第四十話 戦いの才能
楽しくもつらい修行の前に先生たちに挨拶をするのだけど、俺は完全に無視されていた。無視をされることに慣れてはいるとはいえ、初対面の人たちから無視されるのは少し心に来るものがあった。
五人いる先生は麻奈ちゃんとイザベラちゃんの事しか見えていないのではないか。そう思えるくらいに見事に俺は無視されていたのだが、うまなちゃんとイザーちゃんが俺のことを軽く紹介してくれたことでどうにか認識だけはしてもらえたようだ。
「君たちが興奮する気持ちはよくわかるけど、もう一人生徒がいるということも思い出してほしいな。この子は戦闘に関しての才能は皆無だから目に入らないのかもしれないけど、最低限の知識だけは与えてね」
「何も知らないまま戦場に放り出されて危険な目に遭うとこっちが迷惑しちゃうからね。これは私たちのお願いじゃなくて、まー君からの命令だから。そこんとこよろしくね」
俺のことを完全に無視していた先生たちもまー君の名前が出たことで仕方ないといった感じで俺のことも気にしてくれるようになったんだと思う。
そうは言っても、麻奈ちゃんとイザベラちゃんの方が気になるようで俺のことは認識はしたけどそれだけだ。たまに俺のことを見てはくれるのだけど、それ以上の接触は一切なかった。
「ごめんね。君が悪いんじゃなくてあの二人が凄すぎるだけだから」
「ちゃんと修行すれば魔王にも引けを取らないくらいに強くなる可能性があるんだよ」
「君はどんなに頑張っても戦闘向きではないからね」
「かと言って、何か役に立つ能力もなさそうだからな」
「別の世界に移動する能力が凄すぎるから仕方ないんだけど」
「そこにリソースを割きすぎてしまったのがよくなかったのかもね」
「それって、俺は魔法とか使えないってこと?」
「まあ、そう言うことになるね。でも、最初から君が戦闘に参加する必要はないし」
「私たちが戦闘は全部やっちゃうから。っていうよりも、この世界で私たちに戦闘を仕掛けてくるような人がいるか疑問だけどね」
「私たちに喧嘩を売るってことは、まー君を敵にするって事だもんね」
ハッキリ言われるまで俺は自分にも魔法が使えるんじゃないかと期待していた。
別の世界に移動してやり直す能力が使えるんだから魔法くらい難なく使えるだろうと考えていた。誰だってそう考えるだろう。
だが、現実はそう上手くいくものではなかった。
俺が使っている能力は気楽に使っていいような代物ではなく、命を失ってもおかしくないくらいに代償が大きいようだ。俺は戦闘に関するものを全て犠牲にすることによって能力を使えるようになっていたのだが、この世界に来るまで戦闘というものに縁がなかったので気付かなかった。
そもそも、日常的に戦いが起こるような世界に自分が行くことになるなんて思ってないからそのことに気付くはずもないのだ。
「それにしても、この二人の才能は底が見えないな。これほどの能力者は長い歴史の中でも数えるほどしかいないだろう」
「それが同時に二人も現れるなんて、奇跡としか言いようがない」
「二人の適正はどこにあるのかわからない。というよりも、すべてに対して適性があるようにも思える」
「魔法の基礎を学ぶだけでも全てを超越した魔法使いになってしまうのではないか。そんな気にさせるだけの器があるな」
「育成が失敗したとしても世界屈指の実力者にはなれるだろう。だが、その程度で終わらせてしまうのは我々の名が廃るというものだ」
「紙より授けられし能力とは別に生まれ持った才能もあるようだし、どれほどの魔法使いになるのか楽しみだな」
「いや、魔法だけではなく武術の面でも才能が有りそうだ。魔法だけではなく様々な武器を使った戦いも極めてしまうのではないだろうか」
「この二人であれば、伝説の十二武器を使いこなせるかもしれんな」
俺とは対照的に麻奈ちゃんとイザベラちゃんはこの世界に来たことで多くの恩恵を受けているようだ。
もともとの才能も有るようなのだが、この世界に移動させられたということで俺にはないものを無数に授かっているという。俺だってこの世界に好きで来たわけじゃないし、世界を移動するなんて思いもしなかったんだ。だから、俺にだって何か一つくらい戦う才能をくれたっていいんじゃないかと思うのだが、この世界はそこまで甘くないらしい。
それにしても、麻奈ちゃんもイザベラちゃんも困惑はしつつも褒められてうれしいといった感じに見える。
少しだけ攻撃的な面がある麻奈ちゃんが戦いの才能があるのはおかしな話ではないけれど、いつも優しく聖母のようなイザベラちゃんにも戦いの才能があるというのは少し不思議に思えた。
普段優しい人ほど怒らせると怖いということもあるのだろうが、俺がイザベラちゃんを知ってから一度も怒ったところを見たことがない。そんな話も聞いたことはなかった。
だけど、戦いの先生たちが持っている色々な武器を見ているイザベラちゃんはどこか嬉しそうに見えていた。
俺の気のせいかもしれないのだけれど、今すぐこの武器を使ってみたいと思っているように見えていた。
もしかしたら、イザベラちゃんは三人の中で一番好戦的なのかもしれない。そんな風に思わされるのであった。




