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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第三話 「ねえ、今何してる?」

「ねえ、まー君から連絡きたの?」

「うん、もう少しかかりそうなんだって」

「そっか、別にあたしに連絡くれてもよかったのにね。さっき送ったのにも既読ついてないし」

「あいつも今は忙しいから仕方ないよ。俺のメッセージを先に見ただけなんじゃないかな」

「そうかもね。タイミングミスったかも」

「なんかごめん」

「まったくだわ。次から気を付けて」

「ちゃんと見るように伝えておくよ。あいつって意外と面倒くさがりなところあるからさ」

「別にそこまで頼んでないけど。でも、気を使ってくれてありがとう」

「どういたしまして。麻奈ちゃんは今日の宿題終わった?」

「宿題なんて授業中に終わらせたけど」

「そうだよね。俺も授業中に終わらせたよ」


 もしかしたら、今月になって一番長く麻奈ちゃんと会話できたのかもしれない。今までは俺と麻奈ちゃんの間に必ずあいつがいたから会話らしい会話もしたことがなかった、それを思えば今みたいに二人っきりでいる時間は俺にとってかなりのチャンスなのではないだろうか。あいつがいない今の状況を利用して今までできなかった会話をたくさんするべきなのだ。

 でも、俺と麻奈ちゃんの間にありそうな共通の話題は宿題をやったかどうか位しかないのだ。お互いに部活も入っていないし委員会だって所属していない。クラスが同じだということ以外に俺と麻奈ちゃんに共通点は一つもないのだ。大きなくくりで考えればいくらでも出てくるのだけど、そんなことを考えなければいけないというのは我ながら情けなくなってしまう。

 何かをきっかけに話しかけたい気持ちはあるのだけれど、俺の切り札である宿題を教えてあげるという作戦も通用しなくなった今、本当に話しかける話題が見つからない。麻奈ちゃんが興味ありそうなドラマも見てないし歌番組だって見ていない。俺が普段やっていることといえば、麻奈ちゃんが興味を持たなそうな漫画を読んでゲームをやっているくらいしかないのだ。あいつだったらそんな話題に食いついてくれるのだろうが、麻奈ちゃんはきっとそんなものに興味なんて持っていないだろう。

 俺が武器として持てるものはあまりにも少なすぎる。


 あいつからの連絡はあれっきり音沙汰もなく送ったメッセージにも既読はつかないのだが、あと五分待って何も進展がなければ勇気を出して麻奈ちゃんに話しかけてみよう。いや、五分では俺の心の準備も整わないだろうから十分は待ってみようかな。やっぱり、十五分待っても何もなければ話しかけてみよう。いきなり告白するわけでもないし、そんなに深く考えることもなく気軽に話しかけてもいいはずだ。あいつみたいに気軽に話しかけても問題はないだろう。問題なのは、なんて話しかければいいのかわからない問うことだけだ。

 話をすることに対してそんなに気負う必要なんてないはずだ。気軽に話しかけてみれば案外会話が成り立つかもしれない。昨日の夜に何を食べたとか好きなアーティストの話とか最近会った面白い出来事とかなんでもいいはずなのだ。あいつが俺にいつも話しかけてくるようなことを俺が真似するだけでいいんじゃないか。あいつを参考にすればいいだけなんだし、気楽に考えればいい話だろう。

 いや、待てよ。そんな気楽に考えてもいいものなのだろうか?

 そもそも、俺は昨日の夜に何を食べたんだったか?

 俺の好きなアーティストを言ったところで麻奈ちゃんは興味を持ってくれるのだろうか?

 俺の身近で何か面白いことが起こったのだろうか?

 考えてはみたものの、あいつが気軽に話をしているようなことも俺の立場に置き換えてしまうとどうにもうまく会話を広げることができないような気がしてきた。

 授業中はあんなに遅く感じていた時間がこんな状況下ではいつもよりも早く進んでいるように思える。自分で設定してしまった十五分まであっという間に時間が経過していくように感じている。十五分後というのはキリも悪いので、二十分後に話しかけてみよう。その方がお互い気持ちの整理もつけるだろう。


 盗み見ているわけではないのだけど、麻奈ちゃんはずっとスマホをいじっている。

 誰かと連絡を取り合っているようには見えないので何かを見ているのだろう。俺の席からはスマホの画面は当然見えないので麻奈ちゃんが何を見ているのかまではわからないが、笑っている感じもないので面白い動画を見ているということではなさそうだ。

 スマホを見ているときに話しかけないのはマナーかもしれないので今は話しかけるタイミングではないだろう。自分で決めた時間まではまだ余裕もあるのだから焦る必要はない。もしかしたら、麻奈ちゃんの方から話しかけてくれるという奇跡が起きる可能性だってあるのだ。


「ねえ、今何してる?」


 急に話しかけられた俺はどう答えていいのかわからずに固まってしまった。

 今何をしているのかと聞かれても麻奈ちゃんに話しかけようと思っていたとしか答えようがない。そんなことを答えてもいいのか迷っているのだが、せっかく麻奈ちゃんの方から話しかけてくれたのだから答えないと失礼だろう。

 勇気を出してその質問に答えようとしたのだが、あまりにも緊張してしまっていたのか喉の奥が閉じたような感覚になっていてうまく言葉が出てこなかった。


「そうなんだ。あたしは教室でまー君が戻ってくるのを待ってるんだけどさ、全然戻ってくる気配がないんだよね。イザベラちゃんはもう家に着いたの?」


 あ、俺に話しかけたわけじゃないのね。

 冷静に考えると、同じ教室にいるのに何をしているか聞くなんておかしな話だよな。

 変なことを言わなくてよかったと心の底から思っていた。

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