第十三話 少しだけ時を戻そう
「で、俺はいったい何をすればいいのかな?」
麻奈ちゃんが教室を出て姿が見えなくなったタイミングで俺はイザベラちゃんに話しかけた。俺が突然話しかけたことに驚いたイザベラちゃんではあったが、すぐに状況を理解したのか俺の近くまで小走りで駆け寄ってきた。
「やっぱりあれは間違いじゃなかったんだね。私も半信半疑だったんだけど、前田君が協力してくれるってことはそういうことだもんね」
「具体的に何をすればいいのかわかってないけど、俺はどうすればいいのかな?」
「今からだったらあまり時間もないと思うので間に合わないよね」
「間に合わないよねって言われてもさ、俺は何をすればいいのかわかってないんだけど。その辺も説明してもらっていいかな?」
「あ、そういうことね。本当に理由を聞かずに助けてくれるってことなんだ。前田君って私が思ってたよりもいい人なのかもしれないね」
良い人だと言われたことが今まで生きてきて一度もなかったので嬉しかった。この言葉だけでもイザベラちゃんに協力してよかったと心から思えたのだ。
でも、本番はこれからだということを考えると油断することはできなかった。未来のイザベラちゃんが言っていた俺と麻奈ちゃんが付き合えるように頑張れってやつもどうすればいいかわからないし、失敗しても何度も訂正する必要があると思う。ただ、俺一人ではやり直すにしても限度はあるわけで、イザベラちゃんが俺の助けになってくれるというのは強引にでも俺が選べる選択が増えるということになる。
ただ、俺は過去に戻ってやり直したとしても自分の経験が記憶となって残っているからいいのだけれど、イザベラちゃんの場合は俺が過去に戻ったとしても俺が失敗しているという経験がないわけだから協力なんてできないのではないだろうか。その辺が引っかかってしまう。
「とにかく、麻奈ちゃんが戻ってくるまでの間に少しでも作戦を立てないとね。今のまま無策で挑んでも前田君が麻奈ちゃんと付き合える可能性なんて無いからね。完全にゼロだよ。私が適当に作った紙飛行機を飛ばして太陽まで届く方が可能性が高いくらいだから。不可能っていうのもおこがましいくらい大それたことだよ」
「そんなに低いの?」
「当然だよ。今の前田君のことを一人の男としている人間なんてこの世界に存在しないし、人間として認識してくれてるのだってまー君くらいなんじゃないかな」
「さすがにそれはちょっと言いすぎなんじゃないかな。俺の親も人間とは認識してくれてるでしょ」
「どうだろうね。直接聞いてみたらいいんじゃないかな。でも、前田君には真実を知る勇気なんて無いと思うんだけどな」
確かに俺は勇気がある方ではないし、出来ることなら波風を立てずに生きていきたいと思っている方だ。それに、そんなことを言われたからってわざわざ確認する必要もないだろう。クラスメイトが俺のことを人間だと思っていないというのはまだいいとして、さすがに俺の両親までそんな風に考えているはずがない。今朝だって普通に会話もしたし一緒にご飯も食べていたんだ。
俺の親はさすがに俺のことをちゃんと一人の人間として扱ってくれているはずだよな?
「今日みたいなチャンスがまたいつ巡ってくるかわからないよね。麻奈ちゃんと前田君が二人っきりになるなんてもしかしたら、二度とないシチュエーションかもしれないけれど、私なりに頑張って機会を創造してみるよ。その時にはまー君とか先生の力も借りることにはなると思うな。ちなみに、その時が来たとしても前田君は何もしなくていいからね。変に前田君が動いちゃうと細かい調整がしにくくなっちゃうと思うんだ。前田君が万ちゃんに告白して成功するたった一つの正解を見つけるためにも途方もない試行回数を経ないといけないんだし、一つ一つ順序良くルートをつぶしていく必要があるんだからね」
「それって、俺は何もしないでただ告白すればいいだけってこと?」
「告白の仕方とかタイミングとかもあると思うけど、前田君の好感度を考えたから誤差でしかないと思うよ。それも、何の影響も与えないような誤差でしかないかな。どっちかっていうと、前田君の行動よりも外的要因の方が影響強いと思うんだよ。例えば、まー君が誰かと付き合ってしまって麻奈ちゃんが自棄になってるとかだと漬け込みやすいかもね。でも、まー君の相手が誰なのかによって麻奈ちゃんが受けるダメージも変わっちゃうと思うな。誰が一番強いダメージを与えられるかって考えると、まー君の相手は前田君ってことになるんだけど、そうなってしまったら前田君と麻奈ちゃんが付き合うことは絶対に無理になってしまうんだよね。今と同じくらい無理だってことになるんだよ」
さすがに俺とあいつが付き合うとかは話が飛躍しすぎだと思う。
人としてあいつのことは好きなのだが、恋人としてみるなんて無理な話である。
俺が女だったとしたらありえるのかもしれないけど、俺が過去に戻ったとしても性別を変えることなんて出来ないのだ。
そもそも、俺が女になったら麻奈ちゃんと付き合う可能性がより低くなってしまうんじゃないかな。
「とにかく、今は麻奈ちゃんが戻ってくる前に大まかにでも話を決めとかないとね。お手洗いに行ってそろそろ五分くらい経つし、いつ戻ってきてもおかしくないから。こうして私が前田君と話してるのを見られた、計画は失敗しちゃう」
「しばらくは戻ってこないんじゃないかな。少なくとも、麻奈ちゃんはトイレにから二十分くらいは戻ってこなかったはずだよ」
「そういう風にデリカシーがない発言は控えた方がいいよ」
明るいイザベラちゃんから冷たい視線を向けられたのは先ほどと合わせて二回目だ。
少しは気を付けることにしよう。




