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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#9 新たな家族

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第76話 この話はここまでにして

『まあでも、介くんにとって色々急なことだったし、すぐに理解できないだろうなっていうのはこっちも想定してた。でも遅かれ早かれ、介くんも含めた被験者達には現実世界に戻ってもらいたい。自分の本来の体もそうだけど、この世界はAIが暴れるには十分すぎる環境だし、被験者のデリケートな意識体を容易く壊しかねない。でも……』


 ふと、リペアさんが一度そこで言葉を切ると、浮かない顔をする。


『ホワイトキューブでコピーを捕らえて、妹さんをコピーの支配から解いた。今日の戦いでもアイ・ブレイクを前に逃げなかった。俺が来る前から介くんは、ある程度の覚悟ができてるわけか……』


 独り言ともつかない声を漏らしながら、その顔つきはやがて微笑みを見せる。すると、唐突にリードさんがそのリペアさんの言葉に応える。


『そうです。それに、介様がこの世界で自身の目的を達成することは、介様の今後にも影響してきます。ここで帰還させるのは、私はどうかと考えてます』


『でも、それも場合によっては瓢太くんとクリエイトの協力が必要になる可能性があるから、また改めてクリエイトも交えて話した方がいいと思うけどね。俺は』


 リードさんの僕のことを思って言ってくれてる意見に、リペアさんは特にこれといった反論はしていない。だが、納得はいってない様子だった。


「あ、そっか。まだ協力してほしいってこと、話してなかったっけ?」


『その件はすみません。結局、介様と瓢太様の現状の共有と私たちAIの役割の確認、そして多少の情報開示をして終わってしまいました。瓢太様とクリエイトに協力を求めるべき時に、被験者を守るという目的を優先してしまった私の落ち度でもあります』


「いや、そんなに深く謝らなくても……。瓢太はまだこの世界にいるみたいだし、まだチャンスあると思う」


 しかし、協力の件は話した気になってたけど、確かに誰も協力してほしいと言ってた覚えはない。


 というか、本当に瓢太が被験者だって思ってなかったから、その驚きもあってそのことが頭から抜けてた……。


『まあ、それを今俺たちだけで話しても仕方ないね。介くん、明日は今日みたいに瓢太くんと昼食取ったりする?』


「取ったりというか、高校入ってほぼ毎日一緒に食べてます」


『了解! じゃあ明日また話そう。俺とリードはいいとして、さすがに介くんは疲れたでしょ。この話はここまでにして、また明日しよう』


『そうですね』


 そう言葉にされた途端、自分の頭がぼーっとして脳が働いてないような感覚に陥る。確かに色々あったけど、決して体が動かないほど疲労してるわけでもない。


 むしろ、まだできる! やれる! とか思ってるが、多分これは空元気というやつだろう。僕の体調を診れる二人のその言葉には十分すぎるほど説得力がある。


「うん。あ、でも待って。最後に一つ、言い忘れてた」


 話を切り上げようとして、僕はふと伝え忘れていた言葉を思い出す。


「リードさん、リペアさん。今日はありがとう」


 危うく感謝を言いそびれるところだった。でも、思い出せてよかった。


『大したことはしてませんので』


『ふんっ、いいってことよ! ま、今後は俺の存在を忘れないことだね!』


 その返答を聞いて僕は、二人らしいなと思った。


『よし、風呂フロふろぉ! 風呂ぉ!! さっさと入ろう!!』


 話がひと段落つくや否や、リペアさんの表情と声色が明るくなった。さっきの重たげな話をしていた彼はどこへやら。


「て、テンション高いですね。やけに」


『そりゃそうだよ! 人間の裸体を拝めるんだから!』


「えぇ……」


 リペアさんは悦に浸った不気味な笑みを浮かべながら、とんでもないことを口走った。思わず呆れと恐怖が入り混じった声が漏れる。


『介様すみません。彼は医療に携わるAIですが、人体の造形にとても興味があるようで。ただそれは、人でいう性欲とは無関係なので警戒しなくて大丈夫です』


「いや、それはちょっと……」


 二人に性欲というものがないのは分かってる。だが、本能的に危険を感知してしまう。


 今までの戦闘で思ってきた命の危険とは違う、何をされるか分からないという不明確な恐怖に感応する。


 まあでも、もう僕の体の中を隅々まで見てるか……と考え直してみれば、気持ち悪いとは思うけど多少なりとも諦めはつく。


 なにより、信頼している。事実、今日のブレイクとの戦闘で腫れていた左腕は、リペアさんのおかげで普通に動かせている。


 でもそれはそれ、これはこれって感じだけど。


『なにかあれば私が止めますので』


「それならありがたいですけど……あんまり僕の体の中で暴れてもらうのも……」


『大丈夫! 風呂に入ってる間は介くんの視界の中にいるから! じゃないと鏡越しに映る介くんの体の造形が見れないし!』


 ならいいか……とは思わないが、体の中をいじられるということは無さそうなのでほんの少しだけ安堵する。


『あ、昨日の風呂の時は鏡が曇っててよく見えなかったから、今回は頻繁に拭いてね!』


 堂々とこういうこと言ってくるのは正直あまりいい気はしないけど。


『とりあえず、リペアさんは今一度介様の体に異変がないか見てもらいたいです。入浴を始めたら、そう脳内以外を動き回るのは難しくなるので』


『あ、そっか。んじゃあとりあえず、左腕の方を診てきます!』


 元気にそう宣言して、リペアさんは僕の視界から消える。


 お風呂は体のメンテナンスを行う場所。そう言って、入浴時の体のメンテナンスを勧めてきたのはリペアさんだった。


 それに僕もリードさんも納得の上で、昨日からリペアさんによる体のメンテナンスを承認している。


 だが、入浴時だと急激な温度上昇で体内全てを診ることは困難らしく、今日から入浴前に体の中を診てくれることになった。


 リペアさんのそういうところは抜きにして、体の中を常に診てもらえるというのはとてもありがたい。


 中学まで体のことで悩まされていた自分にとってはとても心強い存在だ。体の怪我や病気をある程度気にしなくてもいい生活が送れると思うと、これほど幸せなこともない。


『とりあえず浴室に向かいましょう。先に体を洗ってしまって、入浴前にリペアさんが戻ってくるのを待ちましょう』


「分かりました」


 僕は着替えを抱えて、早速洗面所に向かう。ダイニングに出ると、テレビは点いてるのに誰もいなかった。


 ふと、隣の楓の部屋から照明の光が漏れてることに気付く。なにやら部屋の中から物音がしてる。おそらく孝子さんと渡会さんが二人で何かしてるのだろう。


 布団でも敷いてるのか、衣擦れや物置きの扉に何かが当たる音が薄っすら聞こえてくる。


 特に中を確認せず、僕はそのまま部屋の前を通っていく。危険があればリードさんが反応するだろう。


 そんなことを思いながら、洗面所の扉を開けた。すると、そこには思いも寄らない光景が目に飛び込んできた。


「あっごめん」


 白い肌と薄桃色の下着が視界に入って、僕は反射的に謝罪の言葉を述べながら扉をぴしゃりと閉めた。


 が、次の瞬間。


「待って! 俺まだ見れてない!」


 僕の体が勝手に動き出し、閉めた洗面所の扉を再び開け放つ。再度目に映った光景は、浴室の前で下着姿になってる渡会さんだった。


 僕は今何が起こったか理解が追いつかず、また渡会さんも理解に苦しんでる顔でこちらを見ている。


 すると、一瞬にも満たない静寂が流れた後、渡会さんの瞳に殺気が宿る。


「見せもんじゃねぇわ!」


「かぁっ!!」


 突然、僕の顔に向かって飛んできたのは、渡会さんの携帯電話。


 幸い携帯の角が刺さるようなことはなかったものの、携帯の側面が見事に僕の鼻筋をクリーンヒットした。


 その痛みに耐えかねて、僕は後ろにふらつく。そのまま背中が壁に当たると、不幸にも打ちどころが悪かったせいで背中に強い衝撃が走った。


 やがて立つこともままらなくなって、僕は床に尻餅をつく。激痛のあまり上手く目も開けられない状態だが、洗面所の扉が勢いよくピシャリと閉まる音は聞こえた。


『あ、ごめん介くん。今強打してたとこ、治しに行ってくるねー』


 リペアさんは僕の視界に現れるや、素知らぬ顔してそう言うと、再び視界から消える。視界右側では、リードさんが呆れた表情をしている。


『大丈夫ですか? 介様』


「だい……いや、痛いです……」


「ちょっと、なになに? 介くんなんかしたの?」


「あ、いや……その……」


 孝子さんにはリードさんとリペアさんを認識することはできない。とどのつまり、僕が悪いことになったのは言うまでもないだろう。

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