第70話 僕の中にいる存在は
「とりあえず、ありがとう。今は考えがまとまってないけど、君が話してくれたことを今一度精査させてもらうよ。情報提供、感謝します」
一応、AIの力について話したとはいえ、刑事さんが解決に導いてくれるとは思ってない。というか存在を認識できない以上、不可能に近いと思ってる。
僕にはリードさんとリペアさんがいる。二人に協力してもらう方がまだ解決は早いだろう。
「最後になんだが、君の中にいる存在と変わってみて欲しい。ホーホーに話したんだけど、なんせ信じないもんだからさぁ……」
「法傳です」
「あ、分かりました」
言われるがまま、僕は彼女の名を呼ぶ。
「リードさん、お願いします」
『はい』
リードさんが僕の体を使い始めるんだと認識するのは、視界から彼女が消える時。それ以外の判断材料は特にない。
彼女が僕の体を使い始めるのかと分かるような感覚もなく、電流が流れるとか背中を押された実感だとか、そういう体感できるものもない。
だから戦闘中、急に僕の体が僕の意志に反して動く時、僕はリードさんが視界から消えているかを一瞬確認する。
「お久しぶりです、西東さん。そして初めまして、山田さん。私はアイ・リードです」
今、リードさんは僕の視界にいない。そして僕の意志に反して僕の口は勝手に動いている。その口から出ている声も僕のものではない。
つまり、リードさんが今僕の体を使って話してるのだと、そう認識する。
「……すまない。愛田さん、戻ってきてもらえますか」
「あ、はい。戻りました」
だけどそれは、リードさんが僕の体を乗っ取っているわけではない。
これはあくまで共有。頼まれれば咄嗟に僕の意志で口を動かすことができる。これは最初のコピーとの戦闘中に知ったことだ。
西東さんに言われて、咄嗟に僕が応えた。
「って感じだ。どうだ? ホーホー」
「……信じがたいですけど、嘘ではないみたいですね」
「だろ?」
僕の視界にはまだリードさんが映ってない。まだ体を共有してる状態だ。けれど僕が前に出て話せば、二人から見えてる今の僕はいつもの僕なのか……。
相手が何でもない普通の人じゃなければ気付けないことだ。
「でも、ひとつ懸念があります。その愛田さんの中にいる……『この世の者ではない存在』? は、三つの事件を起こした犯人のように悪行を働いたりしませんかね。もしかしたら、急に愛田さんの意識を乗っ取ったりするかもしれない……なんて、今思ったりしたんですけど」
「ないと思います」
山田さんの疑問に僕は力強く、若干食い気味にそう答えた。
「もしそうなら、僕は西東さんと山田さんと、こうして話してないと思います。ここまで四回、『この世の者ではない存在』と会って、それでも僕はこうして生きてます。だから僕は信じてます。僕の中にいるこの存在は、僕を裏切るようなことはないって」
誰よりも知ってる、彼女がここまでどれだけ僕のことを守ってくれたか。だから敢えて……いや、だからこそ強い口調で、僕は二人にそう返答した。
取調室の空気は終始緊迫している。僕のさっきの返答で、この部屋の空気はさっきよりも重々しくなったように感じる。
二人の呆気にとられている様に思わず不安が過る。まずい答え方をしてしまっただろうか……。
「そうですよね。すみません、愚問でした」
「頼むぞ、ホーホー。今の若い人はデリケートなんだから」
「法傳ですって。あと、一応俺も若い人には入ると思うんですけど」
特に何でもなかったように受け答えする二人を見て、僕は内心ほっとした。密かに喉につっかえていたものを吐き出してると、不意に西東さんが話しかけてくる。
「とりあえず愛田さん。改めて、本日は情報提供していただき感謝します。また何かあったら迷わず連絡してもらいたい。電話に出ないことが対策だとか口にしてしまいましたが、唯一愛田さんの連絡だけは出るように努めます。あ、すまん! もちろんホーホーのもちゃんと出るからな!」
「急に話の矛先をこっちに向けないでください。あと法傳ですって。あと愛田さんとの対話に集中してください。俺への配慮とか今いいですから」
「すまんすまん。……あ、ホーホーの連絡先、愛田さんに教えていいか? 俺が出れない時とかあるかもしれんしな」
「え? いや、あの……職務中に私的な連絡先交換はどうかと思うんですが」
「あ、俺もう愛田さんには連絡先教えてるから。前の事情聴取の時に」
「えー……。あ、だからさっきの連絡……そういうことですか」
苦い顔をしたかと思えば、少し表情が緩くなり、かと思えば頭を抱えだす。感情の起伏を見せるその豊かな表情がすんっと落ち着くと、山田さんは渋々といった具合で応える。
「まあ、分かりました。西東さんが出られなかった時のポストってことで」
「了解」
山田さんがそう言うや、西東さんはメモ帳の上でペンを走らせ始める。一応山田さんから了承をもらえたとはいえ、本人はあまりそういうのは望んでない様子。
この状況で連絡先を受け取ってもいいのかむしろこっちが不安になる。いいんでしょうか、本当に……。
「引き続き、協力頼みます。愛田さん」
言いながら、西東さんは半分に折ったメモ用紙を僕の前に差し出してきた。
「……分かりました」
申し訳ないと思いながらも、僕はその紙に指を伸ばした。躊躇ってる余裕も、迷ってる余裕も、今の僕たちにはない。協力してくれる人が多いに越したことはない。
言い方は悪くなるけど……利用できるところは利用させてもらうしかない。
「最後に、しつこいようだけどこれだけは言っておきます。君が持ってるものは紛れもなく希望です。それは妹さんもそうですが、他に被害を受けてる人達も同時に救える可能性がある。迷った時、困った時、しんどくなった時。いつでも構いません。連絡を待ってます」
「……はいっ!」
自分の中に深く刻むように、僕は体の中にも響くような声量で応えた。
その時、僕の視界では西東さんと山田さん、そしてリペアさんとリードさんの四人が僕に視線を送っていた。




