第54話 お互い様
「え? もしかしてリード、話してないの?」
「私は話す必要はないと判断してるものは話さないので」
「あー、うーん……まあそっか」
その言葉とは裏腹に、クリエイトさんは納得いってない様子。
クリエイトさんが言った「現実世界でも愛田介くん」という言葉の真意は気になるけど、それを聞いて混乱しそうになってる自分が容易に想像できてしまう。
リードさんはその点の配慮をしてくれてるから、正直ありがたい。
「そうなんだよ。リード、あんまり介くんに話してないらしくてさー」
すると、今度はリペアさんが僕の口を開き出す。
「……え? その声、もしかしてリペア?」
「そだよー。いつ出ていこうか迷ったけど、今出てきたぜ」
「今出てきたぜ、って……被験者の体の中に複数のAIって入れないはずだけど」
「クリエイトの言う通り、それは無理だね。そもそも人の体に入り込めるAIは一体だけ。でも介くんの体、この世界だとキメラピープルなんだよ。被験者と被験者の」
「……あ、ほえー! そういうこと! そんな偶然あるのね! というか眼、オッドアイになっててかっこいい! 髪もちょうど左右で毛先の色違うし。いいね!」
クリエイトさんがキメラピープルという単語に特に疑問も抱かないということは、現実世界でもそういう人達がいるというのは本当なんだろう。
というか、オッドアイになってたり髪の色が左右で異なってる今の状態がどんな感じなのかすごく気になる。
僕は昨日、リペアさんに体を共有する許可を出した。リペアさんが僕の体を共有した時の瞳や毛先の色がブドウみたいに鮮やかな紫色に変色するのを洗面所で視認した。
リードさんと体を共有した時も、瞳や髪の色は濃かった。
リペアさんの時も割とはっきりした色だったし、それが同時に発現してるなら、さっきのクリエイトさんの発言から察するに、今の自分の容姿はものすごいパリピ陽キャみたいな見た目になってるんじゃないか……。
そんな目立った格好はしたくないけど、多分この姿を見れるのは今のところ目の前の瓢太だけだし……まあ、いい……のか?
「ちょっと待て待て! 俺と介を放って勝手に話進めんなよ」
「あ、ごめん。仲間と仮想世界で会うことが叶ったから、つい話が弾んじゃった」
あ、そっか。リードさん、リペアさん、クリエイトさん。この三体は僕たち被験者を守ってくれるAIでもあるけど、互いが仲間でもあるんだ。
そっか。仲間……AIにもあるか、そういう大切な存在って。
「とりあえず。いや、まさか介の中にAIがいるとは思わなかったよ」
ほっとひと息吐くと、瓢太は表情を柔らかくしながらそう言った。思わず僕の口角もふっと上がる。
「僕もだよ。瓢太がずっとこのこと隠してたなんて」
「隠してたというか……言ったところで、信じてもらえないだろうなって思ってて……。てか、介もそうじゃん! 先週、電話どうだったって聞いたら、耳キーンってしただけとか言ってたし!」
そういえば、僕もそんなこと言ってた……。
「いや、あれは、その……言ったところで、信じてもらえないだろうなって思ってたから」
事実、これまでリードさんが話してくれた仮想世界とか現実世界の話とかはまだ信じ切れてない。
コマンドとか被験者とか、少しずつ分かってきたけど、それは誰かが作ったフィクションなんじゃないかって頭の片隅でまだ思ってしまってる。
「俺と一緒じゃねぇか!」
「確かに」
そう言い合ってからしばらく二人で訳もなく微笑みあった。互いの中にいるAIの存在を、その瞬間だけは忘れていたと思う。
満足して一旦落ち着くと、瓢太が徐に話を切り出す。
「介はもう、この世界が仮想世界だって話は聞いたのか?」
「うん。でも正直、その話は信じてない……というか、どうしても信じれないというか……。瓢太は、この世界が仮想世界だって信じてるの?」
「まだ半信半疑だけど、最近はこの世界が仮想世界っていうのは本当のことなのかもしれないって思ってきてる」
「それは、なんで?」
瓢太はそう訊かれるのを待ってましたとばかりに眉をひょいっと上げて、口元をもにょもにょとさせる。
すると、僕の前にすっと右の手のひらを差し出してきた。
「クリエ、なんでもいいから俺の手のひらサイズに収まるもの創造して」
「おっけ!」
何が始まるんだろうというドキドキとワクワクがありつつ、瓢太がクリエイトさんのことを「クリエ」と呼んでることが若干気に掛かる。僕もそう呼んだ方がいいのか……。
「うおっ! え、どういうこと……?」
「こんなの見せられたら、どうしたって信じちゃうよなーって」
一瞬、瓢太の手のひらが僅かに青紫色に光ったかと思えば、何もない所から白い消しゴムがポンッと現れた。別のこと考えてたから余計にびっくりした。
「それが、クリエイトさんの力なの?」
「そ。本人は〈創造の力〉って言ってる。無の状態からなんでも創り出せる力らしい。マジで意味わかんないよなこれ」
「はっ……」
瓢太の説明を聞いて、僕が返したのは声にもならない空笑いだった。
確かに瓢太とクリエイトさんが見せてくれたそれは現実味を帯びない、超常現象といっても差し支えないものだ。
でも、僕はもう知ってしまった。他人の体を乗っ取って操ったり、大きな半透明のドーム状を為したバリアとか、体が急激に速くなったり強くなったりとか。
おおよそ現実離れしてる現象を、ここ一週間近くの間にこの身で味わってきた。
そのせいか、僕の感覚は麻痺してるのかもしれない。二人が見せてくれた〈創造の力〉を目の当たりにして、僕は疑うことなくなんでもないようにスッと受け入れてしまえた。
本当なら、いきなり消しゴムが出てきたところで手品かなんかじゃないかと探りをいれてると思う。
「介の中にいるAIも力は何か持ってると思うけど……まだそういうのは見れてない感じ?」
見ました。むしろめちゃくちゃ体感してきました。
「いやまあ、クリエイトさんみたいに可視化できるようなもんじゃないけど、僕の中にいるアイ・リードっていうAIが〈透視の力〉っていうのを持ってるんだ」
「〈透視の力〉って、透かして視るって書く、あの透視?」
「そうそう。その透視」
「うわ、エッロ」
「なんでだよ」
しかし、瓢太の言いたいことが分かってしまうからなんか悔しい。これが世間一般のいう男子高校生なんだろう。
「だって、その力使ったら扉とか壁とか透かして視ることができるってことだろ?」
「あー、まあ普通はそう考えるよね」
「え、違うの?」
残念ながらそういう犯罪まがいな使い方はできないらしい。
確かにそういうことはできないのかリードさんに訊いたことがあるけど、体を共有してる時に見えないなら見えないのでしょう、となんか意味深な返しをされた。
けど……まあ、少なくとも僕には見えてないので多分不可能。
「実際、リードさんが〈透視の力〉を使っても、僕の眼にはその透視した世界は見えないんだよ。見えてるのは使ってるリードさんだけ」
「あ、そうなんだ。体の共有はしてても?」
「それでも僕には見えない」
「そっか。そっかぁ……」
あからさまに落ち込んでしまう瓢太。ごめんね、男子高校生の夢を壊してしまって。




