表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#9 新たな家族

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/119

第83話 じゃあ、一言だけ

 さっきまでの、冷静さと冷酷さ、そしてどこか強気だった彼女からはかけ離れた弱々しい声だった。


 しんどそうな彼女の面持ち。僕はそれを目の当たりにすると、体の正面を再度渡会さんに向ける。


「あ……しんどかったら、しんどいって言ってくれていいんだよ。僕じゃなくても、孝子さんでもいい。何がしんどいのか……話は聞くから」


 あまりに唐突だったから、動揺を隠し切れなかった。


 でもしんどいと、そう暗に伝えてくる彼女に、策を提示するだけして渡会さんを精神的に独りにするなんてことは僕にはできなかった。


「なんで、そんなこと言えるの?」


「なんで? そりゃあ、渡会さんは家族だから」


 そう。彼女はもう、家族の一人だ。僕の知ってる家族は誰かを一人になんてしない。僕がしんどい時、辛い時、いつも家族の誰かが側にいてくれた。


 そんな家族に対してまともに何もしてあげられなかったことに、僕は罪悪感を覚えている。


「昨日今日一緒に住むことになっただけの、半年だけ一緒に住む人間を……家族とは言わないと思うけど」


 まあ、確かに。渡会さんの言ってることは間違ってはいない。でも……


「数か月一緒に住んでた人が突然家を出ていったとしても、同じ家に住んでた事実は変わらない。十年以上一緒に住んでた両親と離れることになっても、その人達が家族じゃなくなることはないし」


「そりゃあ、血縁関係あるし……」


「血がどうとかじゃない。僕は、僕の家族が一緒に住むと決めた人を家族だと思ってる。だから渡会さんは家族の一人だよ」


 気持ち悪い。そう言われても仕方ないと割り切って、僕は渡会さんの力になることをはっきりと主張する。


 彼女は渡会家の娘さんだけど、今は僕たちの所で暮らすことになった一人の家族だから。


「じゃあ、一言だけ……」


 すると、渡会さんが俯きがちにそう口にして、一度そこで言葉を切る。途端、さっきの緊迫した感じとは違う、重たい雰囲気が漂う。


 何を言われるのか……。僕は少しばかり気を引き締めた。


「もう……生きるのが辛い」


 その一言は、確かに僕の耳に届いた。だが、その後はまた、無音のような静寂がこの場を満たす。


 もしかしたら、彼女のその一言にリードさんかリペアさんが僕の代わりに応えてくれたかもしれない。


 けれど、その声が僕の耳に届いてはいない。最後に聞き取れたのは、渡会さんの覇気のない悲痛な声だった。


 今にもすべてを手放してどこかへ去ってしまいそうで、その姿に僕はどう声をかければいいか……考える。


「……あ、ごめん! やっぱり今のなし。お弁当もちゃんと食べる。お弁当箱は、あたしが洗うから」


 慣れてない感じの作り笑いを僕に向けると、渡会さんは慌てて弁当箱の蓋を開ける。


 僕が困ってると思って彼女は発言を撤回した。しかし、そう思わせてしまったことが情けない。


 いつか自分も思っていたことなのに、それを目の当たりにしても僕は何も声をかけてあげられなかった。


「あ……明日から、一緒に帰ろう!」


 情けないという思いも振り払う勢いで、僕は渡会さんにそう提案する。


 だけど言って、まるでナンパしてるみたいだなと思い、僕は慌ててさっきの発言の意味を説く。


「あ、いや……変な意味とかじゃなく……その、勉強教えてもらうし、どうせ帰るときは方向一緒だから……それに、学校残って勉強することになったら、夜遅くなるし……帰宅後は買い物行かないといけないから、できればそれも付き合ってもらえたら、と思って……」


 渡会さんの驚きとも警戒とも、困惑とも取れるその表情を前に、思わず言い訳っぽく理由を言い並べてしまった。


 それでも彼女の表情に大きな変化はなく、特に返答もない。また気まずい空気が漂う。


「いや、その……渡会さんの気持ちはなんとなく分かるんだ。ていうと、訳も聞いてないのに分かった気になるなって思われるかもだけど……僕もそういう時期があって、その時は自分の視野が狭くなってるんだって、後々思い返して分かったんだ。きっと今の渡会さんは必死で、自分のことで精一杯になってるんじゃないかなって思って。その時は、お母さんが僕を買い物に連れ出してくれたんだ。そしたら、好きなお菓子が値引きされてたり、お惣菜が二割引きになってたんだけど……」


 堪らず僕は、同じことを思っていた時期があったことを話し出す。


 自分でもなんでこんなこと話してるんだろうって不思議でならないし、この口が止まらないのがなんでなのか分からない。


「あ、だからその、何が言いたいかっていうと……そんな小さなことでも喜べる、幸せ? をお母さんと共有して、好きなお菓子を家で食べた時に、気づいたらもう辛い気持ちは吹っ飛んでて、小さな事で悩んでたんだなって、思ったん……だよね」


 ようやく伝えたいことが言えたけど、結局自分はどうしたかったのかよく分からなくなっていた。


 今すぐにでも渡会さんの後ろにある机の狭い収納スペースに体を押し込みたい。こんなこと話しても、渡会さんが納得とかするわけないだろうに……。


 恥ずかしくなって、最後は空笑いしてしまった。案の定、渡会さんの表情は特に変わらず、ずっと複雑そうな表情のままだ。


「でも、あたしの人生はそれで解決なんて……」


「しない、よね……」


 僕も、その気持ちは分かる。スーパーで好きなお菓子が値引きされてたからって、僕の悩みがそれで解決されるわけない……って思ってた。


 そう。しないんだ。こんなことで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ