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性悪女たちとリセマラ男  作者: 釧路太郎


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第三十五話 誘惑に負けるのも悪くないのか?

 いつまでもこんな状況では寝ることも出来ない。そう思ってはいたものの、もう少しこの状況を楽しんでいたいという勝手な思いも俺の中にはあった。

 健全な男子であればそれは当然のことだとは思うのだが、俺は他の男子と違ってこんな状況に置かれても何か行動を起こすことが出来なかった。何をしても大丈夫だと言われたとしても、自分の中に何一つ自信を持てるものがないので躊躇してしまっていた。

 多分、二人は俺のことを誘っていると思うのだけど、どうしてもその誘いに乗ることが出来なかった。誘いに乗ってしまった方が俺の気も楽になると思うのだけど、どうしても麻奈ちゃんたちのことが頭の中をよぎってしまい何もできないまま黙って座っていることしかできなかった。


「もっと気楽に考えていいと思うよ。別に減るモノでもないんだし、もっと近くに来てくれていいんだよ」

「何も怖いことなんて無いよ。いざとなったら、あなたの能力を使って別のところでやり直せばいいだけじゃない」

「俺は能力を使うなって言われてたんだけど。やり直してもいいってこと?」

「この世界に耐えられなくなったら仕方ないでしょ」

「あなたがつらいって思うんだったらやり直す方が良いと思う」

「魔王のために自分の力を抑制するなんてよくないと思う。自分の気持ちが一番大事だよ」

「魔王なんて自分の事しか考えてないんだから。あなたのその特別な力を手に入れようとしているだけなんだし、そんな奴に従う必要なんてないと思うな」

「でも、うまなちゃんもイザーちゃんも俺が能力を使わないでほしいって言ってたと思うんだけど」


 俺の能力は過去に戻ってやり直すというものではなく、別の世界の少し前の段階に戻ってやり直しているということらしい。ほんの小さな変化があるみたいで、それを繰り返すことによってこの世界のように俺が暮らしていた世界と全く違うところにやってくることもあるらしい。

 そして、俺が世界と時を超えているのを感知して一緒に移動することが出来るのはうまなちゃんとイザーちゃんだけで、他の人はもともといた世界の別人だということだ。なぜかわからないけど、麻奈ちゃんとイザベラちゃんも俺と一緒に移動してしまっているようだ。俺が二人のことを好きだから一緒についてきているという仮説もあるのだが、それを確かめる手段は俺には持ち合わせていない。調べる必要も検証する理由もないので気にしないのが一番だと思うし、麻奈ちゃんとイザベラちゃんが一緒だというのは俺にとって都合のいい事だったりもするのだ。


「うまなちゃんとイザーちゃんは二人ともいい子なんだけど、形の上ではは魔王の手先だからね。実際はもう少し複雑な関係だったりもするみたいだね。でも、そんなのはどうでもいいことだよ」

「私たちもあの二人とは仲良くしてみたいって気持ちはあるんだけど、それは友達になりたいって気持ちじゃなくて懐柔したいって気持ちかも。わざわざ敵対する必要なんてないし、出来ることなら話し合いで解決しておきたいってことだね」

「どういう話か分からないって顔をしているけど、あんまり深く考えなくてもいいよ」

「ただ一つ言えることは、あなたは他人の言っていることを信用しない方が良いってことだね。もちろん、私たちが言っていることも信じなくてもいいけど」

「あなたが心の底から信じてもいいって思う人のことを信じていればいいんじゃないかな。全てを疑えって意味じゃなくて、あなたが信じてもいいって思う人だけを信じて他は疑った方が良いんじゃないってことだから」


「私たちを信じてくれるって言うんだったらベッドに来てほしい」

「あなたにとって悪いことなんて何もない。イイコトしかないんじゃないかな?」


 俺にとって一番難しいことが、人を信じるということだ。

 ハッキリと言ってしまうが、俺が今まで生きてきて無条件で信じてもいいと思ったのはあいつだけだ。自分の家族でさえ信じることは出来ないし、あいつ以外はみんな俺の敵だと思っている。この世界みたいに破壊が日常にあるわけではなかったけど、俺の中には多くの人が敵に思えていた。というよりも、味方なんてあいつ以外には誰もいないと思っていたのだ。

 もしも、俺が戦国時代にでも生まれていたとすれば、周り中が敵だらけでこの年まで生きていることが出来なかっただろう。

 もしも、俺が幕末にでも生まれていたとしたら、何も成し遂げることなく命を失っていただろう。

 もしも、俺が戦時中に生まれていたとしたら、少年になる事すらできなかったかもしれない。

 味方を見極めることなんて俺に出来るはずはないし、あいつがいないこの世界で信じるべき相手なんてどこにもいないだろう。


 つまり、全員を疑えということなのか?


 どうせ全員に騙されるのだとしたら、このままベッドに行ってもいいのではないだろうか?

 ゆきのちゃんと愛華ちゃんの誘惑に負けたとしたって、俺が悪いわけでない。

 悪いのは俺じゃない。誘惑してくる二人が悪いんだ。

 そういう風に誘導されている気もするけれど、そんな流れに身を任せるのも悪くはないじゃないか。


 ここまでされちゃ、仕方ない。


「あ、もうこんな時間だ」

「このままだとあの二人が来ちゃう」

「また来るからその時はちゃんとこっちに来てね」

「いつになるかわからないけど、約束だよ」


 そんな風に考えていた俺だったが、誘惑に負けるのが少し遅かったみたいだ。

 ゆきのちゃんと愛華ちゃんは俺が瞬きをしている間にいなくなってしまっていた。


 ほんのわずかに香る優しい匂いは俺の心を僅かにかき乱していた。

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