第十話 秘密の力
夕日を浴びていつも以上にキラキラと輝いているイザベラちゃんの美しい金色の髪は風も吹いていないのにサラサラとなびいていた。その姿は有名な画家が描いた一枚の絵画のようにも見えていた。イザベラちゃんはそれくらい絵になる少女なのである。
「駄目だよ。そうやってすぐに逃げようとするのは良くないと思うな。前田君はとってもすごい能力を持ってるんだから、それを活かす方向で考えないと良くないよ。ずっと見てて思ったんだけど、前田君はせっかく与えられたその素晴らしい能力をもう少し有効活用した方がいいんじゃないかな。私から逃げることは簡単にできるかもしれないけど、そんなんじゃ麻奈ちゃんは振り向いてくれないと思うよ」
俺が瞬きをしている間にイザベラちゃんの姿は消えていた。驚いていたとはいえ、ほんの一瞬の間に俺の目の前から姿を消すことなんて可能なのだろうか。俺の力のことを知っているとすれば、イザベラちゃんも何らかの能力を持っているということになる。
いったい俺はどうすればいいのだろうか。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。前田君は私に力を貸してくれればそれでいいからさ。別に無理にとは言わないんだけど、私に協力してくれたら嬉しいな。ね、前田君」
背後から聞こえてきた声は先ほどと同じく優しく心地よいはずなのだが、俺の名前を呼ばれた時にはなぜか背筋に冷たいものが走っていた。優しく甘いささやきに聞こえてはいたのだけれど、背後から鋭いナイフを突き立てられている気分になっていた。
「俺が持ってるすごい能力って、いったい何の話かな?」
ここで肯定してしまうのは簡単な話だが、今以上に恐ろしい思いをしてしまいそうで躊躇していた。いつもであれば楽な方へと逃げる俺なのだが、ここはいつもと違って間違えてはいけないという予感がしていた。
自慢ではないが、俺の悪い予感はかなりの確率で的中してしまう。
「本当に大丈夫だって。私は前田君に協力してもらいたいだけなんだから。協力してくれるっていうんだったら、お礼に麻奈ちゃんとのことどうにかしてあげるよ。前田君一人じゃできなかった告白も出来るようにおぜん立てしてあげるからさ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。いいいいいいいったい何の話をしているのかわからないんだけど。俺が麻奈ちゃんに告白とか、本当にどういう意味なのか分からないんだけど」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。落ち着いてね。前田君が麻奈ちゃんの事を好きなのってみんな知ってると思うよ。多分、まー君も知ってると思うよ。だって、前田君ってわかりやすいもんね」
「わかりやすいって、そんなことないと思うけど」
確かに俺は昔から感情が顔に出やすいとは言われていた。
小さいときから素直な子だったという証拠なのかもしれない。大人から見てわかりやすい子供の方が多いとは思うけれど、その中でも俺は群を抜いてわかりやすいと思われていた。よく言えば素直な良い子というわけだ。
だが、そんな俺もある時を境に感情を表に出さなくなった。……はずだ。
それなのに、イザベラちゃんは俺のことをわかりやすいという。
割と恥ずかしがりやな俺はそんな場面に陥ってしまったとき、ちょっと前に戻ってやり直すことにしている。
だから、俺が麻奈ちゃんの事を好きだということを他人に知られるはずがないのだ。
もしかして、イザベラちゃんは人の心を読むことができる能力でもあるのだろうか?
「そんなに考え込まなくても大丈夫だって。私は前田君の敵じゃないんだよ。今までだって他の子たちと違って前田君に敵対するようなことはしてないでしょ。みんなと違って私は前田君とこうしてお話してるんだし、そんなに悪く受け止めなくても大丈夫だって。ね、前田君」
イザベラちゃんが言っていることは間違ってはいない。
あいつ以外で俺に面と向かって話してくれるのは先生達を除けばイザベラちゃんだけしかいないかもしれない。
今までも何度か女子に話しかけられたことはあったが、目が合ったことは一度もなかった。それに、話題は俺のことではなくあいつに関することだけだったと思う。
そう考えると、イザベラちゃんはあいつと同じくらい信用してもいいんじゃないかと思えるな。でも、本当にそれでいいのだろうか。
もしも、その決断が間違いだったとして、俺が選ぶ道はたった一つ。
「どうかな。私に協力してくれる気になったかな?」
「イザベラちゃんが俺のことを勘違いしているってのは置いといて、協力することはやぶさかではないかな。ただ、どんな内容かってことにもよるんだけど」
「それはそうだよね。ただ協力しろって言われたって困っちゃうよね。でも、前田君にとってはそこまで難しい話ではないと思うんだよ。その特別な力があれば余裕だと思う程度のことだからさ」
正直に言ってしまえば俺の能力があればどんな問題だって時間をかければ必ず解決できる。時間制限だって無いに等しいのだから協力することだって簡単な話かもしれない。
でも、俺は誰かのために自分の力を使ってもいいのかということがわからない。
あいつのために使った結果、あいつはとんでもないことになってしまったんだし、俺以外の人のために使うととんでもないことになる可能性は高いのだ。
「まー君と違って私は大丈夫だから。ね、力を貸してよ。前田君」




