第十七話 魔王
時間を戻した後で変化が起きたことは今までも何度かあったが、ここまで大きく変化したのは初めてだった。
魔王を挑発したことでこの世界が荒廃しているらしいのだが、本当に俺が原因でそんなことになってしまったのか?
この窓が実は液晶になっていて荒廃した街の映像が流れているだけという可能性もあるのではなかろうか。きっとそうだ、そうに違いない。俺はゆっくりと窓を開けて外の様子を確認したのだが、残念なことというか当然のように外の景色は全く変化することはなかった。生暖かい風に交じって少しだけ錆びた鉄のような臭いが鼻をついてきた。
教室の中を見ただけでは何も変わっていないこの世界も窓の外を見ると、戦争でもあったのかと思うくらいにすべてが破壊されていた。窓から見える限りではあるが、この学校以外は全て瓦礫と化している。なぜこの学校が無事なのか、麻奈ちゃんに聞いてみようか考えているのだが、きっと俺の質問には答えてくれないだろう。でも、今までと違う関係性のような気もするし、聞いてみても問題はないんじゃないだろうか。いや、そんな俺の勝手な思い込みのまま話しかけられて麻奈ちゃんの機嫌を損ねても俺にとってメリットなんて何もないだろう。そうであるのならば、このままあいつが戻ってくるまで待ってあいつに説明してもらう方がいいのかもしれない。だけど、あいつが戻ってきても俺があいつに質問をするタイミングがあるのかどうかが疑問である。俺とあいつと麻奈ちゃんの三人で帰ったとして、麻奈ちゃんと別れるまではそんなチャンスもないだろう。もしかしたら、いつも別れるあのトンネルも破壊されていて家まで一緒に帰ることになるのかもしれない。そうなってしまうと、俺はあいつに何も聞けないまま家にたどり着いてしまうことになる。その時は、思い切って俺の親に聞いてみることにしよう。多分、それが一番早くて何の疑問も持たれることがない平和な解決になるだろう。うん、そうしよう。
「ねえ、さっきからブツブツ何言ってるの? ちょっと気持ち悪いんですけど」
「ごめん。ちょっと頭の中が整理出来てなくて。口に出してるとは思わなかった」
「別にいいんだけど。頭の中が整理出来ないって、今更魔王を挑発したことを後悔してるわけ?」
「それは全く考えてなかった。そもそも、俺って魔王を挑発したの?」
「イザベラちゃんに乗せられたってところもあったけど、お前は魔王に向けて挑発するような手紙を書いて着払いで送ってただろ。手紙の内容はちゃんと読んでないけど、あれは完全に魔王を馬鹿にする内容だったと思うよ。今時小学生男子でもあんな文は書かないだろって思うようなこともあったけど、お前は最後までテンションも変えずに頑張ってたよ」
「ねえ、それだと私も悪いみたいに聞こえるでしょ。私は別に前田君に魔王を挑発するように促したりなんてしてないって。あくまでも前田君が自主的に行ったことであって私は一切関与してないよ。その証拠に、この証明書を見てよね」
イザベラちゃんが差し出してきたその紙には俺が魔王を挑発したことに関して他の人は一切関与していないという旨のことが書かれていた。どうしてこんなものを書いてしまったのかわからないが、この署名は鑑定するまでもなく俺の文字だということが一目でわかってしまう。その点は疑いようもないのだけれど、問題はどうしてこのような証明書を俺が書いたのかということだ。
もちろん、俺がこんなものを書いたという記憶は一切存在しない。でも、この証明書は確かに俺の署名がなされているのは事実なのである。
「私は特に何も言ってないんだけど、前田君がこの証明書を書くって言いだしたんでしょ。ほら、魔王を挑発しても他の人に迷惑かけないようにするためって言ってたし、何かあっても問題ないって言ってたよね。前田君は何が起こっても大丈夫って言ってたし。だから、私は何も悪くないもん」
「確かにその紙はイザベラちゃんは悪くないって証明にはなるかもしれないけどさ、こうしてほとんどの建物が壊されてるのにも何も感じないの?」
「全然何も感じないよ。だって、悪いのは建物を壊した魔王だし、そうするように挑発した前田君だもん。私は何も悪くないもん」
「まあ、そういわれるとそうだね。イザベラちゃんは悪くないか」
イザベラちゃんが悪いか悪くないかで言えば悪いことになりそうなものなのだが、なぜか麻奈ちゃんはイザベラちゃんは悪くないとあっさり認めてしまった。だからと言って俺を責めるような感じではないのも気にかかる。
建物が破壊されているこの状況が日常の事のように受け入れているようにも見えていた。
麻奈ちゃんだけではなくイザベラちゃんも外の状況を見ても何とも思っていないように俺には感じられた。
「そろそろ時間になると思うんだけど、今回はどの魔王が勝ったんだろうね?」
「ずっと負けっぱなしの魔物の王がそろそろ勝つんじゃないかと思うんだけど、時期的にはまだ魔族の王が強いのかもね」
「魔族の王も強いとは思うけど、やっぱりあたし的には魔導王に勝ってもらいたいかも。魔獣の王を倒したあのすごい魔法をもう一度見てみたいもん」
「それを言ったら魔人王も凄かったでしょ。あの連続攻撃はまー君も凄いって言ってたし。あんな攻撃食らってまともに立ってられる人いないんじゃないかな」
盛り上がっている二人の話を聞く限りでは、魔王というのは複数存在するようだ。
魔物や魔族や魔導や魔獣や魔人の王がいるらしい。
きっと、ほかにもたくさん魔王がいるんだろうな。
そう考えると、俺はいったいどこのどの魔王を挑発してしまったのだろうか。
よくわからないし、こんな時はあいつに聞いてみよう。




