第55話 被験者であるという証明
「てか瓢太、体の共有のこと知ってたんだ」
「まあね。色々言われて、体の共有をしないと自分の力が使えないってクリエが煩いから」
「煩いとはなんだ! 僕だって体の共有を求めたくて求めたんじゃないやい! 瓢太が現実世界には戻らないって言うからだよ!?」
「別に戻らないとかじゃなくてだな……」
現実世界への帰還を勧められてたのはこっちも同じか。僕は楓、そして両親を探し出すことを理由に現実世界への帰還を拒否してる。
瓢太はどんな理由で拒否したんだろう……。
「瓢太、あのウインドウ画面見たんだ」
「あー、うん。見たけど……てことは、介もか?」
訊かれて、僕はすぐさま頷き返した。
「そっか。まあそれを見てまだここにいるってことは、介も拒否したってことか」
「お二人は、おそらく小さな誤解をされてます」
ふと、リードさんが僕たちの間に割って入ってくる。
「仮にお二人が現実世界にご帰還されても、体はそのまま残ります。現実世界に戻るのはその体の中に入っているあなた方の意識体だけ。ですので、外見だけではご帰還されたかどうかは判断できません」
「あ、そうなの? でも、それだと俺が帰還したらこの体、もぬけの殻っていうか死体みたいにならない?」
「それがならないようになってるんだ」
そう割って入ってきたのは、クリエイトさんだった。
「この世界は、被験者の意識体が入ってた体には別の意識体が入れられるよう設計されてる。つまり、この仮想世界をコントロールしてるコンピュータが創り出した仮想の意識体が、君たちの代わりにその体の人生を歩んでくれるってわけ」
「え、そんなことできんのか」
僕が現実世界に戻ったその瞬間、この自分の体に別の意識体が入ってくる。そういえばこの話、前にリードさんとした覚えがある。
「でもそれだと人格とか性格とかの問題が出てきそうだけど……大丈夫なの? 話し方が変わったり、雰囲気が変わったりとか……そのコンピュータが創った意識体が暴走して、この体がいきなり犯罪を犯したりしない?」
「そこは大丈夫。被験者の思考傾向、成長過程、行動パターン、趣味嗜好、癖、生活リズム等の生まれてきてから現在までのデータと、今後どういった成長をするのかといった予測を交えて意識体の形成を行うから」
「そ、そんなことできるの……?」
「IZは膨大な仮想の宇宙と仮想の生物を生成・管理してる装置だし、それくらい大したことじゃないよ」
リードさんもそうだけど、やっぱりクリエイトさんの話のスケールも桁違いだ。
本当にこの世界が仮想なら、現実世界に戻った時にこの世界を生成・管理する装置の大きさがどれくらいなのか気になる。
まあ、それは現実世界に帰還すれば分かることだし、だからリードさんはそういう情報を安易に口にはしないのだろう。
「とりあえず、介様と瓢太様、お二人が現実世界に戻ったとしてもその体の余生は絶えず続くということをご理解していただければ大丈夫かと」
「そういうこと!」
壮大なスケールの話は、リードさんその一言に集約される。まるで長い旅から帰ってきたような感じだった。
できればもうこの話は掘り返したくない……なんて思ったけど、僕にはどうしても気になることがあった。
「それじゃあ、こうして瓢太と話してるけど、僕が話してるのが本当に瓢太なのかどうか証明できないんじゃない?」
さっきのクリエイトさんの話を聞く限り、中身の意識体は変わるが外見は何一つ変わらない。そうなると、目の前にいる瓢太が被験者の瓢太であるとどう確認すればいいのか。
もし、今目の前にいる瓢太が実は非通知電話に出る前の瓢太ではなかったら……。そんな不安が胸中に芽生えて、僕は思わず訊いてしまった。
すると、その質問に答えてくれたのはリードさんだった。
「私達、AIがいれば大丈夫です。私達は被験者の意識体が入った体の元に訪れるので、私達が体の中にいるということはその体の中に被験者の意識体があるということと同義と捉えてもらえれば。今、目の前にいる瓢太様の中にはアイ・クリエイトというAIがいる。ということは、その体には瓢太様ご本人の意識体がまだ顕在してるということです」
「そうだぞ、介。俺を疑いの目で見るな」
「……ごめん」
よくよく考えれば、リードさん達ならちゃんと被験者かどうか特定して接触してくるに決まってるか。そうじゃないと目的を達成する以前の話になっちゃうし。
なんだか慣れない思考をしてしまったせいか、お腹も余計に減ってきてしまったので、僕は傍らに置いてた未開封のままの弁当箱を膝の上に乗せる。
しかし、まだ話は終わってないとばかり瓢太が口を開いた。
「話戻るんだけどさ、介が現実世界に戻ることを拒否した理由ってなんかあるのか?」
弁当を広げようとした手が少しの間、止まる。けれど瓢太が被験者だと分かった今、その訳を話してしまってもいいだろうと僕は思った。
「僕が現実世界に戻らない理由は、行方不明になった両親を探すためなんだ」
「え、介って母子家庭だったんじゃないの?」
そういえば、今まで瓢太に僕の両親が行方不明だってことを明かしてなかった。
「ごめん。今まで隠してたけど、本当は違う。今は親戚の人の家に住まわせてもらってる。でもそれは僕が高校生になる前に両親がいきなり帰ってこなくなったからなんだ」
「お、おぉ……そう、だったのか……」
瓢太が返答に困る気持ちも分かる。だから僕は今まで隠してきた。もし僕が瓢太の立場だったら、かける言葉なんて見つからないだろう。
内心同情してると、強張ってる瓢太の口元が申し訳なさそうに動き始めた。
「高校生になる前ってことは、二年前にいなくなったってことやろ? そもそも生きてるかどうか分かるの?」
「……実は先週、行方不明だったお父さんとお母さんを見たんだ」
僕とリードさんがコピーと戦ってたことについて、いずれ話すことになるだろうとは予感してた。
それが今日、僕の口から瓢太とクリエイトさんに伝えられる。




