第56話 AIの目的
「……マジか」
全てではないが、僕とリードさんがコピーと戦っていたこと、行方不明の両親だけでなく妹までコピーの手に渡ってしまっていたことを話した。
言葉を失う瓢太に反して、クリエイトさんが訳知り顔で話し出す。
「やっぱり入り込んできてたんだね。反人間存続派のAI」
「はい。とりあえず、コピーの本体を捕らえることはできてます」
「まあ、俺が出る幕はないって感じかー」
「それは分かりません。コピーは仲間を連れてこの世界に入り込んできてる可能性がありますから。その仲間と相対する可能性はあります」
AI同士の会話をするのはいいけど、僕の体にはリードさんとリペアさんがいるから自分の口から二つの声が出てくることにまだ慣れない。
かといって、体を共有せず話すことが果たして可能なのかどうか……は、今訊くのはやめておこう。色々と話が交錯するし。
湧き上がる興味をこらえるため、僕はあえてリードさんに体と発言権を預けることにした。
「クリエイトさんと瓢太様は、反人間存続派のAIと遭遇しましたか?」
「「ううん、まだ」」
瓢太とクリエイトさんが発する声と、顔を横に振る動作が揃う。そういえば、二人はシンクロのことを知ってるのかが気になる。
だけど、これもまた話が交錯しそうなので今は黙っておこう。
「では瓢太様には一刻でも早く現実世界に戻っていただいた方が良いです。敵に遭遇する前に」
「ちょいちょい、リード! そこは帰還を提案するんじゃなくて協力を求めないと! クリエの力があれば手早く介くんの両親を見つけられるかもだし!」
「そうかもしれませんが、私達の目的は被験者を守ること。優先事項は一人でも被験者を安全な場所へ誘導することですから」
クリエイトさんの〈創造の力〉。確かにその力があれば選択肢が広がる。なんでも創造できるなら、それこそ選択肢の幅は僕たちだけの時よりも段違いだ。
けれど反面、瓢太を危険にさらす可能性がある。幸い、まだコピーが言い残した仲間とは出会してない。
口から出まかせを言ってた可能性があるとしても、万が一を考えると瓢太に協力を求めるのは些か躊躇ってしまう。
友達まで失うような、そんな最悪を想定してしまうと……。
「……分かんないけど……」
ぽつり、瓢太がなにやら呟いた。その後の言葉をどうするか慎重に考えているのか、瓢太の表情は強張っていた。
「俺の兄貴、一昨年から行方不明なんだ。もしかして介の両親と同じで、兄貴が行方不明なのって……AIが絡んでるのかなって。介の話を聞いて、思ったんだけど……」
それは僕にではなく、リードさんに向けて話してるのだと分かる。瓢太の真っすぐな眼差しを前にしても、リードさんは冷静さを欠くことなく応対する。
「もし探すというのであれば、それ相応の覚悟は持っておいた方が良いです。いずれどこかで敵AIに遭遇するかもしれませんし、遭遇すれば戦闘になることは確実と言ってもいいです。そうなると命の危機、もとい瓢太様の意識体が消失する危険があります。それはある種、死を意味します」
さっきまでふざけたことを口走ってた人とは思えないほど、瓢太は真剣な面持ちだ。
思わずそのギャップに笑いが込み上げてきたけど、友達が真面目にどうしようか考えてるんだと思うとすぐさま引っこんだ。
「そのことを承知できるというのであれば、私は瓢太様に協力できますし、瓢太様には私達に協力していただきたいと考えています」
リードさんがどんな顔してその言葉を口にしたかは分からない。でも、表情筋が僅かに引きつっていて、目元に力が入っている。
いつかは忘れたけど、お母さんが「人は鏡だよ」って話してた事を思い出した。
他人に笑顔を見せたらその人からは笑顔を向けられ、他人に悲しい表情を見せたらその人からは悲しい表情を向けられると。
もし瓢太のその顔つきが今のリードさんの表情と同じと言うなら、相当顔に力が入ってるのだろう。
「なんだか鬼気迫るものを感じるけど……どうした? リード」
瓢太の口から出る声色が変わって、クリエイトさんがリードさんにそう訊ねる。同時に表情も柔らかくなると、僕は無意識に張りつめていたのか肩の力がスッと抜けた。
「私達の目的は、被験者を守ること。しかし守れる命の数には限度がある。現状、私が保証できる命は介様だけ。瓢太様まで守れるかどうか確実には言えませんし」
「なーんだ、そんなことか」
すると、クリエイトさんが立てた親指を自分に向ける。
「瓢太の命の保証をするのは僕でしょ! 僕が瓢太担当のAIなんだし。なにリードだけで全部背負おうとしてんのさ。ていうか、介くんの中にはリペアもいるでしょ」
「そうだよ! ちょっと、俺のこと忘れてない!? 俺だって介くんの体を守るために来たんだよ? てかむしろリードがなんで介くんの中にいるのか不思議なくらいだよ! 担当の被験者違うじゃん!」
クリエイトさんの明るい声調とリペアさんの騒々しい物言いが、徐々に重たくなっていた空気を一変させる。
「……そうでしたね。視野狭窄に陥ってました。らしくなかったです」
リードさんもその目的達成のために焦っていたのだろう。たしかにらしくないとは思った。僕の知ってるリードさんはどんな時でも冷静に対応していた。
例え拳銃を向けられても、大勢の人達に囲まれても、僕が一人突っ走っても、彼女は焦らず対処してきていたから。
クリエイトさんとリペアさんの言葉を聞いたリードさんは、一面に張っていた氷が砕けたように和らいだ声をしていた。
「クリエイトさん。瓢太様は、お任せします」
「この世界に入る前からそのつもりでした」
「リペアさん。介様の体は一般の方よりも柔なので、体のケアはお任せします。戦闘は私が担当するので、そこは分担しましょう」
「こっちの世界に来てからとっくにそうするつもりでしたよ」
おそらくリードさん達は、僕達に会う前からこうして話し合いながら協力してきたのだろう。
リードさん達が現実世界で何をどうしてきたかなんて分からないけど、自分の体の中に響くその声が、私達には確立された関係があるのだと知らしめてくる。
このAI達が味方でいてくれると思うと、とても心強い。思わず頬が緩んでしまう。
「というか、いいの? 助けにいくって話だけど。だってNPCだよ? 介くんと瓢太が助けに行こうとしてるの」
ふと、クリエイトさんがそう言い放った。
NPC。それは昨日リペアさんが一度だけ口にしていた言葉だ。その後、リードさんがやけに突っかかってリペアさんにその単語を言わせないようにしてる感じだった。
あの時のリードさんが、ここでまた現れる。
「クリエイトさん。それは話さなくていいことです」
さっきの空気が突風に追いやられたように一変する。リードさんの鋭い声音が、この場の空気を再び張り詰める。




