表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#7 新たな敵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/119

第66話 引き際

「こんなとこにいたか、ブレイク」


 透き通るような男の声が、右耳を打った。振り向くと、黒いスーツに身を纏い、鮮やかな水色の長髪を後ろで束ねた男が立っていた。


 その背後に紫のフードを深く被り、口元だけ覗かせた影が護衛のようにピタリと寄り添うように控えている。


 その二人の更に後ろには、見たこともない黒くて禍々しい大穴が口を開けていた。それは周辺の空間を僅かに歪ませ、初めて目にするその異質な存在感を前にして、背筋が凍った。


「おい、邪魔すんなよ。シェリー」


「その名称を使うなと言ってるだろ」


 石壁に阻まれて見えないが、アイ・ブレイクの声が向こう側から聞こえてくる。


「とりあえずこの壁壊すぞ。今向こうにいるやつと本気でぶつかり合おうとしてたとこなんだからよ」


「ダメだ。まずはコピー本体の捜索が優先事項だ。遊ぶならそれからにしろ」


 コピー本体の……捜索? コピーの本体は僕たちが既にホワイトキューブで捕らえてる。


 というか、そういう単語が出てくるってことは、この人たちはコピーの仲間で、人間の絶滅を望んでるAIってことか。


「遊びじゃねぇ。本気のぶつかり合いだって言ってんだろ」


「なんにしても捜索途中だ。まずは合流を最優先にしろ。被験者をやるのはそれからだ」


 言いながら、ポニーテールの男性がちらと僕たちの方を一瞥する。僕が被験者だということを既に知っている様子だ。


「コピーの本体は既に捕らえましたよ。AIナンバー:00B3C2、アイ・シェル」


 ふと、リードさんが相手の会話に割って入った。話しながら彼女は、ぐっと拳を前のめりに構える臨戦態勢を取り、いつでも相手の攻撃に応対できる姿勢を取る。


「なんだ、私のことを知ってるのか……」


 しかし、相手は眉一つ動かさず、その冷静沈着な面持ちを崩さず、淡々としている。


「だから、どうした。もしや知らないのか? 確かにコピーの本体と分体は主従関係にある。だがアイ・コピー本体、もとい主導権を握るコアがいなくなれば、次にその主導権は本体が作り出した分体のうちの一体に譲渡される。アイ・コピーを捕らえたと言うなら、コピーが作り出した分体全員も捕らえてから言ってもらいたいね」


 その発言を機に、僕の脳裏に今までのコピーとの戦いが走馬灯のように過った。


 あれほど苦労して、ようやくコピーに勝ったというのに……それでも、アイ・コピーを捕らえたことに、なっていない……?


 いや、これは相手の単なる揺さぶりの可能性も……。


「行くぞブレイク。おそらくコピー本体はもう動き出してる。まずは合流する。被験者を捕らえるのはそれからだ」


「おいおい、なんでシェリーが統率を取ってんだよ」


「その名で呼ぶなと言ってるだろ。あと統率はやりたくてやってるんじゃない。そっちが勝手に動くからこうして探しに来てやったんだ」


 おそらく長髪のあの男性は僕たちを脅威と見なしてない。あのブレイクとは違って、こちらに微塵の興味も示してない。


「ちっ、嫌なサイレン音が近付いてる。早く行くぞ」


 軽く舌を打つと、無防備なその背をこちらに向けるポニーテールの男性。すると、リードさんが静かに地面を蹴り出して、その背中を狙いにいく。


「っ!?」


 だが突然動き出した石壁に阻まれて、リードさんの動き出しは虚しいものに終わる。


 石壁はカーテンのように軽やかな動きを見せたかと思うと、僕たちの周りを囲むやピタリと山のように動かなくなった。


「それじゃあ被験者、そしてアイ・リード。また会おう」


「じゃあな。またぶつけ合おうぜ」


 石壁越しに、相手から別れの挨拶を告げられる。一方の声は終始冷静で抑揚がないのに、いやに鼻につくような感じだった。見下しているような、そんな涼しい声音だった。


 しかしもう一方の声は弾んでいた。僕からすると、できれば次はぶつかりたくない相手ではあるけど。


「リードさん、これ……どうするの」


「大丈夫です。おそらく足止めのための、一時的な壁……」


 リードさんのその予想は当たっていて、しばらくすると石壁はその形を崩して散り散りになった。開けたその場所にもうあの相手の姿も、禍々しい大穴もない。


 ただ騒がしいサイレン音だけがまるで夕刻を告げるチャイムのように静かな住宅路に響き渡ってきた。


 振り向くと、道の奥の方からパトカーが狭い住宅路の中に入ってきてるのが見える。


 その車のライトが僕たちを照らせるところまで近付いてくると、徐々に速度を落とし、やがて止まった。


「愛田さん! 大丈夫ですか!」


 パトカーから降りてきた人が誰なのか逆光でよく分からないけど、その声を聞いただけですぐに西東さんだと分かった。


「西東さん。すみません、来てもらって」


「いや、全然かまわないけど……どうしたんだ、その左腕」


「これは……さっきやり合って、その時に」


「やり合って……そんなことになるのか」


 西東さんは唖然としていた。そういう反応をするのも分かる。僕も左腕の痛みを自覚するまで、こんな野ざらしになってるとは思わなかったし。


 しかも刃物無しでブレザーとカッターシャツが破けてるんだから、急所に当たっていたら致命傷だっただろう。


「その、すみません。足止めしようとしてたんですけど、仲間が急に現れて……逆に足止めされました」


「いや、まず君が無事で何よりだよ。とりあえず、すまない。その話は後ほど署で聞かせてもらってもいいかい? 君にちょうど、妹さんのことで伝えたいことがあったんだ。それも併せて話がしたい」


 西東さんは僅かに逡巡すると、少し慌てた感じでそう話してくれた。


 西東さんの方でいろいろな事が同時に起きてるのだろうか……。眉間にしわを寄せるその表情を見て、僕は少しだけ察した。


「分かりました」


 なんにせよ、僕にその話を断るという選択はない。家族の話は、むしろ聞かせて欲しいところだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ