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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#10 最後の中間試験を終えて

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第92話 部活に入ってないみんなで記念写真!

「愛田かーい!」


「……」


 唐突な緒野くんの発狂に、この教室にいる僕たち三人は一斉に声を失った。


 咄嗟に黙り込むみんなの反応を見ると、緒野くんは慌ててまくし立てる。


「あ、いや! ごめんごめん。その、愛田のフルネームがそのままあだ名にできるなって思って。いや、愛田は知ってるかあれだけど、俺のフルネームは緒野おのしゅんだからそのまま緒野竣って呼ばれるんよね、よく。その、だから……あだ名がフルネームになるような人、個人的に探しててさ。で、愛田の名前を知って、これはいける! って思って」


「あ、あぁ……」


 緒野くんが周りからそう呼ばれていたのは知ってる。でもそれは一定の親密度があるから許される呼び方だと思ってるから、僕は普通に苗字で呼んでいる。


「だから愛田のこと、これから愛田介ってフルネームで呼んでいいかなって思って。いや、俺のことも全然、緒野竣って呼んでくれていいからさ!」


 緒野くんを初めて見た時は、きっと僕とは縁遠くて関わることもあまりないのだろうと思っていた。


 その奇抜な髪色を見て一線引いてしまっていたけど、彼とはしゅしゅこうが違うことも分かっていたから。


 音楽の話なんてできないし面白い冗談をポンポンと口にできるほど話し上手というわけでもないし話の引き出しだって多くない方だから。


「じゃあ……緒野竣くんで」


「いや、緒野竣でいいよ。くん付けしたら呼びづらいだろ」


「いや、むしろなんか、しっくりくるというか……」


 でも、緒野竣くんはそんな僕でも普通に話しかけてくれて、話すネタも呼吸をするように難なく出してくる。


 僕とは縁遠いと思ってた人とたった一つだけでも接点を持てることがこんなに嬉しいことだなんて、今まで知らなかった。


「じゃあ、俺はこれから愛田を見つけた時は『愛田かーい!』って言うわ」


「えぇ……」


 元気がいいのはいい事だけど……多分、というか絶対迷惑になる気がするのだが。


「大丈夫! 見つけた時とか呼ぶ時だけだって! 普通に話す時は『愛田介はさぁ、』ってさらっとあだ名感覚で呼ぶし」


「あー、まあそれなら全然」


 常にハイテンションで呼ばれるのはさすがに勘弁してもらいたい。こっちが対応する時にいろいろ疲れてしまいそうだし。まあ、呼ばれるときとかだけなら、いいのか?


「おっけ! 愛田介のAINEアカウント、登録しといたわ! 試しにトークも送っといたぜ!」


「あ、うん。後で見とくよ。今、携帯は教室の方だから」


「おぅ、おっけ! 藤吉と小林の方は、もう大丈夫か?」


 緒野竣くんの視線の先を追って、僕も二人がいる教室窓側の方に視線をやる。すると、なぜか分からないけど、藤吉くんと小林くんがびしっとポーズを決めていた。


「この身は正義の殺戮さつりくのために全うする。暗殺者アサシン、藤吉努。準備万端だ」


「この国に、明日の日の丸を拝ませるのが我々海軍の務め! 日ノ(ひの)もと海軍軍曹かいぐんぐんそう、小林三之助! こちらも準備万端だ!」


 二人の背後には街の地平線から顔を出す西日が差し込んでいる。そのなんともコメントしがたいポーズは、幸か不幸か逆光のせいで表情は窺えないけど、いい感じに画にはなっていた。


「お、やっとか! よしじゃあ、愛田介も並んで、三人でポーズして写真撮んぞ!」


「え、ぽ、ポーズ!?」


「そうそう! あの二人の真ん中にいって、ポーズ決める!」


「センターなどくれてやる。俺は目立たぬ端っこがお似合いだ」


「真ん中にいなくとも、我が軍曹の存在感には目を離せぬだろう! 中央は貴さ……愛田くんにくれてやる!」


 衣装を身に纏った途端、二人のキャラが変わってる。まあ藤吉くんも小林くんも、自分の着る衣装を見て嬉しそうにしてたからテンション上がってるんだろうけど。


「ほら、愛田介! 並んで並んで!」


「う、うん」


 僕はおそるおそるポーズを取っている二人の間に立つ。しかし並んだはいいものの、ポーズってどうすれば……。


『ポーズは俺がやってあげようか?』


「あ、お願い……!」


『よしっ!』


 唐突にリペアさんが視界に現れたかと思えば、ポーズを取ってくれるということで、僕は小声でお願いする。


「よし、撮るぞー スリー、ツー、ワン」


 一瞬、静寂に包まれた教室に携帯のシャッター音だけが優しく響き渡った。


「あ、おい愛田介。なんか変顔した?」


「え、いや……動いてないけど。なんで?」


「ほら、これ。変顔というか、白目剥いただろ」


 緒野竣くんに見せられた写真の僕は、しかし、彼が言うように白目など剥いていなかった。ただ、毛先と瞳の色は紫色になっている。


「え、白目剥いてる?」


「いや、剥いてるって。え? 俺の目おかしい? 藤吉と小林は、どう見える?」


「あー、俺にも愛田くんが白目剥いてるように見える」


「うん、俺も見える。あれかな? 西日で変になったんじゃない? カーテン閉めて教室の電気点けて、普通に撮ったらいけるかもよ」


 西東さんと対面した時と同様に、写真も人によって見え方が違うのか。AIを視認できない人にはその画像に映ってる僕がただ白目を剥いてるように見えている。


 だけど僕には毛先と瞳が変色して見えていて、逆にみんなとは違って白目を剥いてる自分など視認できない。


「あ、ごめん。確かによく見たら白目剥いちゃってるね。変にテンション上がってたのかもしれない」


 ここで話をややこしくしてしまいたくない。そもそも僕がリペアさんに任せてしまったのがダメだった。


 高校最後の文化祭を楽しむって決めたのは自分だし、ポーズくらい自分で決めないと。


「ごめん、リペアさん……」


『いや、俺もごめん! マジか。写真でも被験者かどうかで見え方が変わるのか』


『まあ、想定できなかったわけじゃないですけど……画像でもそうなってしまうのですね』


 渡会さんと瓢太の二人と絡むことの方が多いから、僕も他人がAIを認識できないことをたまに忘れてしまう。


「おいおい頼むぜ、愛田介。まだ文化祭準備期間だってのに」


「いや、愛田くんの気持ち、わかるね。僕ももういつでも刺客しかくを出迎えていいと思ってる」


「おい、文化祭に来る客を刺客って言うな。実際に刺しにいったりするなよ」


「ふんっ! 我が国の領海に許可なく立ち入る者など刺客当然であろう。はらうまでよ!」


「いや、許可得て入ってきてるから。絶対殺しにかかるなよ」


 僕たちは教室のカーテンを閉め、部屋の電気を点け、改めて各々がポーズを取る。それがどれだけ不格好なものだとしても、僕たちにとってこれ以上輝いてる瞬間はそうないだろう。


 少なくとも僕にとっては、青春のいちページを飾れたという実感があった。

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