第96話 協力関係
「単刀直入ですが……瓢太様、玲奈様。お二人に聞きます。介様の両親救出、敵AIの捕獲に、ご協力していただけますか?」
前置きなどなく、こちらが何を話すのか分かっている前提で、リードさんは本題を話し始める。
瓢太と玲奈の瞳や毛先は変化したままで、AIと体の共有をしている状態。
二人が浮かべている真剣な表情。それは本人、AI、どちらがしているか定かではないけど、皆が真剣にこの話を聞いてくれてることは分かった。
「それってさ」
そう徐に口を開いたのは、玲奈だった。
「その敵AIと戦って欲しいってことで、合ってる?」
「……うん」
返事は僕がした。この件はリードさんではなく、僕自身のお願いだから。リードさんに話を切り出してもらったけど、ここからは僕が答えていくべきだろう。
「戦う、か。もし協力することになったら、俺も命を賭けることになるんだよな?」
「命……そうだね。命を賭けることになっちゃう」
厳密には意識体だけど、でもそれは命と同義だろう。奪われれば最期だと思ってる。
「介は、もうその覚悟が決まってるってことだよな?」
「うん、できてる」
そう口にすることに迷いはなかった。改めて自分が家族を救出することにどれだけ強い思いを賭けてるのかを、自身で認める。
そんな僕を目の当たりにした瓢太は、しかし依然として真剣な面持ちのまま。玲奈は浮かない顔をすると、視線を僕から外して膝元にある弁当を見つめていた。
「二人には難しい要望だと思う。だって、僕が必要としてるのは……AIの、力だから」
これを口にすることがとても苦しかった。間接的に、誰でもいい、瓢太と玲奈である必要はない。そう伝えてしまうことになるから。
でも、正直に話さないといけない。二人には僕が思っていることを包み隠さず話すべきだ。
「まあ、だろうな」
「でしょうね」
冷たいとはまた違う、そんな当たり前のことを言われても……という困惑に近い返答だった。
事前に話しておいたことが功を奏してるのか、特に混乱してる様子もない。僕が思ってるよりも二人は冷静にこの話を受け止めている。
「最終的な判断は瓢太様と玲奈様に委ねておりますが、ご相談であればお二人の中にいるAIに聞いていただいて構いません。一人で抱え込む必要はありませんので」
僕も二人がすぐに決断を下すのは難しそうだなと思っていた。二人は話の内容は分かってるようだけど、選択した後のことは想像できてない様子だ。
「中にいるAIが頼りない場合はどうすればいいですか」
「その時は私でも構いません」
「デリくん、やっぱ信用されてないのかよ! あははは!!」
「その相談相手にウザイAIがいたらどうすればいいですか」
「私が黙らせます」
「えぇ……」
それ、方法次第では僕の体にも被害が及んだりしませんかね? 大丈夫ですかね?
「介は、さ……介は……」
瓢太は僕のことをじっと見ながら、何か聞こうとしている。だけど、言葉を選んでるのか上手く言語化できないのか、なんだか苦しそうな表情を浮かべていた。
「いや、うん」
すると、なにやら自分の中で決意を固めた様子の瓢太。だが瓢太は何も言わず、静かに階段を上ってきて僕の隣に腰を落とす。
「介は、もう俺たち以外がNPCだって分かってて、その話を持ちかけてきてるんだもんな」
「うん、そうだよ」
「……そっか」
何がおかしいのか、瓢太は軽く吹き出した。
「あたしは多分……協力しないことを、選ぶと思う」
途端、そう曖昧な返答を玲奈が口にしていた。
「それは、どういう……」
「分からない、あたしも。でも、この二つだけは言える。あたしは戦い方とか分かんないから力になれそうにないってことと、その戦いを経てこの最悪な人生を終えられるならそれでもいいなって思ってるってこと」
人を助けたいという優しさと、最悪な人生を終えたいというエゴ。なんだか、玲奈らしい返答だ。
「なにそれ。いや、玲奈らしいけどさ」
思わず僕は笑みをこぼした。案の定、玲奈には後目にじろりと睨まれてしまったけど、それでもこの込み上げてきたものを抑えることはできなかった。
「ちなみに、二人ってどういう関係? もしかして幼馴染だったりする?」
「いや、本当にまったくの他人だよ。テスト一週間前に会って、それから」
「へー いや、割と仲良さそうだからさ」
「普通でしょ。友人以下くらいだし」
言い方は酷いけど、友達とは認めてくれてたりするのかなと思うとちょっとだけ嬉しかった。
「なあ、介。あの子、あんな刺々しいの?」
瓢太が玲奈の目を奪ってそーっと僕の右耳に近付き、訊いてきた。
「まあ玲奈にも色々あるんだよ。家庭環境とか」
「あー……」
僕も深く聞いたことがないから詳しくないけど、別に適当なことは言ってないはず。多分。
「とりあえず、玲奈は……協力してくれないってことであってる?」
「しないというか、仮にしたとしてもまともに戦えないし力になれないと思うからしない」
「……そっか」
そんなことはないと思う。でも玲奈の言い分も分かる。
「でも、戦い方ならリードさんが分かってるから、僕と朝のトレーニングで鍛えるっていう手もあるよ」
「……そこまでするってなると、また考え方は変わってくる。そこまでしてあたしは、介に協力したいと思うのかって」
それを聞いて強く頭を打たれた気分だ。けれど、おかげで自分本位な考え方をしていたんだと気付かされた。
「そうだね、そうだよね。分かった。玲奈は協力しない方針で、ってことで」
「うん」
ある程度想定していたことなのに、やっぱり本人の口からはっきり言われてしまうと想像以上に心が沈む。
「瓢太は、どう? まだ答えは出なそう?」
「え、あー……ごめん。まだ考え中だ」
「分かった」
あまりいい返事は期待できなさそうだ。でも二人の気持ちは分かるから強く言えない。デリートさんに言われた、協力してもらうことのハードル。それはやっぱり高かったわけだ。
「まあその、半端な考えで回答できないと思ってさ。だからまだ、考え中なんだ」
話を切り替えようと思った矢先、瓢太が訳を述べ始める。
「二人とも、自分なりにひとつの答えをちゃんと出して話してるみたいだったから。俺もこうだって言える何かを見つけるまでは、まだ……」
「分かった。瓢太の回答は一旦保留ってことで」
とはいえ、あまり期待しない方が良いだろう。両親は僕とリードさんとリペアさんで助ける。そう思っておいた方が良さそうだ。
「ありがとう、二人とも。じゃあこの話はここまで」
「なに、まだ話すことあるわけ」
「まあね。僕からじゃないけど」
「私から。今度はお二人だけでなく、クリエイトとデリートにもお話したいことがあります」
声色が変わったことで、場の空気も一変する。それは、緩んでいた緊張の糸を張り直すのに十分な一声だった。




