第67話 バディ
前に取調室に来た時は、部屋の中が真っ白で、白い横長机を挟んで僕と西東さんの二人だけで話をした。
でも今回は違う。部屋を入った左側の壁にはミラーが付いていて、入口付近には一人用の机と椅子があった。
前来た時と同じように部屋の奥側にある椅子に座ると、出入り口の上に監視カメラがあることに気付いて、それが僕のことをじーっと睨みつけている。
西東さんに奥に座って待ってて欲しいと言われたが、取り調べと言っても前回のような軽い事情聴取という訳ではなさそうだ。
『介様。痛みの方は大丈夫ですか。主に左腕や左手首』
「あ、うん。大丈夫。すごいねリペアさん。もう痛みだいぶ引いてるよ」
これが〈修復の力〉。おそらく相手から攻撃を受けた時、左腕も左手首も折れてたと思う。だけどリペアさんのおかげで、実質無傷の状態でいられてる。
リードさんが体の外側から僕を守るAIだとしたら、リペアさんは体の内側で僕を守ってくれるAI。こんなの、余程なことがない限り大怪我なんかしないんじゃないかなぁ……。
『そうでしょ。まあ、元医療AIですから』
『彼は世界でも名の知れた医療AIですので』
「へー、そうなんだ。やっぱり二人ともすごいんだね」
リードさんは……あれ、なんだっけ。AI警察とかだったっけ? 名称が長くて忘れてしまった……。
『俺はもちろん人体の検査や手術をしてたけど、AIが入る機体とかの修復もやってたんだよねー だからリードとはちょっと面識あるんだー』
『彼のメンテナンスしてる機体は、主に私が使用していた機体だったので。私も勤務中は度々その名を耳にしていました』
今までAIの関係性なんて考えたこともなかったけど、二人にそういう過去があったのか……。
だけど僕は、それを聞いてて少し引っかかることがあった。
「話聞いてると、もしかしてAIって全員のこと把握してなかったりするの? そういえば、さっき戦ったアイ・ブレイクって相手。リードさんのこと知らなかったっぽいし」
アイ・コピーと初めて戦った時、コピーは僕の瞳と髪の色を見ただけで僕の中にいるのがリードさんだと気付いてた。
でもアイ・ブレイクは、僕の目と毛先の変色を視認できていたはずだが、それでも僕の中にいるAIがリードさんだと気付いてなかった。
あのポニーテールにしてた男性は、リードさんが名乗らずとも僕の中にいるのがリードさんだって分かってた。
どうやら色でどのAIなのか認識してるみたいだけど、各々の相手の反応が違っているから僕の中ではあくまで仮説止まりになっている。
『私は全てのAIを把握していますが、他のAIを把握してないAIがいるのも珍しくありません。というか、大半がそうだと思います。まず、リペアさんがそうですから』
『だねー まあ職業柄あまり関わることがなかったからっていうのが主な理由になるかな。他のAIについての情報をストレージに記憶するくらいなら、職を全うするために使用するべきだっていうのが一般的な考えだったからね。しょうがないよ』
「そうなんだ」
そっちの世界の一般常識とかよく知らないけど、そういう経緯があったんだ……なんて思いながら、きっとこんな事態が起こる前は平和だったのだろうとふと考える。
何も知らない僕が当然気の利いた言葉をかけられるはずもなく、懐かしむように話す二人には相槌程度の返事しかできなかった。
「申し訳ない。待たせてしまって」
取調室の扉が音を立てて開くと、微かに険しい顔をしながら西東さんが入ってきた。
すると、その後ろからもう一人、黒スーツを着た男性がノートパソコンを脇に抱え、頬を固くしながら入ってくる。もうこの時点で前回の取り調べとは訳が違うことを察する。
「あ、いえ……」
椅子から腰を上げて、僕は入ってきた二人に向かって会釈をする。二人が来てから部屋の空気が重くなるのを感じて、言葉ひとつ口にするだけ、所作ひとつするだけでも身が竦む。
「一応紹介しておく。彼は山田。先ほどパトカーの運転席にいた俺のバディだ」
「バディって……あぁ、ご紹介にあずかりました、私は山田法傳といいます。よろしくお願いします、愛田さん」
「よ、よろしくお願いします」
第一印象は規律正しくて真面目そうな感じだったけど、口を開くと透き通った清涼感のある方だった。
西東さんとは違い、肩肘を張っている感じに初々しさが見受けられるけど、ある程度こなれている青少年のような爽やかさも窺える。
「よし。じゃあ山田、書記頼んだ」
「はい」
「愛田さん。お座りになって大丈夫です」
「あ、はい」
西東さんに促され、僕は座り直す。山田さんは扉近くの机の前に座した。西東さんは机の前にある椅子を引いてゆっくりと腰を下ろし、僕と長机を挟む。
「まずは……すまない。早く駆けつけることができなかった」
開口一番。西東さんは謝罪を口にし、頭頂部を僕の方に向ける。予期していなかった急な謝意に、僕は一瞬驚く。
「……あ、いえ。謝るようなことじゃ……僕も急で、その……色々迷って、連絡遅れたので」
連絡するまでに色んな感情の浮き沈みがあった。連絡したはいいものの、敵の仲間が現れて、足止めするどころか僕たちの方が足止めされてしまった。
言い淀む僕に、西東さんははっきりとした声調で応える。
「次からは、迷わず連絡してもらって構わない。なんせ私から連絡先を教えたので。躊躇わなくて大丈夫です。助けが必要なら、俺とホーホーが駆けつけます。なぁ、ホーホー」
「法傳です! てか俺、その呼び方許可してないです。せめて普通に名前でお願いします」
「というわけだ。迷わなくて大丈夫」
「……はい」
というわけ……って、どういうわけ?
「で、だ。何があったか愛田さんから訊きたいところですけど……先に、私達の方から妹さんの処置について説明させてもらいます」
胸の内ポケットから小さなメモ帳を取り出しながら、西東さんは重々しい口調でそう切り出す。
なんとなく、西東さんが次に口にする言葉が楓の今後についてを告げるものなのだと察する。それ次第で、僕はまた抜け殻のようになるかもしれない。
軽く悪い未来を想像しながら、僕は膝の上でぐっと拳を握りながら耳を傾ける。




