第52話 懸念
「僕は、両親を見つけるまで現実世界に戻らない。家族みんなを取り戻してから現実世界に帰る。それが、リードさんと約束したこと」
『ほぇー 俺がいない時にそんなことあったの!』
初めてこの話を理解してくれる相手だったからか、もしくは否定的な意見を返されると内心構えていたからか、眼を丸くするリペアさんの反応はなんだか新鮮だった。
『じゃあ、コピーを捕まえたなら、別にここにいてもいいんじゃない?』
『そういう訳にもいきませんよ』
リペアさんの提案に、リードさんはすかさず否と呈する。
『現実世界への帰還はこの世界にいるコピーのような反人間存続派のAIから守る手段でもありますけど、被験者をこのまま仮想世界に放置しておくと、もし現実世界でこの仮想世界を生成してるIZが襲撃された場合、被験者達の体がもぬけの殻になってしまうリスクがある。つまりそれは、本当の死を意味します』
『なるほど。この仮想世界を生成する装置ごと破壊されたら、被験者達の意識体は還るべき身体も借り物の体も失って、本当に最期ってわけね』
……あれ? もしかして、これ……仮想世界に残ってる場合じゃない……?
「え、なに、待って。そんなにヤバいなら……さすがに帰るべき? 現実世界に」
コピー本体を捕らえた今、やることは両親の居場所を突き止めて探し出すこと。今まで僕にしかできないことだからと、覚悟してこの世界に残ることにしていた。
でもそれは、脅威が去った今ならむしろ警察に頼った方が手っ取り早い。となると……両親には悪いけど、先に僕は現実世界に戻った方がいい……のか?
『いや、多分まだ大丈夫だよ』
「……へ?」
リペアさんがさっきの調子とは裏腹に軽く吐き捨てるようにそう言い出した。僕がリペアさんに呆気に取られてると、リードさんがどういうわけか説明してくれる。
『確かにリスクはあります。しかし現実世界でAIと戦っている人達は、このIZにAIが近付かないよう必死に戦ってます。その現状を鑑みても、私が提示したリスクが起こる可能性は二割です』
「割と高くない?」
『まあでも、介くんの両親を見つけるだけでしょ? 余裕じゃない?』
『そんなこともありません。まず介様の両親の所在が不明です。この市内だったらまだしも、県外にいる場合、下手すれば国外にいる可能性もあるとなると途方もないです。それにコピーを捕まえる間際、遠方に仲間がいると発言してたので、もしかしたらまだ介様の両親は相手の手中にいる可能性もある。その場合、反人間存続派との衝突は免れない』
『えー……めんどくさそう。やっぱ帰ろうか』
「いや軽っ」
リペアさんの話のテンションが激しい。やっぱりリードさんと真逆のタイプだ、このAI。
『てか遠方ってさ、あれじゃない? 現実世界にいる仲間を指して言ってるんじゃないの?』
『……なら、いいんですけどね』
『なにか引っかかってるの?』
どこか悩まし気にするリードさんは、リペアさんにそう問われると表情が少しだけ険しくなる。
『遠方に仲間がいる。そう口にしていた時のコピーを〈透視の力〉で見た時、この世界の風景を背後に三人の影が映ってたので、もしかしたらと考えてます』
〈透視の力〉を使うとそんな映像が見えてるんだ。
『あー……もしかしたらコピーは〈透視の力〉で見られることを分かってそういう想像を前もって浮かべておいてリードに見させた可能性あるし。とりあえず帰るか、現実世界に』
絶対に面倒だから帰りたいってだけだ……。
『そう簡単に帰還を果たせるなら、とっくにそうしてます』
『え? ……あー! 介くん、帰ろう!』
リードさんの言葉から何をどう読み取ったか知らないけど、リペアさんの丸く見開いた目が僕の方に向く。
「いや、まあその、さっき二人が話してた僕の体が危険なら……考えなくもない、けど」
『あー、あれマジだよ! ヤバいから! 早く帰ろう!』
「なんでそんなリペアさん軽いの」
『介様、大丈夫です。彼の頭の中は特に危険だとは判断してなさそうですので』
『ちょっとー! 俺の頭の中、勝手に覗くとか最低! デリカシーなさすぎー!』
『人の体をまじまじと見てる医療系AIにそのようなことを言われましても』
『俺は許可と同意を得て見てるよ!?』
『私も許可と同意の上で人とAI、両方の頭の中を覗いてますので安心してください』
あれ……もしかしてこの二人、相性そんな良くない感じ? いやまあ、テンションからして正反対だとは薄々思ってたけど。
「とりあえずリペアさん、ごめん。もし現実世界の僕の体がまだ無事で、時間があるっていうなら……お願いです。僕の両親を見つけるの、手伝って欲しいです」
『えー でも介くんの両親、NPCだし』
「……え?」
今リペアさん、なんて言った? エヌピーシー……とかいった? エヌピーシー……ってなんだ?
『すみませんが、二択で答えてください。YESかNOですよ、あなたに求められてる解答は』
『えー……うーん……まあー……YES!』
思考を凝らしてる時はあまり乗り気ではなさそうだったけど、リペアさんは最後の最後に満面の笑顔で了承した。
逆に面倒臭すぎて空元気でその返答に至ったんじゃないかと心配してしまうけど。
「あ、ありがとう! じゃあ……」
『ただし! ひとつ提案させてもらいたい!』
「あ……うん」
僕の心配はそう外れていたものでもなかったようで、調子はそのまま、リペアさんがサッと人差し指を立てた。
『どうせ探すなら、ついでに被験者も探して、協力してもらったらいいんじゃないってアイデアがでてきたんだけど。どうよ』
「ついでって……」
そんな軽い感じでできるものじゃないと思う。おそらくだけど、他の被験者の人は僕のように頭を抱える羽目になる。
その上、行方不明になった両親の所在を一緒に探してくれなんて言い出したら、本当に頭のおかしい奴だと思われるし……。
「そんな簡単なことじゃないと思うし」
『大丈夫ですよ、介様』
つと、リードさんにしては珍しく軽い口調で話し出す。
『私達以外にも、既に頭の中にAIが入ってる被験者はいます。その被験者の方に協力を頼めばある程度話はつくと思います』
「いや、まあ世界を探せばそりゃ一人はいるかもしれないけど……でも、リードさんとかリペアさんみたいなAIが頭の中に入ってるその被験者がどこにいるのかって、心当たりあるの?」
『あります。介様も知っている身近な方です』




