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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#6 新たな仲間

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第57話 NPC

「……え、どういうこと? NPC?」


 少しの間を置いて、瓢太がおそるおそる訊ねた。


 瓢田の瞳はなぜか少しばかり震えていて、しかし獲物を狙うように一点を見つめてるような、そんな言い表しがたい視線が僕、もといリードさんにしばらく向けられる。


 だが、その目つきは一瞬でクリエイトさんのものに切り替わった。


「いや、これは話しておくべきだよリード。僕たちが誰を助けようとしてるのか、明確にしておくべきだ」


「うん、俺もそう思ってる。介くんにそのことを話そうとした時、無理やり話を逸らされたし」


 リペアさんも加わって、さっきまでの空気はなかったかのように場の雰囲気が淀んでいく。


「しかし、被験者の二人に対して精神的な影響を与えかねない。知らなくてもいいことです」


「そうかもしれないね。でもそれを今知ってもらうことで、この仮想世界に別れを告げるきっかけを与えられる」


「まあなんせ、二人が助けようとしてるのはこの世界の家族だからね」


 全てを理解するのは無理だと知りながら、それでもこういった話をされる時はいつもなんのことを言ってるのかつい予想を立てながら聞いてしまう。


 多分そんなことするよりもリードさんやリペアさんから聞いた方が早いのだろうが、それで僕が理解できるかはまた別の話だ。


 無暗に割って入るよりも、いくらか様子を見るべきだろうと、僕はいつも通り口を噤んで耳を傾ける。


「無事に助けた後、二人が家族に依存して帰還する機会を失いかねないよ」


「そう……かも、しれませんけど……」


 リードさんが言い淀んでいると、再びクリエイトさんの鋭い言葉が降り注ぐ。


「現実世界の方では被験者の体がIZに保管されてるけど、その体がいつ襲われるか分からない。その身の安全の保証ができるなら、僕は別に被験者をここに置いてもいいとは思う。でもその保証が約束できない以上、なあなあにして被験者を留めておくわけにはいかない」


「そうだね」


 僕には現実世界の状況は分からない。しかしリードさんが以前、現実世界にも生きてる人はいて、その人達がAIと戦ってることは聞いた。


 この世界が仮想世界だという前提ではあるけど、僕の意識がここにあるうちは現実世界の僕の体は動かない。


 そう考えると確かに危険で、現実世界の人にとっては……足枷になってしまう。


「リードも言ったじゃん。守れる命の数には限度があるって。〈AIの力〉は現実世界の方じゃ、この仮想世界のファンタジー的な使い方は不可能。現実的に考えたら、被験者の意識体は現実世界にある体に戻して、自分の身は自分で守ってもらうよう動いてもらうべきだと俺は思う。現実世界の方でも生きてる人はいるし、彼らもAIと戦う戦力を欲してる。後のことを考えたら、仮想世界にいさせてあげることが被験者のためになるとは思えない」


 最初はふざけていた印象が強かったけど、リペアさんもやはりリードさん同様のAI。考えなしに動くような方ではない。


「気持ちは分かる。被験者のことを考えたらそりゃここにいさせた方が幸せなままでいられる。こんな平和な世界、今の現実世界にはないから。クリエだってそれは理解してる」


 もしかしたら僕が、現実世界に帰りたくない理由の中に、現実世界が深刻な状況にあるという話を聞いて恐れてるんじゃないか……。


 リペアさんのその言葉を聞いて、内心そう疑った。現実世界に帰還するのを拒否した最初の理由は明確に覚えてる。そもそもリードさんの話が信じられなかったからだ。


 でもコピーとの戦闘を交えて、そしてリペアさんやクリエイトさん、瓢太を見て、今までリードさんがしてきた話は本当なんだろうと思った。


 そう思う度に、心のどこかでこの世界から離脱したくないという気持ちを抱いていて、僕はそれを分からないふり、見て見ぬふりをしていたんじゃないか……。


 多分、僕は怖がってるんだ。でも、何を怖がってるかは明確に言語化できない。自分のことなのに……なんで、この胸がぎゅっとなる理由が分からないのか……。


「でも、被験者をここに留めておくことはどうやらできそうにないから、俺たちは目的を掲げた。そして現実世界の人達と約束した。被験者達の意識体を現実世界の体にかえすって。それが最終的に被験者達を守ることにもなるし、人類の未来を繋ぐ希望にもなる」


 俯きがちに話すリペアさんの視線の先には、僕が膝の上に置きっぱなしにしてる弁当箱がある。


 リペアさんなのか、もしくはリードさんなのか分からないけど、僕ではないどちらかの意志がその弁当箱を僕の両手でぎゅっと握りしめる。


「リード、僕は話すべきだと思う。二人が誰を助けようとしてるのか」


 リペアさんとクリエイトさんの言い分を聞くに、家族という二文字では片付かないのだろう。僕にはそれ以上に何があるのか検討もつかない。


 しばらくして俯きがちになっていた僕の視線は、ついに瓢太を捉えた。


「……介様、……瓢太様」


 静かに、優しく、しかし地に足跡をしっかりと残すような力強い声でリードさんは名前を呼んだ。


 瓢太が返事をしようとしてたけど、リードさんが矢継ぎ早に話し出したことで、瓢太の口が開いたまま止まる。


「お二人は、この世界には大勢の被験者がいると考えているのでしょう」


「……え、なんで分かんの? メンタリスト?」


 そんな瓢太の反応も意に介さず、リードさんは調子そのまま話し続ける。


「しかし、この世界にいる被験者の数は、あなた方二人を含めてたったの四名しかいません」


「「……え?」」


 四名。その単語と一緒に脳裏を過ったのは、これまで会ってきた人達の顔や姿。


 それはまるでビッグバンのように記憶が急激に溢れてきて、そして今までのリードさんやリペアさん、クリエイトさんとした会話の記憶が思い起こされる。


「四名? 俺と介と、あと二人ってこと?」


「いえ。詳しい話は省きますが、介様は二人分の被験者の意識体を持ち合わせてることになります。ですので、お二人を除いた被験者の数はあと一名だけです」


「一人だけ?」


「一人……」


「はい、一人だけです」


 ……あと、一人……だけ?

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