第十九話 二人は似ているのに二人は似ていない
銀髪の少女は真剣な表情を崩さずに俺のことをじっと見ているのだが、時折俺から視線を外して何かを警戒しているようだ。
もしかして、先ほど廊下を歩いていた岩石がこの少女を狙っているということなかもしれない。それであればこの少女がここまで警戒感をあらわにしているのも納得がいくというものだ。
足音は一切聞こえてこないのだが、突然現れるということも考えられるので、俺も警戒しておこうと思った。
何がきても大丈夫だ。
じっと廊下を見つめている俺は思わず声を上げて驚いてしまった。
てっきり廊下に何かがやってくるのだと思っていたのだが、背後にある窓ガラスが激しく割れる音が聞こえてその直後に誰かの叫ぶような声が聞こえてきた。
「もーーーーーー、こっちみてーーーーーー!!」
驚いてはいたものの、何が起こったのか確かめるという意味でも俺は大きな声が聞こえてきた方に振り向いたのだ。
そこには麻奈ちゃんによく似た茶髪の少女がバリバリとガラスを踏みしめながら銀髪の少女の方へと歩いていた。
「もう、普通に教室に入ってきてよ。いつもそうやって最初に印象付けようとして奇抜なことをしてるけどさ、いい加減飽きてきたんだけど」
「まあまあ、そんなこと言わないでよ。私はイザーちゃんのためにやってるわけじゃないんだよ。ほら、そこの男の子が驚いてくれてるんだから成功でしょ」
「誰だって驚くわよ。あんなふうに窓ガラスを割って登場するなんてそうぞもしないでしょ。そもそも、どうやってここまで飛んできたのよ?」
「それは秘密だよ。女の子には人に言えない秘密の一つや二つあるんだからね」
「どうでもいい秘密なんて知りたくもないわ。それよりも、うまなちゃんは彼を見てどう思う?」
「まあまあね」
まるで品定めをされているのではないかと思うくらいにねっとりとした視線を向けられている。何かリアクションをとった方がいいんだろうとは思いつつも、俺は今の状況を把握しようとするだけで精いっぱいだった。
麻奈ちゃんとイザベラちゃんとよく似ているのに全く違う二人。ぱっと見では髪の色しか違わないようにしか思えないのだが、こうしてみてみると何もかもが違って見える。どういうわけかわからないが、同じ人間なのかすらわからないくらい違って見えるのだ。
ただ、二人から敵意のようなものは感じられないし、このままここにいた方が安全なようにも思えていた。
本当にどうしてなのかはわからないが、廊下を歩いていた岩石の方が同じ人間なのではないかという気さえしていた。
「とりあえず、ここで黙って待ってても仕方ないわけだし、連れて行こうか」
「そうだね。あんまり待たせるのも良くないし、この子も自分の状況を早めに理解した方がいいでしょ。その方が、私たちもまー君も助かるってもんだしね」
ついさっきまで二人に対して恐ろしさを感じつつあったのだが、あいつの名前を聞いた瞬間に敵ではないんだという思いになっていた。これもどういう理由なのか説明はできないのだが、それだけあいつのことを俺は信頼しているという証拠なのかもしれない。
ただ、そうなるとこの二人とあいつがどういう関係なのか聞かないといけなくなってしまう。麻奈ちゃんとイザベラちゃんとよく似ている二人がいるのはいいのだが、その前に俺は麻奈ちゃん本人とイザベラちゃん本人と三人でこの教室にいたのだ。今目の前にいる二人がこの世界の麻奈ちゃんとイザベラちゃんだったとしたのならば、俺が最初に一緒にいた麻奈ちゃんとイザベラちゃんがいったい何者だったのだという話になる。
いや、この二人は姿かたちは似ているけど俺の知っている麻奈ちゃんでもイザベラちゃんでもない。そういうことなのだろう。
「でもさ、あんな手紙を見たまー君はどう思ってるんだろうね。普通に殺されるだけで済むといいんだけど」
「死なないように延々と体をスライスされる可能性もあるもんね。まー君が新しく手に入れた痛みだけを与える刃を試してみたいって言ってたし」
「斬ったそばから傷を治すのに痛みだけは消さないってやつだよね。あんなの拷問にしか使えないと思うんだけど、今回はちょうどいい機会ってことかな」
「他にも皮膚や臓器が焼ける感覚だけを与える炎の精霊もいるんじゃなかったっけ?」
「意識だけはっきりとさせることが出来る氷の女王もいたはずだよ」
「他にもいろいろあったような気がするけど、まー君の気分次第だね」
「そうだね。私たちは見てることしかできないし、まー君が好きにしてくれたらいいってことだね」
あいつの名前を聞いて嫌な気持になったことは今までただの一度もなかったのだが、今回に限っては恐ろしいという感情しか出てこなかった。
俺の知っているあいつとこの二人が出している名前は別人なのかもしれない。そう思うしかないくらい俺の知っているあいつとこの二人が言っているあいつは考え方が違っている。
麻奈ちゃんとイザベラちゃんと似ているのに他人にしか見えない二人がいるのだから、あいつと似ている別のあいつがいてもおかしくない。そう思うと、少しだけ感じていた嫌な気持ちは薄れていった。
薄れていったといっても、恐怖心が消えたわけではない。何をされるかわからない今、俺はこの二人について行っていいのか悩みながらもじっと時計を見つめていた。
「あ、そんなことしても無駄だよ。お前はもう自分の意志でやり直すことなんて出来なくなってるから」




