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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第四十九話 俺だけの前田

 クラスのみんなが前田と積極的にコンタクトを取ろうとしていないことは理解していた。俺もみんなが前田と仲良くならなくてもいいんじゃないかと思っていたので積極的にかかわらせるようなことはしていなかったのだけれど、一緒に授業を受けたり下校した女子たちまで前田のことを綺麗に忘れているということに衝撃を受けた。

 空いている席があることに疑問を抱いているものがいない時点で想像はついていたのだけれど、こうもはっきりと前田のことを知らないと言われることに対して俺はどう思えばいいのか気持ちの整理がつかなかった。


「よくわからないけどさ、その前だって人の写真とかあったりする?」

「前田は写真が嫌いだから一枚もない」

「そっか、他の学校の友達にも前田って人がどこかにいないか探してもらうことにするわ。まー君の探している人なら多分わかると思うから」


 前田がいつかいなくなるということを俺はわかっていたのだから隠し撮りでも何でもいいので一枚くらい写真を撮っておけばよかった。前田は記録に残ることを嫌がるので面と向かって写真を撮ることなんて出来ないし、無理やり写真を撮って嫌われたくないという思いもあった。

 でも、こうしてクラスメイトが協力してくれるという可能性があるのなら一枚くらい写真をとっておいた方がよかったんじゃないかという考えも俺の中で生まれつつあった。

 そうはいっても、前田がいなくなったことを俺が認識した時点でこの世界から前田が消えている可能性の方が高いのも、また事実なのである。


 前田がこの世界にいないということを証明してもらえるためにもみんなの協力はありがたいのだけれど、俺以外の人が前田を発見してしまうというのは避けてほしい。そんなわがままな思いのまま俺は捜索活動を行っているのだ。

 絶対にこの世界にいないという確信を持てれば次のステップに移行することが出来るし、俺はそれを強く望んでいる。

 今では不可能なことを未来では可能なことにする。これ以上この世界に残って無駄な時間を過ごす必要はない。

 俺のことを必要としている人は俺には不必要であり、そんな彼らが不必要だと思っている前田は俺にとって必要な存在なのだ。



 俺と一緒に前田を探すという口実を得た女子に付きまとわれつつも俺は俺なりに思い当たる場所を探している。

 思い当たる場所にいればこんなに苦労することはないとわかってはいるけれど、俺にはほかに探せるような場所なんて無い。

 前田の家に行って前田の部屋に入ることが出来ればいいのだろうけど、前田の家に入って二階に上がることなんて今の俺には出来ない。俺が前田の家に行くことが出来たとしても、俺が二階に行って前田の部屋に入る理由なんて俺以外には理解出来ないのだ。

 そんなことを考えながらも前田を探している俺に女子たちは何か話しかけてはいるのだが、俺はそれに対して答えることなど何もなかった。それなのに、女子たちは飽きもせずに俺に話しかけ続けていた。


 だが、いつもトンネルに差し掛かると女子たちは他の場所を探すと言って引き返していった。

 この道を通る時はいつも前田と二人だったのに、今は知らない女子と二人。

 女子と二人?

 俺は今までになかった経験に戸惑い、驚き、立ち止まってしまった。


「あれ、これから前田を探すんだよね? こんなところで立ち止まっちゃっていいのかな?」

「良くないけど、お前はいったい誰だ?」

「誰って言われても、君のことを知っている者だけど。前田を探すヒントを上げようかなって思ってついてきたんだ。みんながいなくなるタイミングもわかっていたし」


 俺は何と言って良いのかわからず答えに詰まっていたのだが、促されるままに足を進めていると、いつの間にかトンネルを抜けていた。

 そこに広がっている光景はいつもとは違う見慣れない墓地であった。

 墓地自体は見飽きるほど見ていたはずなので見間違えることはないのだが、俺が今まで見てきた墓地よりも随分と年代が古いように思えた。墓石も綺麗な縦長のものはなく小さく苔むしたものが並び数えきれないほどの真っ黒い卒塔婆が見えていた。


「内緒の話をしたいんで誰も来れないところに来たんだけど、驚いちゃったかな?」

「俺が知ってる後継とだいぶ違うんで驚いてはいるけど、これっていったいどういう演出?」

「演出か、言われてみればそういうことになるかもしれないな。あたしはただ他の人に邪魔されない時に来ただけなんだけど、いつもの場所でも誰かがやってくる心配はなかったかもね」

「トンネルを抜けた先がいつもと違う光景ってのは理解出来ないんだろうけど、君が前田のことを知っているということは何か特別な力があるってことなんだろ?」

「察しが良くて助かるよ。色々と説明するのも面倒だからね。君が知りたい答えを先に言うけど、早まったことしちゃだめだからね。君たちはいつも話を最後まで聞かずに自分勝手に行動しようとする癖があるから気を付けてね」


 何をどう気を付ければいいのかわからないが、この女は俺と前田のことを知っている。

 それも、クラスメイト達とは違う本当のことを知っているような口ぶりだ。

 トンネルを別の時代につなげることが出来るくらいなんだから知っていても当然かもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 俺は前田が本当にいなくなったのかどうかだけ知ることが出来ればいいのだ。


「君の前田はもうここにはいないよ。ここって言っても君がいる場所って意味だからね。おっと、早まったマネをしようとしないでほしいな。君にはやってもらうことがあるんだからね」


 俺の持っていた護身用のナイフは胸ポケットから消えていた。

 先ほどまで確かに感じていた重量感がいつの間にか消えていたのだが、いつ消えたのか俺には全く分からなかった。

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