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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第四十八話 俺の知ってるまー君の俺が知らない話

 俺の幼馴染の前田は定期的にこの世界から存在そのものが消えている。

 俺以外誰も気にしていないのが気になるのだが、この世界に前田がいたという痕跡も少しずつではあるが、前田と一緒に消えている。

 そのことに気付いたのはきっとこの世界で俺だけなのだろう。俺以外に前田のことを気にしている人がいないということなのかもしれないが、もう少し気を使ってあげればいいんじゃないかな。

 誰も座っていない席が教卓の目の前にあるのに誰も気にしていない。

 先生も生徒もみんなみんな気にすることはなく淡々と日常が過ぎている。

 席替えがあってもその席は誰も座ることがない。

 もちろん、俺は前田の席に座ることはない。

 あいつがいたという痕跡を俺が上書きしてしまうような気がしていたからだ。


「あいつから聞いたんだけどさ、まー君って部活全部やめちゃったの?」

「誰から聞いたのか知らないけど、俺はもう部活動には参加しないよ。参加する意味がなくなったから」

「そうなんだ。それだったらさ、私たちと一緒に放課後遊びに行こうよ?」

「たまにはクラスメイトと遊ぶのもいいんじゃない?」


 俺が部活をやめたことがこいつらとどう関係あるのだというのか。俺が部活をやめたからと言って暇になったわけではないし、暇だったとしてもこいつらと遊ぶような時間は俺にはない。

 それなのに、こいつらは俺のことを無視して勝手に話を進めようとする。

 俺にはやらないといけないことがある。

 前田がどこにいるのか突き止めるためにやらないといけないことがあるのだ。


「じゃあさ、美咲ちゃんと良子ちゃんも誘ってカラオケに行こうよ。私まー君の歌聞きたいな」

「いいね、学割使えば安くなるし、飲み物とかお菓子も買っていこうよ」


 俺は行くなんて一言も言っていないのに勝手に話が進んでいる。今すぐにでも抗議しようとしたのだけれど、俺が話す間を与えてくれない。さっと割り込んでしまえばいいのだけれど、どうも俺は女子と話すのが苦手なのか高い声を聞くと体をうまく動かすことが出来ない。

 こんな時に前田がいればこんな奴らをさっと排除してくれると思うのだが、俺が必要とするときにはいつもいなくなっている。


 いや、前田がいなくなっているからこそ必要だと感じているのかもしれない。

 どうしてあいつはいつも急にいなくなってしまうんだろう。

 いなくなる時には俺に教えてくれればいいのに。


「何々、カラオケに行くんなら俺たちも一緒に入れてよ」

「そうそう、俺ら採点にはまっててランキングも上位に入るくらいだから、一緒に行くしかないっしょ」

「ええ、今日はまー君と女子会って決めてるからな。汗臭い男子がいたら部屋の中の空気悪くなっちゃうでしょ」

「いやいやいや、体育で汗かいたの俺らだけじゃなくまー君も一緒でしょ。それって差別じゃん」

「まー君は良いの。いつもいい匂いだし、誰も嫌がってないからね。それに、差別じゃなくて区別だし」

「意味わかんないんだけど。じゃあ、まー君は俺ら男子と一緒にカラオケ行こうぜ。その方が盛り上がるっしょ」

「ちょっと勝手なこと言わないでよ。今日は私たちとまー君がカラオケに行くんだから」

「そんなの関係ないって。男子だけで行った方が楽しいって」


 俺がカラオケに行くことが前提になっているみたいだけど、俺はこいつらと遊んでいる時間なんて無いんだから行くはずがない。

 それなのに、時間が経つにつれて話が大きくなっているような気がする。

 休み時間だけではなく、授業中も誰が俺と一緒にカラオケに行くかで揉めている。俺がはっきりと言えば揉めることになんてならないのだろうけど、ここまで話が大きくなってしまうとなかなかに言い出しにくい。

 やっぱり、前田がいないと俺はダメなのかもしれない。


 前田を探しに行かないといけないんだ。


「俺は誰ともカラオケになんて行かないよ。やらないといけないことがあるから」


 放課後になってもまだ揉めているクラスメイト達に向かってではなく、俺は外の景色を見ながらハッキリと言った。

 あんなに騒がしかった教室内が一瞬で静まり返って空気が一変したのだが、俺はそんなことは気にせずに前田が歩いていないか外を必死に探していた。


「そっか、カラオケに行かないんならしかたないか。じゃあ、カラオケはやめだな」

「そうね。まー君がいかないんだったらカラオケに行く意味もないしね。でも、せっかくだしどこか寄って帰ろうか」


 もう少し何か言われるのじゃないかと覚悟はしていたのだけれど、俺が考えていたようなことは何も起こらずにあっさりとみんな受け入れてくれた。

 こんなことだったらもっと早くに断っておけばよかった。

 そう考えていたけれど、あの空気の中で興味もない人に話しかけて断るというのはなかなかに勇気がいることだと思う。


「カラオケに行かないってのはわかったんだけど、何か用事でもあるの?」


 クラスの中心人物的な女子が俺の近くに寄ってきて質問を投げかけてきた。

 その質問に答える義理なんて俺にはないのだけれど、これからも同じように誘われるかもしれないと思うと答えていた方が良いように思えた。毎回ごまかすのも面倒になりそうだし、前田を探すことを伝えておけば今回みたいに誘われることもないだろう。


「俺はいなくなった前田を探さないといけないんだ。どこに行ったのかわからないけど、俺には探さないといけない理由があるから」

「そうなんだ。人探しをしなくちゃいけないんだったら遊んでる暇なんて無いね。もしよかったらなんだけど、その前田って人の特徴を教えてもらっていいかな。私たちも探すの協力するからさ」

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