第三十一話 否定から始まる
自分たちの知っているまー君とは似ても似つかない男がまー君を名乗っていることに対して納得のいっていない麻奈とイザベラではあったが、うまなとイザーの説得によってどうにか理解はしてくれたようだ。納得はしていないようではあるが、ひとまず話は勧められそうなので一安心といったところだろうか。
「要約すると、私と麻奈ちゃんがうまなちゃんとイザーちゃんの代わりに前田君を守るってことなんだよね?」
「なんであたしがこいつを守らないといけないのかって疑問は置いておいて、こいつを守っていればいつか本物のまー君に会えるってことなんだよね?」
「俺も本物のまー君なんでそういう言い方はちょっと傷付くんだが、君たちのお友達のまー君に会えるためにはその男が生き残っているということが条件なんだ。そんなわけで、どんなことがあってもその男を死なせないように頑張ってほしい」
「って言っても、私かイザーちゃんのどっちかがいれば問題なく守れるとは思うんだけどね。この世界にいる他の魔王ってそんなに強くないし、あなたたち二人は保険みたいなもんだと考えてくれていいんじゃないかな」
「でも、あたしもイザベラちゃんも誰かと戦ったこととかないし。訓練とかして筋肉質になるのとかいやかも」
「私はそんな才能無いと思うけど、麻奈ちゃんは運動得意だし意外とそっちの方面にも才能あったりするんじゃないかな。ね、前田君もそう思うよね?」
と、同意を求められてもどっちの立場になって答えればいいのか前田にはわからなかった。
今まで生きてきた中で誰かの質問に答えたことは何度かあったが、今みたいに自分の今後を左右するような質問には出会ったことがなかった。どっちを選んでもどっちかが出来になるような、そんな恐ろしい質問なんじゃないかなと前田は考えてしまい答えることが出来なかった。
「もう、そんなに真剣に考えなくても大丈夫だよ。二人が鍛えるのは肉体よりも精神の方だから。この世界は肉体的な強さも重要だけど、それ以上に精神の強さが勝敗を決めるんだよ。まー君の場合は精神力だけじゃなく肉体も凄く強いんで最強の魔王って呼ばれてるんだけどね」
「確かにパッと見は強そうに見えるよね。なんか、近付きたくないって感じもするし。同じまー君でも全然違うって逆に面白いかも」
「強さはどうかわからないけど、顔と性格と見た目は私たちのまー君の方が良いよね。まー君ならいきなり変なこと頼んできたりしないと思うし、前田君を守れとか言うわけないよね」
「絶対に言わないよね。まー君だったらあたしたちに頼らないで自分でこいつを守りそうだもん。あんたも暇そうに見えるし、うまなちゃんとイザーちゃんが休みたいときはあんたがこいつを見守ってたらいいと思うんだけど」
「麻奈ちゃん天才じゃない。その発想は素晴らしいよ。そうすれば私も麻奈ちゃんも変な人と戦わなくて済むよね。虫とか爬虫類の怪人とか出てきたら叫んじゃいそうだし」
その後もしばらく好き勝手に話をしていた麻奈とイザベラではあったが、うまなとイザーが二人の口を優しく押さえると二人は落ち着いてその場に座り込んでしまった。
その様子を見てホッとしたのは前田だけではなくまー君も深く息を吐いて落ち着いていた。
「それにしてもよく喋る女だ。俺が目の前にいるのに好き勝手なことを言ってくれるなんてどれだけ図太いんだ。これくらい神経が図太いんであればこの世界でも上手くやっていくことが出来るだろう。この女たちはお前の世界でも強かったのか?」
まー君の質問に対して前田は何と答えるべきか考えていた。
二人とも心が強いと思ったことはなかったが、あいつのことをいつまでも待ち続けていることが出来たということを考えると心が強いといってもいいのかもしれない。
だが、こんなにも誰かを否定するようなことを二人が言っていたところ見たことも聞いたこともなかった。特に、イザベラが誰かのことを悪く言っている印象は全く持っていなかった。自分にも優しいということは誰にでも優しいと言ってもいい。そんな風に前田は思っていたのだ。
「この二人が強い人だとは思ったことはなかったかも。心が強いなって思ったことはあったけど、俺のクラスの女子全員に共通して言えることだったから。月に一度あいつと一緒に帰るのを楽しみにして、他の人が一緒に帰ってる時も誰も嫉妬してなかったってのは心が強いなって今になって考えるとそう思えるくらいかも」
「お前のクラスの女子はこの二人と同じくらい心が強いというのか。何とも恐ろしい状況だな」
「さすがにこの二人と同じくらい強い精神を持っている人が何人もいるとは思えないけど」
「でも、この二人が強いからこそイレギュラー的にこの世界に来たって可能性もあるよね。他の人とは違う共通点って何かあったりするのかな?」
麻奈とイザベラの共通点はいろいろとあると思うけど、前田が一番最初に思い浮かんだのは意外なものだった。前田は麻奈のことが心の底から好きだったし、イザベラのことも好きだと思い始めていた。それが一番最初に思い浮かんだ二人の共通点ではあるが、イザベラのことを好きだと思ったことはあったが、それはほんの少しだけで軽い気持ちでちょっといいなと思った程度のものなのである。
自分の家族も親戚も誰もこの世界にきている気配はないし、あいつだっていないこの世界。
そんな軽い気持ちで好きだと思っただけで一緒に転移するはずがない。
今はそう思っていた前田であった。




