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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第三十六話 ノックの音

 ゆきのちゃんと愛華ちゃんが急に消えてから十五分ほどたったと思うのだが、俺は小気味よく続くノックの音で目を覚ました。


コンココンコココンコン


 誰が来たのだろうと思いながらも心地よい疲労感に包まれていた俺は面倒になってノックの主を無視していた。こんな遅い時間だからやってきた人も俺が寝てるって思ってくれるだろう。

 そう思っていたのだが、ノックの主は俺が起きるまであきらめないようだ。



ココココンココンココッココンコン

ココッコッココンコンコンコンコンココッココンコン


 少しずつノックの感覚が短く長くなっていて、ノックで何かを伝えたいのかと思ってしまう程だった。

 でも、俺にはそのノックの意味が分からない。

 今このタイミングで出て行ってもいいものかと迷っているのだが、俺が迷っている間にもノックの音はどんどん激しくなっている。



ドドドンドンドドドドンドン

ドドドドドンドンドンドンドンドンドドドド


ダンダンダダダンダンダンダンダン

ダダダダダダダンダンダダダン


 何か強い執念のようなものを感じて怖くなってしまったが、これ以上ノックの主を放置すると眠れなくなりそうなくらい怖い目に遭ってしまうのではないかと思い、俺は勇気を振り絞って出てみることにした。

 怖い思いをするのだったら、その正体を確かめてからでも遅くないと思ったからなのだが、ドアノブに手をかけようと思った瞬間にノックの音がやんだ。


「すいません、どちら様ですか?」

「あ、もしかして寝てるところを起こしちゃったかな? 伝え忘れたことがもう二つあったから伝えに来たんだよ」


 その声を聞いて安心した俺はドアを開けようと思ったのだが、なぜか小さいころに聞いた怖い話を思い出した。

 どこかの世界には知人の声に成りすまして扉を開けさせて中に入り、その家主を食べてしまう妖怪がいるらしい。

 このタイミングでどうしてそんなことを思い出してしまったのか。全く謎なのだが、このまま扉を開けていいものか答えを出すことは出来なかった。


「えっとね、明日は前田君も二人の修行について行くことになってるから。多分、前田君は何もやることないと思うんだけど、とにかく修行してきてね。何もできなかったとしても、知識を得ることは出来ると思うから行って損はないと思うよ」


 俺が迷っていることを知ってか知らずか、うまなちゃんは扉を勝手に開けて部屋の中に入ってきた。妖怪だったらどうしようかと思った俺ではあったが、妖怪の類は招かれていない状況で勝手に部屋に入ることが出来ないということを知っている。この世界でもそれが当てはまるのかはわからないが、俺の目の前にいるうまなちゃんは妖怪ではないように思える。


「そんなに真剣に私のことを見てどうしたのかな。何か変なことでも考えてるんじゃないよね?」

「変なことというか、こんな時間にやってきて妖怪か何かだったらどうしようって」

「こんな時代に妖怪なんているわけないでしょ。もしも妖怪が実在するんだとしたら、みんなで血眼になって探していると思うよ。イザーちゃんはそういうのも好きだし、ちょっと詳しいんだけどね。この世界に来てから妖怪なんて一度も見てないし感じてないから」


 この世界に来てから一度も見ていない。

 それってつまり、他の世界には妖怪はいるってことなのか?


「この世界に来てからって、他の世界にはいるってこと?」

「もちろん。世界は広いし無数にあるからね。前田君が今まで行ったことのある世界でも妖怪がいる世界は多かったよ。むしろ、ここみたいに妖怪がいない世界の方が珍しいんじゃないかな?」

「なんでここにはいないんだろう?」


 妖怪がいた世界の方が多い。俺がもともと住んでいた世界にも妖怪はたくさんいたんだろうなという気はしている。

 実際に見たことはないけれど、何か人でも動物でもない存在の気配をなんとなく感じていたことは誰にでもあるだろう。

 それが妖怪の仕業なのかはわからないが、妖怪だったとしたら都合もいいように思えていた。

 ただ、どうしてこの世界には妖怪がいないのだろうか。

 それがどうしても気になってしまった。


「それは単純な話よ。君もそうだと思うんだけど、相手を殺すことが出来る力を持っていたとして、それを同じ人間に向かって使うことが出来るかな?」

「同じ人間に使うってのは難しいかも。もちろん、動物とかにもだけど」

「そうだよね。人間も動物も生きているものに使うのって難しいよね。私も最初はためらいがあったし。でも、それが生き物ではなく人間に害をなす存在だとしたらどうかな?」


 自分たち人間に害をなす存在。

 そんなものは無数に存在すると思う。

 でも、俺がそれらに対して攻撃をすることが出来るのだろうか。

 きっと、俺がやらなくても誰かがしてくれる。そんな風に思ってしまい、俺自身は何もできないんじゃないかと思う。

 俺が強いとか弱いとかの話ではなく、俺は誰かを進んで攻撃するようなことは出来ないだろう。

 誰かを傷つけるくらいだったら自分が傷ついた方が良い。


「魔法の練習台として妖怪が相手に選ばれたって話みたいだよ。さすがに人間相手に魔法を使うのって、勇気がいるもんね」

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