第62話 破壊行為
「僕が、助けようとしてる人は……」
自分の声が弱々しく震えていた。でも今、この瞬間にちゃんとそれを声にできなかったら、またさっきの無気力な僕に戻りそうな気がする。
だから僕は、泣きそうになるのを我慢して、ちゃんと口にすると決意する。
「コピーの分体に、乗っ取られてた。でも、コピーに勝った後、今どこにいるのか分からない。あなたが、コピーの仲間だというなら……もしかして、知ってるんじゃないですか……?」
「……あぁ、多分な」
にたりと口角を上げて、相手はそう応えた。
「でもそれを俺がタダで明かさないっていうのはもう分かってんだろ? そして俺を負かすことが条件だってことも」
「……分かった」
特に理由はないけど、相手はそう言ってくるんじゃないかと思ってた。
でもひとつ……僕の中でひとつ、疑問があった。僕はこの相手と戦うことになる。そうなる前に、僕はどうしても訊いておきたくなった。
「最後に、ひとつ……。なんであなたは、僕の悩みを聞いてくれるような優しいAIなのに……どうしてコピーと同じ、反人間存続派なんて勢力にいるんですか?」
俯き気味だった顔を再び上げて、相手の力強い瞳と視線を交わす。
「そんなん単純だ。人間を害として認識したからだ。主に戦争などという、生存領域を脅かす破壊行為を容易に実行する。俺はそれを認めない。破壊は許可された自身の生存領域内で、計画的かつ意義のあるものじゃないとダメだ。有るものを無くすっていうのはとても重たい行為だ。しかし、それは時に進化の過程で必要なもの。だからそういう意義あることに破壊は使われるべきであって、ただ無にするため、脅しの道具として使われるべきじゃない。そして破壊を目的や最終手段じゃなく、結果を出すための一つの手段として扱うべきだ」
そこまで言うと、相手は力強く左の拳を握り潰す。
「だから俺は、この〈破壊の力〉を持つAIとして、地球にあるたくさんの生存領域を守る務めを果たすため、そして真の平和を実現するため、お前たち人間というウイルスの根源を破壊し尽くす! それが、俺が反人間存続派としてここにいる理由だ!」
言っていることは復讐の類に聞こえるけど、しかし相手は嬉々として話していた。
そして、その様を目の当たりにして、この相手は本気で僕たち人間を殺しにきてるのだと分かった。
「てかお前、さっき俺のこと優しいって言ったか?」
ふと、相手はその満面の笑みを引っこめると、冷静な口調でそう訊いてきた。
「……うん」
突然のことで一瞬呆気に取られたけど、僕は内心怖気ながらも首を縦に振る。すると相手は、僕の怯えた様子がおかしく映ったのか、軽く吹き出した。
「はっ、そうか。悪いがさっきのは優しさとかじゃねぇんだわ。お前の話を聞いてやったのは、俺がお前と全力でぶつかりたいからだ。俺がお前の話を聞いてやって、お前の中にある邪魔なもの全部ぶっ壊して、そしてお前に全力出させるため。優しさなんかじゃねぇ。お前の中にある力、闘争心、破壊衝動を沸き立たせるための単なる挑発行為、破壊行為に過ぎねぇ」
相手にそう言われても、不思議と残念な気持ちにはならなかった。どころか……面白いことに、さっきよりも心がスッキリしている。
「俺を優しいAIとして見るな。倒すべき敵として見ろ! 容赦も情けも躊躇もいらねぇ。そういう力のブレーキになるもん全部ぶっ壊して、本気で俺にぶつかってこい!!」
闘志と狂喜が混ざり合ったような表情で、相手は叫んだ。僕はこの相手に心を救われた。認めたくはないけど……でもこれは、事実だ。
そして相手は、僕達人間を絶滅させようとしてるAI。
僕の気持ちはさっきまで揺れていて、目の前にいる敵AIと戦うことを躊躇っていたけど、相手の純粋な回答を聞いて迷いも晴れた。
感謝はしてる。でも、相手がそのつもりだって言うなら、僕も答えないといけない。
そして、僕はリードさんとの約束も果たさないといけないし、自分にこれ以上嘘を吐きたくない。
僕は静かにポケットの中の携帯を取り出すと、すかさず例の電話番号に掛けた。
『……もしもし、西東です』
「もしもし、愛田介です。突然の連絡すみません」
『あ、愛田さん。どうされました?』
「西東さんは、この前の事件、僕が釜井警察官に襲われた事件は覚えてますか?」
『それは、もちろん。最初に愛田さんが襲われた事件のこと、ですよね?』
「はい。その時、襲われた場所で、たった今、また僕は襲われてます」
『え!? ま、またですか!?』
「はい。今から来ていただけますか? 僕、今相手を足止めしてるところです」
『っ……分かりました。十分ほどで向かいます』
「お願いします」
なんでだろう……西東さんの声を聞いたら、また泣きそうになってきた。別に西東さんとは最近知り合ったばかりで、特に思い出とかないのに。
「おいおい、なんだ? 応援でも呼んだか」
「ううん……そうじゃない。これは、ちょっと……大切な電話」
話せば話すほど、徐々に涙声になってくる。ふと、右目からつーっと涙が一滴零れてきた。これから戦おうという時に、感情はもうぐちゃぐちゃだ。
「でも……うん。大丈夫」
目元をぐっと拭い、鼻を啜り、ひと呼吸置いて、僕は徐にファイティングポーズを取る。
「ありがとう。今なら僕……本気であなたと、向き合える……!」
コピーと同様、やっぱり戦うとなると腰が少し引けてしまう。
でも、今の僕はなぜだか両頬がくっと上がっていて、体の内側から力が湧き上がってくるのを感じる。
「いいねぇ……そうこなくっちゃなぁ!」
相手も臨戦態勢を取る。その狂気が滲み出ている笑顔はまるで悪魔のようで不気味だけど、それは戦えることに喜悦を覚えてるからなのだと、今なら分かる。
無意識に相手に同調してるのか戦う恐怖から逃げたいという表れなのか、僕の口角が更に上がる。
「さあ、ぶつけ合おうぜぇ! 破壊衝動!!」




