第十一話 逃げたらだめだよ
イザベラちゃんのために力を貸すことは問題ないのだが、俺は自分以外の人のために力を使ってしまったことで取り返しのつかない事態に陥ったことがあった。
俺自身にデメリットがそこまである話ではなかったけれど、結果としてあいつが何一つ非の打ち所がない完ぺきな人間になってしまった。俺が一番なりたかったのにあいつがそうなってしまった。
だから、イザベラちゃんのために俺の能力を使うことでイザベラちゃんが今とは違う感じになってしまう可能性がある。あいつみたいに良い方向へと変化すればまだいいのだが、万が一にも悪い方向へと変化してしまったら取り返しがつかないことになってしまう。あれから何度繰り返してもあいつが普通の男の子に戻らなかったことを考えると、俺以外の人に能力を使って変化してしまったとしても元に戻すことはできないと思われる。
「前田君は私のお願いを聞いてくれないのかな?」
「どんなお願いか聞いてからじゃないと答えることはできないかも。何もわからないのに答えを出すことなんて出来ないし」
「それはもっともな話だけど、私の話を聞いちゃったら前田君に罪悪感が生まれちゃうんじゃないかな。今ここで協力するって決めてくれたら、そこまで前田君も自己嫌悪にならないんじゃないかなって思うよ。だって、私が前田君に無理を言って手伝ってもらってるって形になるんだからね。私のお願いを聞いちゃったら、前田君が自分の意志で協力するってことになっちゃうんだよ。優しい前田君は、きっと悩んじゃうんだろうなって思うし、答えだって出してくれなくなると思うんだ。だからこそ、何も聞かずに協力してくれたらいいんじゃないかって思うよ。もちろん、何も聞かずに断ってくれてもいいんだけど、その時はまー君にいろいろとお話ししちゃうかもしれないな。私の言うことよりも前田君の言うことを信じるとは思うけど、まー君の心の中に違和感が生まれちゃうんじゃないかな。それはほんの些細で小さなことかもしれないけど、今のまー君ならそんな事でもきっかけにして正解にたどり着いちゃうんじゃないかな。その時に、前田君はどう思われるのか考えてみたらどうかな。もしかしたら、無条件で味方をしてくれていたとても優秀なまー君が前田君に対してよからぬ感情を抱いてしまうかもしれないよ。それって、お互いにとってあまり良いことではないと思うんだけど、前田君はそんなこと気にし足りしないんだろうね」
あいつが今みたいになんでも出来て人気もあるのはあいつの努力も多少は関係しているとは思うが、俺があいつを変えてしまったというのが限りなく正解に近い。俺があいつの心を救うために軽い気持ちで過去に戻ってあいつの両親が亡くなった事件を無かったことにしたのだが、それの影響であいつはどんな事態でも自分一人の力で解決することができる完全無欠のスーパーヒーローになってしまったのだ。
あいつの両親を助けるために何度も何度も過去に戻って救っていたのだが、その直後に運命はあいつの両親の命を簡単に奪っていった。それでもめげずに何度も何度も過去に戻って間違いをやり直していた結果、先にあいつの両親が死ぬという運命の方が諦めてしまった。俺もあいつも最後まで諦めずに運命に抗った結果、運命すらあいつの味方になったのだ。
結果、あいつの両親は今も健在であるし、あいつの周りで何か不幸なことが起こるということもなくなっていた。
それと同時に、あいつは運命に負けないほどの特別で強力な力を持っているということになってしまった。
だからと言って、イザベラちゃんもあいつと同じように運命が諦めるような強力な力と意志を持つことができるのかはわからないが、今でもすでにそれと同じような力を持っているようにも感じている。恵まれた容姿と俺にも優しくしてくれるという性格の良さ。いや、俺の能力のことを知っているからこそ俺に優しくしてくれていたという可能性もあるのではないだろうか。
それを確かめてからでもイザベラちゃんに協力するか決めるのは遅くないのではないか。
「変なこと考えちゃだめだよ。前田君が今の話を無かったことにしようとしたって無駄だからね。前田君はまー君と違って運命も諦めたりしないし、私は絶対にあきらめたりしないからね。それは前田君も分かってることなんじゃないかな。ね、前田君」
「それってどういう意味なのか分からないんだけど、イザベラちゃんは俺のことを脅しているってことなのかな?」
「脅すなんてとんでもない。私はただお願いをしているだけだよ。他の誰にもできない前田君だけができることを頼んでるってだけだからね。前田君にとっても悪い話ではないと思うよ。それを確かめたいっていうんだったら、私が何をしてほしいかを前田君にお話してもいいんだけど、私が何をしてほしいか聞いたことを後悔しないって約束だけはしてほしいかも。前田君が後悔しちゃうと私だけじゃなくこの世界の運命も悪い方へ行ってしまうかもしれないから」
ここで決断する必要がある。
麻奈ちゃんがトイレに行ってからそれなりに時間が経っているということもあるが、あいつもここへやってくる可能性だってないわけではないのだ。
イザベラちゃんがここにやってくる前まで戻った方がいいのではないだろうか?
「だから、そんなこと考えちゃダメだよ。私の前から逃げたとしても後で前田君にはちゃんと決断してもらうことになるんだからね」




