第69話 存在が持つ力
「それで今日、君は前回の三つの事件とは違う存在と接触した。これを聞いて私はひとつ確信しました。君を追うことが、この怪事件の真相に最短で辿りつく方法だと。だから、とりあえず私は、君がしていたあの非現実的な話を信じることにします」
「あ……ありがとうございます!」
どこか投げやりに聞こえる気がしなくもないが、とりあえず受け入れる姿勢でいる西東さんに感謝の意を示す。
「よし。前置きが長くなってしまってすまない。早速だが、今回の事件についての詳細を教えてもらいたい。何があったのか聞かせてください」
「はい」
不思議と、今日あったことを話し出すのに戸惑いはなかった。前回の件もあって多少慣れたのかもしれないし、西東さんの言葉に希望を見出せたのもある。
それでも僕が話す内容は相変わらず現実離れしていて、聞く側からすると耳を塞ぎたくなるような内容ばかりだろう。
だけど西東さんは、終始真剣な表情で僕の話に耳を傾けてくれた。
「……うーん、やっぱり意味分からない……」
しかし、話し終わるや否や、西東さんは予想通りの反応を見せる。やっぱり意味わかんないですよねぇ……。
「拳が当たった所は服が破けた……引っ張られて破けたとかではないんですよね?」
「はい。当たった箇所が破けたっていうのは間違いないです」
間違いないんだけど、混乱する要因のひとつはこの「拳が当たった箇所が破けた」という意の発言。
何も知らない人からしたら非現実的でおかしなことにしか聞こえてこないのは僕も承知してる。だが生憎、それ以上の説明の仕方を僕は知らない……。
「その……いや、これを話し始めたら更に意味が分からなくなるかもしれないですけど……」
西東さんの言葉を信じて〈AIの力〉について話すか……。
そう思った矢先、混乱してる状態で新たな情報を打ち明けるのは余計なのかもしれないという思考が巡り、口にするのを躊躇った。
「いや、話してほしい。今は君の発言も有力な情報元だと思ってる。こちらも必死に書き留める。迷わず話して欲しい」
逡巡する僕の背を、西東さんはずっと優しく押してくれている。もしかしたら捜査のためにそういう振る舞いをしてるだけかもしれない。
例えそうだとしても、僕にとって力強い人であることに間違いはない。僕はまだ、西東さんを信じ切れてない。人としてではなく、西東さんがAIを認知できない故の迷い。
でもそんな考えのままだとこの話は収集つかないだろうし、楓を助けることも叶わない。だから僕は、固くしてた口を少し割ることにした。
「その……前の三つの事件もそうなんですけど、『この世の者ではない存在』は、力を持ってます」
〈AIの力〉。それはAIが持っている力で、一体につき一つの力が備わっている。
リードさんは〈透視の力〉、リペアさんは〈修復の力〉、コピーは〈模倣の力〉、ブレイクは〈破壊の力〉。
何のためにその力が備わってるか僕はまだ詳細に聞いてないけど、リードさんとリペアさんの話を聞く限り、職業に関するものなのだろう。
特にリペアさんは分かりやすい。医療系AIと聞いた時からその力の役割は想像に難くなかった。
現実世界でどういった使われ方をしてるかまでは知らないが、それは現実世界に戻った時にいずれ分かることだろう。
自分の説明が西東さんに伝わってるか注意しながら、僕はAIが持つ力について知る限りのことを話した。
「……破壊、か。まあ非現実的ではあるが、拳が当たっただけで服がボロボロになってしまう理由にはなるか」
「自身の複製を他人の体に入れ、操る。非科学的とか非現実的とかは置いておいて、そういう力があるなら愛田さんが集団で襲われた理由に説明は付きますね」
西東さんと山田さん、二人が冷静に僕の発言を受け止めて整理してくれている。
普通なら意味不明な発言として耳も貸さないようなところを真摯に聞こうとしてくれてるだけ、ありがたい。
しかし、さっき説明をしてる時に言葉遣いだったりだとかいろいろ頭を使ったせいか、少し頭痛がしてきた。やっぱり分かってもらおうと思って話すのはすごく難しい。
「それで、確か愛田さんの中にもそういった存在がいるんですよね」
「はい。僕の中にいるこの存在が、僕を守ってくれています。もちろん、さっき言った力を使って」
「……そうか」
山田さんはぽつりとそう呟いて、静かにパソコンに向き直る。山田さんのその横顔はなぜか険しいものだった。
「分かりました。ありがとうございます。これは……一旦持ち帰って整理しないと。おっさんの頭じゃ何も考えられないなぁ」
「そう、ですね。しかし、まさか電話を使って他人の体に自分の複製を入れる、ですか……」
「ん? なんかそこで引っかかってるのか?」
「いや……もしかしたら昨今の非通知電話、行方不明者の増加傾向。この〈模倣の力〉のせいなんじゃないかって思ったんです。だってあの集団の中に、実際行方不明になっていた人がいたわけですし」
こちらが何も言わずとも、そこまで推測ができてしまうなんて……。僕なんかリードさんの話を理解するだけでも精一杯だったのに。
西東さんは一度大仰にため息を吐くと、徐に話し出す。
「これは、早急に整理しないと……被害規模がえらいことになりそうだな。できることといえば……電話に出ないこと、くらいか」
極端な対策に思えてしまうが、今考え出せる策は僕もそれ以外思い浮かばない。なんせ楓がコピーに体を乗っ取られた時、着信は非通知ではなくお母さんだった。
もう今は非通知電話だけ気を付けておけばいいという訳ではない。電話ひとつ取るのにも警戒心を持たないといけない。




