第四十三話 魔法の才能
運動と違って魔法は才能の差なんてほとんどないと思い込んでいた。ちょっとした努力と経験で何とでもなるモノだとばかり思っていたのだが、麻奈ちゃんとイザベラちゃんの使っている魔法を見てそれが間違いだったと思い知らされた。
魔法の成長速度は運動とは比べ物にならないくらい才能が関わってくるようで、全く才能がないと言われた俺は魔法を使うことを諦めようと思ってしまっていた。
基礎知識として魔法のことを覚えた後は他のことを学んだ方が良いのではないかと思いながらタブレットを見ていると、俺の心を読んだかのようなタイミングでうまなちゃんとイザーちゃんが教室へやってきた。
「麻奈ちゃんとイザベラちゃんの魔法は凄いんだよ。私たちも魔法を使って初日であそこまで凄い魔法を使うことは出来なかったもんね」
「あんなに派手な魔法は思いつかないもんね。私たちは地味な魔法しか使えなかったんだよ。君も二人の魔法を一度見てくるといいんじゃないかな?」
俺が教室を抜け出して二人の様子を盗み見に行ったことを知らないのか、知っていてあえてとぼけているのかわからないが、俺は正直に答えることにした。今更何かを繕ったところで何も変わることはないと思ったからだ。
「さっき教室を抜け出して二人の魔法を遠くから見てきたよ。俺が想像していた魔法とは全然違う感じで驚いちゃったんだけど、あの二人があんなに凄い才能を持ち合わせていることに驚いて逃げ出しちゃったんだ」
「そうだったんだ。あの二人の魔法をこっそり見ちゃってたんだね。まあ、それは君にとっていい経験になったんじゃないかな」
「さっき様子を見に来た時に君がいなかったから、私たちはてっきり君がトイレにでも行っているのかと思ってたんだ。でも、あの二人の使ってる魔法を見てたってことは、君も何か感じることがあったんじゃないかな?」
「俺も魔法が使えるんじゃないかって思ってた時期もあったんだけど、さすがにあの二人の才能を目の当りにしたらそんな事は考えられなくなっちゃった。先生たちにも俺には魔法の才能がないって言われているし、他のことに力を入れた方が良いんだろうなって思い知らされたよ」
俺は魔法を使いたいという気持ちを捨てきれずにいたのだが、あの二人の魔法を見ているとそんなことを考えることさえ恥ずかしくなっていた。何事も見極めることが肝心だということを俺は今までの経験から学んでいるし、努力で越えられる才能と努力で越えられない才能の違いだって理解している。
何度もテストを繰り返してあいつの点数を超えることは出来たけれど、どんなに努力しても勉強以外の面であいつを超えることは出来なかった。その経験があったからこそ、俺は麻奈ちゃんとイザベラちゃんの才能を超えることが出来ないと思っているのだ。
「君は盛大に勘違いしているよ」
「うん、何もかも間違っているかな」
「どういう……こと?」
俺がいったい何を勘違いしているのだろうか?
間違っていることがあるというのはわかるのだが、何もかもというのはどういう意味なのだろうか?
困っている俺の顔を見てうまなちゃんとイザーちゃんは吹き出しそうになっているが、真剣に悩んでいる俺はそんなことを気にする余裕はなかった。
「まず第一に、麻奈ちゃんもイザベラちゃんも魔法の才能なんて一切ありません」
「君たちが暮らしていた世界に魔法が存在していないのだから、魔法の才能がないのなんて当たり前の話だよね」
「才能がないのに何であんな魔法を使えるんだろうって思ってる顔だね」
「君の疑問は簡単に答えにたどり着くんだよ」
魔法の才能がないのにあんなに凄い魔法を使えるということは、俺にもチャンスがあるということなのかもしれない。
今は能力を使わないことになっているからどうすることも出来ないけれど、俺がその約束を破って能力を使えばあの二人よりもすごい魔法使いに慣れる可能性があるということなのだろうか。その答えを今すぐにでも知りたい欲求に駆られてしまった。
「ああ、その考えは良くないな。あまりにも短絡的すぎるよ」
「まー君との約束を破って能力を使うなんて考えない方が良いよ。場合によっては、死んだ方がマシなんじゃないかって苦痛を味わうことになるかもしれないんだからね」
「もちろん、これは脅しなんかじゃないよ。君のためを思って言ってることだからね」
「私たちも君に何かしたいなんてこれっぽっちも思っていないけれど、約束を破っちゃったらどうなっても知らないって話だから」
あまり余計なことを考えない方が良いのかもしれない。余計なことを考えたところで何も事態は変わらないし、俺の心を読んでいる二人に知られたことで俺に対する印象がより悪いものになってしまうかもしれないのだ。
だからこそ、俺は才能がない二人はどうしてあんなに凄い魔法を使うことが出来るのかということを知りたくなった。
「俺にも麻奈ちゃんにもイザベラちゃんにも魔法の才能がないってことだけど、あの二人があんなに凄い魔法を使うことが出来るのはなぜなの?」
「一言で言ってしまうと、あの二人がこの世界に連れてこられたことに対する恩恵の一つだね」
「世界で三番目に凄い魔法使いになれる可能性が与えられているんだよ」
「世界で……三番目って?」
「「この世界には、私たちがいるからね」」




