第99話 方針が決まる
「なんでだデリくん。デリくんの力とコマンド組み合わせれば無敵じゃないか」
「でも殴られたり蹴られたりするのは嫌です。いじめですよそんなの。いじめ大反対!」
目をかっぴらいてまでデリートさんは戦うことを嫌悪していた。その姿形が玲奈だからなのか、絶対に戦いたくないという確固たる意志がひりひりと伝わってくる。
「戦いにいじめとか、そういう善悪の概念はありません。あるのは欲。それがぶつかってるだけです。なのでいじめとかではないですよ」
「……まあ、そうですね。そうでした。僕たちは人と地球のために生まれた身。その目的を、果たすためなら……」
主張の激しかった顔を鎮めると、デリートさんは視線を僕たちから膝元にゆっくりと落とす。自分のすべきことを一つ一つ認めるように、なぞるように、自身の考えを改めている。
「でもすみません。戦闘は苦手なので、極力戦わず二人に連絡します。足止めできそうならします」
デリートさんは背をこちらに向けたまま、拗ねた子供のような口調で答えた。その小さな背中はさらに小さく丸まっている。
「承知です。とりあえず、お二人とも基本的には私の所に連絡するということで。場合によってはデリートがクリエイトに、クリエイトがデリートに連絡することもあるとは思います。その時の判断はお任せしますが、まずは被験者の安全を第一に考えてください」
「おけー!」
「分かりました」
一方はいつもの無邪気な笑顔、一方はこちらに目もくれず淡々とした返事だった。
そしてもう一方の僕はというと、この話を聞いて一番気になっていることがあった。そのことについて説明がないことが不服なので、僕は躊躇わず口を開く。
「あの……リードさんが連絡をもらって助けにいくということは、それは強制的に僕の体を動かして駆けつけるっていうことですかね」
「そうなりますね」
「なるほど……。てことは、深夜とかに寝てても関係ないってことですか?」
「そうなりますね」
それを聞いて僕は、眉間にしわを寄せて黙り込む。できればそうなって欲しくなかったんだけどなぁ……と思ってると、ふと瓢太が質問を投げかけてきた。
「思ったんだけど、連絡は電話? それとも、AINEのグループ作ってそこにメッセージ飛ばすとか?」
「連絡ができるのであれば特に手段は問いません」
「あー、なら別にAINEでグループ作ってそこに送ればいいと思うんだよな。全員に行き渡るし」
それなら仮に僕とリードさん、リペアさんがいけない場合でも瓢太や玲奈が動き出せる。
瓢太にしてはなかなかいい案を言ってくれたなとは思ったけれど、リペアさんはデメリットがあると主張する。
「それだとリアルタイム性が低いと思うんだよ。メッセージに気付くのが一分、十分遅れることとかあるだろうし」
「それじゃあ、メッセージを送って三十秒以内に反応なかったら電話するとか?」
「では、そのようにしましょう。メッセージを送って三十秒経っても反応がない時は電話をするということで」
「おっけ! その場合、僕は……リードというか介くんの連絡先でいいんだよね? 電話するのは」
「まあ、そうなりますね」
さっきは夜遅くてもいかないといけないのかーなんて怠けたこと思ってたけど、お父さんとお母さんの情報を得られる機会が来たと思えばむしろ行かなきゃならないなと考え直す。
相手を捕えることができれば、両親の居場所を聞き出すことができるのだから。
「じゃあ、グループ作るか! えっと、介って渡会さんのAINEって知ってる?」
「あー、知らない。玲奈、アカウント教えてくれる?」
僕からそう尋ねても、玲奈は背中を向けたまま反応がない。
聞こえてなかったのかと思ってもう一度呼びかけようとすると、途端に玲奈が携帯画面をこちらに向けてきた。そこにはAINEのQRコードが表示されている。
「あ、ありがとう!」
僕はすぐさま携帯を取りだしてQRコードを読み込む。画面に現れたリンクをタップするとAINEのアプリ画面が表示され、今度は「rena」というアカウントが映し出される。
僕は迷わず追加ボタンを押すと、強制的にトーク画面へと移った。
介:届いてる?
rena:うん
「今、玲奈の連絡先教えてもらったから僕がグループ作っとくよ」
「おけ!」
これで被験者全員との繋がりができた。残念ながら協力してくれるわけではないけど、二人の連絡次第でお母さんとお父さんのところにぐっと近づける。
さて、友達選択はできたものの、グループ名をどうしようか……と画面を睨めつけてたら、視界の端で玲奈がすくっと腰を上げている。
「あ、どっかいくの?」
「話はもう終わりですよね?」
立ち上がりざま僕の方を振り向くと、玲奈は少し疲れた面持ちでそう訊いてきた。彼女の丁重な問いに応えたのはリードさんだった。
「はい。一通り終わりました」
「じゃあ、あたしは行くから」
「あ、うん! ありがとう!」
玲奈が校舎の中へ消えていく前に、僕はせめて言葉ひとつ、その耳に届けられるよう声を張り上げる。
案の定、玲奈は特に反応しなかったけど、僕的には彼女がここに来て最後まで話を聞いてくれてただけで充分だった。
重たい扉がバタンと、鈍く大きな音を立てて閉まる。すると瓢太が詰まらせていた息を吐き出すように話し始める。
「おい、介! あの子なに! すごい、その……刺々しくない!?」
「まあ、ああいう人だから」
「ああいう人って……まあ、そっか。俺はちょっと苦手だな」
「その気持ちは分かる」
最初に家で会った時は素直で大人しい子なのかと思ったけど、学校で会った彼女はまるで違っていて驚いた。僕も少なからず、あの刺々しい玲奈には苦手意識がある。
でも、どちらかというと親近感の方が強い。境遇が似ているからかもしれない。親がいなくて、少なからず人生に諦観していて、僕と同じ被験者だ。
瓢太が言いたいことも分かる。けど……。
「でも意外と優しいよ、玲奈。口はあれだけど、多分頼み事とかしたら断れないタイプなんだと思う。中間テストの勉強とか結構教えてもらってたからさ」
「勉強? 教えてもらってた? おい、介。テスト期間中、いつも早足で教室を出ていってた理由は女だったのか……?」
「あー……れ? そうだっけ?」
なんでこういう時だけ察しがいいんだか……。
「ちなみにどこで勉強してた? もしかして図書室か?」
「さあ……。同居してるから、別に図書室じゃ」
「なんだ、おい。俺が図書室行かないことを知ってるから堂々と学校であんなことやこんなことを教えてもらってたってことか?」
「言い方……。普通にテスト範囲の勉強だから」
「否定はしないんだな?」
「……」
「それにその玲奈って下の名前で呼んでるのもなんか怪しいぞ。さっきまで苗字にさん付け呼びしてたよな?」
「……」
「おい黙るなよ」
もしかして瓢太、敵AIに体乗っ取られたり……んなわけないか。
「まあ、そうだよ。というか、僕が言いたいのは別に玲奈は優しくない子とかじゃないよってことだよ」
「でも下手なこと言ったら爪立ててきそうな感じだったぞ、あの子」
「……まあ、否定はできないけど、瓢太も慣れたら話せるようにはなると思うよ」
「慣れたら、かぁ……」
僕の場合、玲奈と同居してるからその分理解度が深まっているのだろう。家族同然のような関係でもなければ玲奈に慣れるのは難しいかもしれない。
そんな漠然としたことを思いながら、僕はまだ手をつけてなかった弁当箱を開けてようやく昼食にありつける。瓢太もようやくパンのパッケージを両手でこじ開けていた。
「そういえば、気になったことがあってさ。あ、リードさんに聞きたいんだけどさ」
「……………………なんでしょうか」
僕の口の中にあった白米が喉の奥に押し込まれてから、リードさんは話し始めた。




