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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#5 事情聴取

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第46話 どう伝えればいいか

「私は実際に現場に行って、調査も行いました。それらの情報とさっきの愛田さんの話に大きな相違は無さそうだなと」


 西東さんはそこで一度言い切ると、握っていたペンとメモ帳から手を放し、空いた両手の指を重ねる。


「正直、ここまで意味の分からない事件は初めてです。少なくとも私は前例を知らない。集団で個人をリンチ、もしくはいじめ。私はそういう何らかの計画性がある犯行と見て事件調査に乗り出しました。だけど監視カメラの映像、そして現場の調査を元に考えていくと……その線は極めて薄いと考えています」


 こうして誰かに言葉にして伝えられると、やっぱこの数日の間に起きてたことは普通じゃなかったんだと、改めて認識できた。


「この三つの事件はとても奇妙です。ですが、明確な共通点が二つある。ひとつは集団で襲ってきていること。もうひとつは、愛田さんが狙われていること」


「そう、ですね……」


『相手がアイ・コピーですから』


 それをどう伝えればいいんですか、リードさん。


 多分、例えこの世界にあるどんな捜査手法を使っても、この三つの事件の全貌を解き明かすのは無理だろう。


 だって敵はこの世界の者じゃないし、人智を超えた力を持ってる。そしてそれを知ってるのは僕だけ。これをどう伝えればいいのか……。


「申し訳ありませんが、今回は急を要するため、愛田介さんと妹のかえでさんのお二人の身元についてはこちらで調べさせてもらいました」


 西東さんはそう告げると、ロングコートのポケットから携帯を取り出す。


「愛田さんは、両親が三年前に行方不明になっているとのことですが……」


「あ、はい。突然、二人とも家に帰ってこなくなりました。今は……まだ……」


 病院でコピーと対峙した時、僕の両親は現れた。そのことを話すべきかと一瞬考えたけど、僕は話がややこしくなってしまいそうだと思い、つぐむ。


 事実、二人が帰ってきてないことに変わりない。


「行方不明者届が出されているのは私も認知していますが……まだ発見に至れてないのは申し訳ない。こちらが至らないばかりだ」


 西東さんは律儀に一度頭を下げてから、再び話し出す。


「それで、今はさわたかさん、愛田さんの母親の妹さんにあたる方がお二人の未成年後見人となり、共に生活してると」


「そうです」


「うーん……となると、問題は愛田さんの両親になにか……いやそうなると、妹さんが君を襲う動機……」


 考えをまとめようとしてるのか、西東さんはぶつぶつと呟き始める。


 正直、とてもむず痒い。全てはアイ・コピーのせいだと、そう話したい。でもそれを説明するとなると、この世界のこととかAIのこととか……あー、どうすればー!


『私が話してみましょうか』


 心の中でうなっていたら、視界にいたリードさんがそう提案してきた。


 僕はリードさんのその提案に応えるため、西東さんに怪しまれないよう視線を少し伏せる。


「え、大丈夫?」


『介様が全てを話すのは現状難しいと思います。そこまで私は情報を開示してませんし、介様も今までの話を聞いて未だ疑心暗鬼の状態。なら、私という存在を一度西東さんに認知してもらい、それから私が西東さんの質問に答える方が話は早いかと』


 確かにリードさんの存在を知ってもらう事は後々重要かもしれない。そう思うと、彼女のそれは妙案かもしれない。


 人の中に入り込んでくる存在。リードさんに話させることで、そういう存在がいるといういち証明に……


「あ、西東さん。僕、電話の話はしましたっけ?」


「えぇ、仰られてました。住宅路で起きた事件の前に妹さんが電話に出て突然倒れたこと、ですかね」


「そうです。それを聞いて、何か引っかかったり……しませんでしたか?」


 僕の問いかけを聞くと、西東さんは何か思い当たる節があったのかこめかみに指を添える。


「正直、とても疑問に思ってます。すみません、これは私から切り出すべきでした。三つの事件の共通点だけに考えが縛られていた……」


 西東さんは内省すると、ひと呼吸置いてから口を開く。


「私が疑問に思った点はいくつかあります。まず住宅路で起きた事件では、妹さんが電話に出て倒れたこととその直後に警察官が現れたことと、そしてその警察官が指を鳴らした後に現れた集団。次に病院で起きた事件では、起きてきた妹さんが銃を所持してたことと妹さんが愛田さんを襲ったことと、患者さん達が集団で愛田さんに襲いかかったこと。そして今日起きた事件は、小さな女の子と……やっぱり、ここでも集団が気になるなぁ……」


 西東さん、それは分体という本体の複製で人の体を乗っ取って……とか、言っても信じてもらえないだろうしなぁ……。


 そもそもリードさんやコピーのAIの存在から話し出そうとしてるのがダメなんだと、ふと気付いた。


 まず、僕はどうやってリードさんと出会ったのか。そこから話す必要がありそうだ。


「西東さんは非通知電話って聞いたことありますか?」


「それは……今噂になっているニュースのやつですかね? 私にはまだ来たことがないが……それと今回の事件に、何か関係が?」


 そのニュースについて知ってるなら、こちらとしては説明する手間が省けて助かる。


「はい。住宅路で襲われる前に、僕の携帯に非通知電話が来たんです」


「……なるほど?」


 西東さんは手にしていた携帯を置くと、再びペンとメモを握り始める。


「その電話には出たんですか?」


「出ました。そして出会ったんです。この世界じゃない者の存在に」


 そう答えると、西東さんは口を開いたまま固まってしまう。途端に部屋の空気も凍ったように静寂が訪れる。


 しばらくして、西東さんは僅かに首を捻る。その頭上には見えないはずのクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。


 だが、この反応は想定内。むしろ親近感を覚えるほどだ。僕も最初にリードさんからいろいろ説明された時は今の西東さんみたいに険しい顔をしてたと思う。


 それでも、今からする彼女の話は聞いてもらいたい。


「それは今、僕の体の中にいます。今からその者と入れ替わります。そしたら僕の声、瞳と髪の色が変わります。でも驚かずにちゃんと話を聞いて欲しいんです」

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