第四十一話 過去一楽しい授業
座学というのは退屈で時間が遅く感じてしまうものだと相場が決まっているのだが、全く知らない魔法についての授業は未知の世界を切り開くものであるため最後まで気を抜くことが出来なかった。
何一つとして理解することは出来なかったのだけれど、全く知らない分野で俺が興味を持つ世界の事だったので何の苦も無く時間が足りないと思ってしまった。思わず過去に戻ってもう一度授業を受けなおしたいと思ったのだけれど、そう思ったと同時に俺の両脇にうまなちゃんとイザーちゃんが立ってこちらをじっと見つめていた。
「絶対に余計なことはするなよ」
口には出さないものの表情を読み取った感じではそういうことを伝えたいのだと理解できた。その証拠に、俺が過去に戻りたいと思わなくなった時には二人は元の席に座って退屈そうに外を眺めていたのだ。
「あの、理屈は全然わからないんですけど、何となく魔法が使えるような気がするので実践にうつってもいいですか?」
「あたしもイザベラちゃんと一緒に実践に行きたいんですけど。大体、別の世界に来てまで授業を受けるなんて聞いてないし、こいつと一緒なんて無理なんですけど。だから、あたしたちはさっさと実践にうつった方が良いと思うんですけど」
俺たちがいた世界とよく似ているのに全く違う世界の授業は楽しいと思ったのは俺だけのようで、麻奈ちゃんとイザベラちゃんの二人は授業の内容はちゃんと理解していないものの魔法が使えるといった口ぶりだった。
そんなに簡単に魔法が使えるのなら苦労しないだろうと俺は思っていた。
テストのたびに過去に戻ってやり直していた俺は二人よりも何億倍も勉強をしていた事になるのだが、そんな俺でも魔法に関しては何一つ理解することが出来ず目の前で見てもどうして魔法が使えているのかわからない。手品のタネを明かされているのに目の前で行われている手品を見抜けないような感じなのだ。
何事も何となくで始めるとあとで後悔するということを俺は知っている。どんな事でもきっちりと理解してから始めた方がスタートで遅れてもすぐに追い抜けるものなのだ。だからこそ、二人にもちゃんと理解してから魔法の実践にうつってほしいと思っている。
悲しいことに、俺よりも才能があると言われている二人だからこそ、基本からしっかりとマスターして成長してほしいと思っているのだ。おそらく、そう思っているのは俺だけではなく先生方も同意見だと思う。
「確かにあいつと一緒の授業というのは耐えられない苦痛かもしれないけれど、この世界に来て間もない君たち二人がこの世界で魔法に慣れるための時間も兼ねて授業をしているのだよ。少しずつでも我々の魔法に慣れることで君たち二人の才能をより豊かにするための下地になると思うんだけどね」
「まだこの世界に来たばっかりなんだし、もう少しゆっくりとしてもいいんじゃないかな。そいつと同じ空間にいるのが耐えられないって気持ちはわかるんだけど、もう少しだけ我慢しようよ」
「君たちには恵まれた才能があるんだから焦る必要なんてないよ。どんな事でも基礎をしっかりとしておかないとあとで後悔することになるんだからね」
「とりあえず、昼ご飯の時間までは我慢して授業を受けてほしいな。午後からは実践にうつると約束するから」
「感覚で全てを理解する天才を今まで何人も見てきたが、ことごとく小さな壁を乗り越えられずに散っていった。基礎が出来ていればなんてことのない小さな壁すら乗り越えることが出来ないものを我々は見てきたんだよ。だからこそ、基礎だけはしっかりと身につけてほしい。魔法に関しては、大は小を兼ねないんだからね」
先生方の言いたいことはよくわかるのだが、俺のことを悪く思いすぎじゃないだろうか。俺が今まで能力をたくさん使ったことで多くの人から嫌われているというのはわかったのだけど、こうして面と向かって言われるのは少し心に来るものがある。俺だって傷付くことはあるのだということをわかってもらえればいいのだけど、そんなことを気にしてくれるような人はここにはいなかった。
うまなちゃんとイザーちゃんも俺を慰めてくれるような様子は見られないし、麻奈ちゃんとイザベラちゃんにいたっては俺からさらに離れた席に移動していた。イザベラちゃんまで移動しているのは少し悲しかったけれど、きっと麻奈ちゃんに合わせているだけだよな。あんなに優しいイザベラちゃんなんだから、そうに違いない。
その後も何一つとして理解出来ない授業が続き、昨日とは違って割と簡素な料理がそれぞれのもとへ運ばれてきた。
ホットドックとビーフシチューのような料理が出てきたのだが、見た目から想像できる味と一切変わらぬ美味しさでこれと言って感動はなかった。感動はしなかったけれど、もう一つ食べてもきっと大丈夫だろうと思ってはいた。
昼食に関して一つだけ悲しかったことがあるのだが、うまなちゃんとイザーちゃんが二人で一緒に仲良く食べているのは良いとして、俺は配膳だけしてもらってあとは一人で黙々と食べていたのだ。
でも、麻奈ちゃんとイザベラちゃんたちの周りには先生たちが集まって今までこの世界に現れた魔法の天才たちの話を順番にしていたのだ。その話を授業で聞きたいと思っていた俺ではあったが、あの感じではきっと俺には教えてくれないのだろう。それはそれでいいのだけれど、五人もいるんだから一人くらいは俺のところに来てくれてもいいんじゃないかなとは思っていた。
魔法のことで聞きたいことがあったのだけれど、とても聞ける雰囲気ではない。
午後の授業では気になったことはその場で聞いてみよう。




