第四十六話 幼女かセクシーか
この世界の果てにあるという伝説のサキュバス島。
歩いて到達することは不可能であり、馬車や船を使ったとしても俺の残り寿命でたどり着けるか微妙な距離らしい。そこまでどうやって行くのかと思いながら昨晩は眠りについたのだが、この世界は魔法が使えるということをすっかり忘れていた俺はとても間抜けな顔をして話を聞いていたんだと思う。
「不細工な顔をしているけど、お前は魔法で転移するのは初めてだったよな?」
「転移どころか魔法を体験するのも初めてだけど」
「うわ、そうなのか。その年でまだ魔法を体験してないなんて、やっぱり不細工は違うな。普通だったら回復魔法とかバフをかけてくれると思うんだけど、お前は不細工だから誰も相手にしてくれなかったってことだもんな」
この世界に来るまで魔法に接したことがなかったし、俺のいた世界には魔法なんて存在していなかったと思う。魔法じゃないかと思うようなことは何度か見たことはあったけれど、公式に魔法は存在していなかったはずだ。
それなのに、俺が魔法を体験していないということが恥ずかしいみたいに言うのはやめていただきたい。自分が不細工だということは重々承知しているけれど、そんなにはっきりと言われてしまうと必要ないのに傷付いてしまうじゃないか。
「まあまあ、そんなにきつく当たらないで上げてよ。この子はこことは違う世界からやってきたんだからね。他の世界では魔法は一般的じゃないんだよ。だから、この年まで魔法を未体験だったとしても何にもおかしい事じゃないんだからね」
「ええ、でも、さすがにこの年まで未体験っていうのは遅すぎるでしょ。普通は幼稚園くらいで体験するのに、この年で初体験とか刺激が強すぎるんじゃないかな?」
「大丈夫大丈夫。そのためにあなたを呼んだのよ。あなたはこの国で一番手加減が上手なんだから選ばれたのよ」
「うう、その言い方だと手抜きが上手みたいに聞こえるからなんか嫌だ。私は別に手抜きなんてしてないし」
「それはわかってるって。あなたはこの国で一番優しい魔法を使えるってことなんだから、それは誇っていいことだと思うよ」
「わかった。お姉さまにそう言ってもらえるなら私も頑張るよ。うまなちゃんとイザーちゃんにもよろしくって言われたし、まー君も期待しているって言ってくれたもんね。よし、私ちゃんと本気で手加減するよ」
泣きそうになっていた幼女の魔法使いはサキュバスみたいにセクシーなお姉さんに説得されて俺に魔法を使ってくれるみたいだ。
いったいどんな魔法が待っているのかわからないが、昨日見てしまった麻奈ちゃんとイザベラちゃんが使っていたような命にかかわりそうな魔法じゃなければいいなと思っていた。
そんな俺の思いは天には通じなかったようだ。
幼女の魔法使いの周りに禍々しいとしか言いようのないオーラが漂い、そのオーラは少しずつ顔のように見えてきているのだけれど全てが苦痛に歪んでいる。どこからどう見ても俺を殺そうとしか思えない印象を受けるのだが、これでもこの幼女はこの国で一番手加減が上手だという話だ。
魔法のことについて知っているのは座学で習った基礎的な知識と麻奈ちゃんとイザベラちゃんが使っていた相手を一瞬で殺すというものだけだ。俺の知っている知識に照らし合わせると、どう見繕っても後者の方が選ばれそうな魔法ではある。それなのに、幼女もセクシーなお姉さんも俺に対して何か気にかけている様子は見られない。
むしろ、俺があの凶悪そうな魔法を食らって死ぬところを楽しみに待っているようにしか思えないのだ。
だが、ここで言い表すことが出来ないような違和感を覚えた。
麻奈ちゃんとイザベラちゃんが使っていた魔法が何なのかわからないのに恐怖を感じていたのに対して、この幼女が使っている魔法からは俺がこの場から逃げたしたくなるような恐怖を感じることはなかった。麻奈ちゃんとイザベラちゃんの魔法に比べると比較にならないほど大人しい感じがするということを考慮しても、この幼女の使っている魔法からは命を刈り取られるというような恐怖は感じなかった。
でも、見た目だけはとんでもなくヤバいものだとしか思えなかった。
「私の開発したこのデッドオアスリープで気持ちよくいかせてあげるからね。大丈夫、次に目覚めた時はちゃんと目的地に着いているはずだから。お前の体が無事だったらってのが前提だけど」
「ちょっと待って、その魔法がどんな魔法なのか想像もつかなったんだけど。いや、見た目で何となくヤバそうな感じはしてたけど、それは怖いって感じじゃなくて見た目がヤバいって話だよ。それよりも、その魔法の名前って本当にそれでいいの?」
「良いも悪いもないでしょ。死ぬか寝るかの二択なんだから間違ってないし」
「ちなみになんだけど、寝る確率ってどれくらいなのかな?」
「相手に寄るとしか言えないけど。お前だったら死ぬ方が若干確率高いんだと思うかな。八割くらいの確率で死ぬと思うよ」
世の中ではそれを若干とは言わないと思うのだが、俺の言葉を待たずに死神に出会ってしまったような人の顔みたいなオーラが俺の全身を何度も何度も貫いていった。
苦しみは感じなかったが、それ以外の感覚もなくなっていた。
俺は意識が薄れていくという感覚もないまま何もわからない世界へと落ちて行ったのかもしれない。




