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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#5 事情聴取

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第45話 これまで起きた三つの事件

 初めてパトカーに乗ったけど、特に座り心地がいいとかリラックスできるとかは思わなくて、ただただ居心地の悪さだけが僕の体を縛っていた。


 悪いことをしたという自覚はないけど、僕は罪を犯してしまったのだと、ありもしないはずの罪の意識に駆られながら静粛に後部座席にいた。


 やがてそのパトカーが辿り着いた場所はさかい警察署。


 僕は同乗していた警察官に案内されるまま、今は机と二脚の椅子、出入り口の扉上に監視カメラが設置してある取調室の中で一人ぽつんと座っている。


 異様な圧力とかはないが……なんだか不気味だ。部屋の中は綺麗だけど、やけに白さが際立っている。天井にある照明がいやに眩しいからだろうか。


「すみません。遅れました」


 ノック音が三回、室内にこだまする。入ってきたのは一人の男性。


 毛先がところどころはねていて癖っ毛のある髪型、横顔からちらと覗く目元はどこか眠たげに垂れている。


 気怠そうな雰囲気を放つその人は、しかし大きな瞳がこちらを向くと、その整った相貌が目を惹く。また第一印象とは裏腹にどっしりと構えた逞しさがあった。


 僕はふと席を立った。


「いえ、全然……」


 淡い色のロングコートの下にちらと見える灰色のワイシャツと茶色のネクタイ、黒のズボンを履いて近付いてくるその佇まいは、端的に言い表すなら渋くてクールな大人の男性。


 どっしりと構えている堅実さと、その中に何をするにも躊躇しなさそうな異様な鋭さが窺える。


「えっと……あいかいさん、ですね」


「あ、はい」


「十八歳、高校生、ですか」


 手にしていた半透明のファイルを見ながら、その人は僕の身元を丁寧に確認する。


「初めまして。私は西東大介さいとうだいすけ、刑事をやっております」


「初めまして」


 刑事さん……なるほど。どうりで見知った渋さがあるわけだ。孝子さんが最近見てたドラマに出てくる刑事役の人と雰囲気が似通ってる。


「あ。話をする前に、少し」


 そう言うと、西東さんは手にしていたファイルの表を下にして机に置く。


 そのまま座るのかと思えば、西東さんは一歩後ろに下がって、徐にロングコートの胸元部分をぐっと握った。


「西東さんだぞ!」


「…………………」


 胸元をバッと広げて、おそらく一発芸っぽいことを披露された。だけど、僕はどうリアクションしていいのか分からず、口をぽかんと開けたまま固まってしまう。


『緊張をほぐすためにやってくれてることなので変に構えなくて大丈夫ですよ』


 リードさん……いきなり視界に現れてきてそういうこと言うのやめてください。余計にリアクションしづらくなるので。


「これをやると、小さい子は喜んでくれるんだけど……さすがに高校生相手だと厳しいか」


 徐に乱れた服装を直すと、西東さんは自嘲気味に笑みとため息をこぼす。パトカーの時はまだおぼろげだったけど、今は鮮明に罪の意識を感じる。西東さん、すみませんでした。


「あ、いや……良かったです」


「ありがとう」


 僕はせめて一言だけでもと当たり障りのない簡潔なコメントを返すと、西東さんは満足気に謝意を述べた。


「それじゃあ、色々話をしようか。座って」


 そう促されて、僕は再び固いパイプ椅子に腰を下ろす。遅れて西東さんも座ると、さっき机の上に置いてたファイルを手に取った。


「今回、愛田さんに訊きたいことは……まあ、結構ある」


 開口一番、ざっくりしていた。


「先週木曜日に起きた病院内での事件もそうだが、その前夜にも起きていた事件。そして今日起きた事。まあ主に三つあるわけだけど……私が個人的に訊いておきたいこともある。長話になるかもしれないが、どうかご協力願いたい」


 そう言うと、西東さんは一度深々と頭を下げた。僕からすれば、むしろ長話になってもいいんだって思ってしまうくらいだ。


 これまで起きた出来事を誰かに打ち明けたかった。それを相手から求めてきてるなら、こんなに好都合なことはない。


「大丈夫です。むしろ僕の方も色々提供できればと思ってたので」


「おぉ、ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。では、さっそく……」


 すると、西東さんはロングコートの内ポケットに手を突っ込むと、そこからメモ帳とペンを取り出す。


 今から聞き取りが始まるのだと分かると、さっきまで吹っ飛んでいた緊張感が再び僕の背筋を締め付けた。


「まず今日の事件、大仙公園で起きたことについてお聞きします。愛田さんは公園で何をされてたのでしょうか」


「……トレーニングです」


 僕は今日起きたことと公園内で僕がしてたことについて、西東さんに全て話した。


 正直に全てを話したところで信じてもらえることはないだろう……なんて少し諦観もありつつ、それでも刑事さんなら突き止めてくれるかもしれないという淡い期待を持ちながら、大勢の人間に襲われたことや迷子だった女の子が僕を尋ねてきたことも話した。


 ただ、リードさんやコピーの存在は口に出さずに。


「うー……ありがとう、ございます。まあ……いずれ妹さんにも取り調べさせてもらうつもりではあるんですけど……」


 ひと通り話し終えた結果、案の定、西東さんの眉間にはしわが寄っていた。


 自分でもその時のことを思い返しながら話してたけど、改めて非現実的な出来事ばかりが起きていたんだと実感する。


 そもそも大勢の人達が僕一人の前に一斉に現れるとか、何かの記念日でもない限り……いや、記念日だったとしても有り得ないか。


「確認ですけど、本当にこの女の子や愛田さんを襲ってきた人達とは何の面識もないん……ですね?」


「はい」


「……分かりました。次に、病院の件についてお聞きします」


 考えても仕方ないと割り切ったのか、西東さんは僅かばかり逡巡してから次の話を切り出した。


 とは言え、この病院の話も、そしてリードさんと初めて会った日に出会った警察官の話も、求められたのは当時の僕の動向と事件発生時の状況の詳細。


 それを全て話したところでまた微妙な反応をされるのだろう。そんなことを思いながら、僕は答えていった。


「うん、なるほど。ありがとう」


 すると今度は、最初に話した公園での事件よりも西東さんの表情がスッキリしていた。


 病院の時も住宅路で起きた事件も、公園で起きた事件と大した差はないと思うんだが……。


「……どう、でしょうか?」


 これで良かったのかと心配になって、僕はおそるおそる尋ねてみた。


「あー、今日起きたことは正直私からは何とも言えないですが……病院のことと住宅路で起きた事件は別のところから話は聞いていて、現場近くに設置されていた監視カメラの映像も確認しました」


「監視カメラ……」


 そういえば、そんな単語を前に聞いた気がする。病院に監視カメラがあるだとか。孝子さんが言ってたっけ……?

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