがどれくらいいるのだろうか。少なくとも、俺が知っている中では何事もなかったかのように平然と受けることが出来そうなのは前田くらいしか思い当たらない。

 おそらく、前田は俺と同じ状況でエロ本を受け取っても何も感じることはなく冷静なんだろうな。


「その本に書かれているようなことを君に体験してもらいたい。ただそれだけの簡単な話なんだ」

「ちょっと待ってもらっていいかな。どの話を見ても俺が簡単に経験できるようなことじゃないんだけど。俺一人でどうにかできる問題でもないし。っていうか、大人になるってこういうことなの?」

「そうだよ。そういうこと。もちろん、私が何かしてあげるわけじゃないからガッカリしないでね」

「いや、それは別にどうでもいい」


 この女はいきなり何を言っているのだろうという思いとこんな奴の話を信じようとしなければよかったという思いが俺の中で交差していた。

 今更この女とかかわったことを無かったことにしたいと思ったのだが、ちょっと怒ったような感じで女は俺の腕を握ってきた。指がめり込んでしまいそうなくらい力が入っていて痛かったのだが、俺は動揺を見せないように冷静な感じを装っていた。


「別に君が私のことをどう思おうが勝手だけどさ、私の機嫌を損ねるようなことは言わない方が良いよ。そこのところは気を付けた方が良いんじゃないかな?」


 この女の機嫌を損ねるようなことを言ったつもりなんて無いのだけれど、大人になるために俺は悪くないと思っていても謝っていた。何でもかんでも自分が正しいと反論せずに相手の言っていることを聞いて丸く収めるのも大人の対応だろう。

 そう考えてみると、俺はもう大人になったといってもいいのではないだろうか。


「何考えてるか当ててあげようか?」

「いや、別にそういうのは良いかな」

「自分は悪くなくてもとりあえず謝っておけばいいって思ってたでしょ?」

「そんなことは、考えていないけど。別に、違うし」

「なんだかさっきと比べて語彙が少なくなってるよ。図星だったのかな?」


 俺が反論する前に女は続けた。

 こうして言いたいことをグッと堪えるのも大人の対応と言えるんじゃないかな。


「君は自分のことを大人になっていると思ってたんだろうけど、そういうのじゃないから。そういう他人から見てわかりにくい事じゃないんだよ。君がこれから大人になるために必要なことは、その本に描かれているようにサキュバスとセックスすることだからね」


 大人な俺は言葉を選んでうまくかわそうと思っていたのだが、この女はそんな俺の気遣いを無視するかのようにハッキリと言いやがった。

 確かに言いにくい事だったとは思うのだけど、そんなことを気にせずにこの女ははっきりと言いやがったのだ。


 ただ、サキュバスを相手にするなんて現実離れしすぎている。

 そもそも、この世界にサキュバスがいたとしても俺はそんな奴に遭遇する機会なんて無いだろう。


「大丈夫。そんなに心配しなくてもいいから。今までの君じゃ出会うことは出来なかったけど、それを一回読んでしまえば君の前にサキュバスが現れることになるよ。でも、一般的なサキュバスを相手にするだけじゃダメだからね。伝説と呼ばれるほどの凄いサキュバスに出会うというのが重要だから。それが前田と君の世界を繋げる唯一の希望だからね」

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