第二十七話 もう一つの焼肉
焼き肉をしている三人の様子をモニターで見ているまー君と美少女二人。
険悪なムードになりつつある前田たちを見守っているまー君たちだったが、モニターに映っている三人がおとなしく食事をしているところを見て一安心していた。
「何とかうまくいったな。ここで失敗したら最悪だったんだけど、どうやらそれは回避することが出来たみたいだ」
「私たちにとってはどうでもいいことだったんだけど、まー君の場合はあいつと一緒に他の世界に行くことが出来ないんだもんね」
「そう考えると、結構危ない橋を渡っちゃったんじゃないかな。やっぱりまー君って勇気あるよね」
勇気があると言われて悪い気はしないのだが、裏を返せば博打に似た勝負に出てしまったという意味もあるのだろう。
前田たち三人の関係性を考えれば一緒に食事をするなんてありえないと思うのが普通だと思うのだが、環境が変われば考え方も変化するのか麻奈もイザベラも元の世界にいた時とは前田に対する接し方も変わっていた。
「危ない橋とか大げさな。あれくらいの年代だったら男女で食事をとるのも遠慮するかもしれないけど、知り合いのいないこの世界に連れてこられたんだったら食事くらいするでしょ」
「普通はそうかもしれないけど、あの男は普通じゃないからね」
「そうそう、あの男は世界中から嫌われているズルい男なんだよ。それを考えると、あの二人が一緒に焼き肉を食べるなんて賭けには乗らないでしょ。まー君は本当に運がいいよね」
「あ、そう言えばそうだった。あいつの能力が手に入るかもしれないって思うと焦っちゃってそこのところを失念してた。次からは慎重にいかないとな」
「次からは大丈夫だよ」
「うん、大丈夫だって」
「二人にそう言ってもらえるなら安心だな」
少し離れた席で焼き肉を食べている前田と美少女二人とは違いまー君たち三人は同じテーブルで焼き肉を食べていた。
この世界では一般的ではない調理方法なのでまー君はイザーとうまなの真似をしながら焼き肉を食べていた。
最初はこんなモノが美味しいはずもない。肉なんて塊で食べて初めて美味さがわかるものだと思っていたまー君も、特製のタレに漬けられている肉を一口食べると同時にその考え方を改めた。食べごたえと塩味だけが肉の美味さを左右するとしか思っていなかった自分のことを呪い、今まで食べてきた肉が途端に味気なく感じてしまった。
とはいえ、うまなとイザーが作った特製揉みダレが美味いからこその感動なのだが、まー君はそのことを理解していないので全ての肉をこのタレに漬け込みたいと考えてしまった。
この国において焼き肉が一大ブームになったのはまた別のお話である。
「それにしても、なんであの三人は一緒に食べないんだろう。こうやってみんなで食べた方が美味しいと思うのにな」
「好きな人と食べる焼肉は美味しいけど、嫌いな人と一緒に食べる焼肉は苦痛でしかないからじゃない?」
「そうだよね。あたしもまー君と一緒だったら全然うれしいけど、他の魔王が同席してたら一瞬で食べる気が失せるかも。あの二人にとってそれと同じようなものなんじゃないかな?」
「確かにそうかもな。でも、そう考えるとあいつの能力って諸刃の剣かもしれないな。絶対に失敗しなくなる代わりに誰からも嫌われるって、リスクの方が大きいような気がしてきたよ」
「でも、魔王なんて嫌われてなんぼなところがあるんだから気にしちゃだめだよ。少なくとも、私たちはまー君の味方だからね」
タレに漬け込まれた肉を一通り食べ終えたまー君は塩ダレの焼肉にも挑戦していた。本来であれば塩から食べるのがセオリーなのかもしれないが、焼肉なんて食べ物をまったく知らないまー君にしてみれば食べる順番なんて知ったことではないのだ。それを指摘しなかったうまなとイザーは内心焦ってはいたのだが、何食わぬ顔でいい感じに焼いた肉をまー君の皿へと提供していた。
「それで、まー君はどうやってあいつから能力を奪うつもりなの?」
「方法は二つあって、一つは能力譲渡契約によってあいつの能力そのものをいただくというものだな。これが出来れば一番いいんだけど、あの能力を譲渡してもらうためには差し出すものがあまりにも大きすぎるんだよ。簡単な計算しかしてないので間違っているところもあると思うのだが、この世界を征服した後にこの世のすべてを差し出しても足りない可能性もあるんだ。あいつはあの能力をうまく使いこなせてないのにそれだけのものを要求されてしまうというのは恐ろしい話だよ。なので、あいつがあの能力の価値を高めないことが重要になってくるのさ」
「あの能力の価値を下げるってこと?」
「そんなことは出来ないよ。あの能力はどう見積もってもあれ以上価値が下がることはない。それだけは断言できるかな。でも、能力自体の価値が下がらなくてもあいつの中であの能力を行使しようという優先順位が変われば話は変わってくるよね。能力に頼らなくても何とかできる。そう思わせることが出来れば、あいつに差し出すものが少なくても譲渡してもらえるかもしれないってことよ」
何となくでしかまー君の言っていることを理解出来ていない二人であったが、まー君がそう言うのであれば何か上手くいくための策があるのだろうと思った。
今まで何度も奇策と呼べるような策で打開してきた実績がある。二人はそんなまー君のことを心の底から信頼していたのだ。
「そんなわけで、あいつが能力を使わなくても平気なんじゃないかって思うように強くしてやってくれ。うまなちゃんとイザーちゃんの師匠に頼ると殺されちゃいそうだし、どうにか良い感じの師匠を探してくれよ」
完全に丸投げじゃないかと思った二人だったが、そこまで頼りにされていると考えると嫌な気分にはならなかった。
確かに、前田が強くなれば能力を使う機会もなくなってしまう。
そう考えると、優先順位を変えることはそこまで難しくないのかもしれない。




