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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#2 彼女たちの正体

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第16話 病院内に響く銃声音

「すみません、愛田さん。それでは事情聴取の方、パトカーの中で行いたいので、今から駐車場までご同行願います」


「あ、はい」


 パトカーに乗るのはこれが人生初だ。なんだか緊張する……。そのまま連行されて牢屋に入れられないことを願いたい。


 ふと病室を見渡すと、窓際の棚に自分の制鞄が置かれていて、ベッド横の壁にブレザーがハンガーで吊るされていたことに気付く。


 今まで気が動転してたからか、そこにあることすら気付いてなかった。きっと孝子さんが置いといてくれてたんだろう。


「あ、荷物も一緒に持っていった方がいいですか?」


「であれば、貴重品だけに留めてもらえれば」


「分かりました」


 貴重品と言えば自分の携帯電話。白い立方体にさせられた僕の携帯はどうなっているのか。


 そもそも自分の携帯があるのかも疑わしい。気絶して倒れた時に、釜井さんのように紛失してるかもしれない。


 そんな不安に駆られながら、僕はおそるおそる制鞄の中をあさる。


「……あ、あった!」


 立方体じゃなく、ちゃんと携帯の形に戻ってる! スマホケースもそのままだ。


 あの立方体の手触りからして、もしかしてケースは消滅したんじゃないかって不安だったけど……よかったぁ……。


「あの……すみません」


「ん……うおっ!? ど、どうされました?」


 つと、川田さんの驚く声が鼓膜を劈く。思わず振り向くと、病室扉の前にセーラー服を身に纏った一人の少女が立っている。


 警官二人が邪魔になってて顔は見えないが、僅かにちらと見えるのがその髪型。二本に束ねられている髪が僕の中で楓と重なる。


 思えばあの時、この制鞄は楓を寝かせるときに使ったもの。制鞄の中身は案の定、筆記用具や教科書、ノートが上から押さえつけられた跡がある。


 さっきは特に何も思わなかったけど……あの時の楓を思い出すと、なんだか心が締め付けられる。


「その、拳銃を紛失したと聞いて……」


「……えっとー……はい?」


「あ、はい。そうですけど……」


 少女の声は、思ったよりもドスの効いたものだった。だからなのか、川田さんはなんだか聞き取りづらそうだった。何を話してるんだろう……。


 少し気になるが邪魔になってもいけないので、僕はベッドの上に放置してたビニール袋と弁当箱を制鞄の中に静かにしまいこんで何かしてる風を装っておく。


「これ、なんですけど……」


「あ、それ! その拳銃! どこで!? ま、間違いないか、釜井!」


「あ、はい! これです! どこで見つけられました!?」


 どうやら話が盛り上がってるらしい。話しかけてきた子はここの患者さんだろうか。


 にしても、警察の人たちはやっぱりがたいが良い。横に広いというか、縦に長いというか……。


 リードさんに戦闘向きじゃないと言われてから、少なからず羨望の眼差しを向けてしまう。


『介様、すみません。体をお借りします』


「え……?」


 突如リードさんはそう言い出すと、僕の視界の中から瞬時に消える。すると、僕の意思を無視して体が勝手に動き始め、手に持ってた携帯の上で親指が踊り始めた。


 昨夜もそうだったけど、自分で動かしてるわけでもないのに勝手に動く体はなんか気持ち悪い。


 それにしても……どうしたんだろ。いきなり何も理由を言わずに体を動かすなんて……。まだ出会って一日も経たない関係でいうのもなんだが……らしくない。


「それは、良かったです」


 少女のその一声は、いやに僕の耳を貫いた。


 直後、金属同士が擦れたような音が二発、甲高い音が尾を引くように部屋中に響いた。


 リードさんの携帯操作に気を取られてると、病室の入り口にいた警官二人の後頭部から突然真っ赤な血が吹き出した。


「安定して連射できるのは数発程度か……。気が思いやられる……」


 さっきまで少しドスが効いただけの女声だと思っていたが、その静かに囁くような声は明らかに男声。しかも……聞き覚えのある声だ。


「え……楓?」


 僕は倒れた二人の警官ではなく、病室の前にいた少女に真っ先に目がいった。


 髪色と瞳の色が違う。けれど……あの目、口、髪型……そして、うちの高校のセーラー服。


「楓なのか!?」


 間違いない。楓だ! 起きたんだ! でも……髪と目の色が……。


「動かないでください、介様。相手は拳銃を持ってます」


 リードさんに言われて、僕は楓が握ってる銃に目線がいく。今目の前にいるのが楓であることは間違いない。


 でも近付いてはいけないという危機感と、楓だから助けないといけないという義務感が僕の中でせめぎ合っていて、前に踏み出そうにも踏み出せない。


「……アイ・コピー。あなたがなぜここにきたのか。そう私が訊いたら、答えてくれますか?」


「え……それ、って……」


 昨夜、そいつはリードさんが白い立方体で捕らえたはずじゃ……。髪色と目の色は、確かにあの時の釜井さんと酷似してるけど……。


 リードさんはたずねたが、楓……は何も答えない。こちらを睨めつけたまま、静かに銃口を向けてくる。そして……


「……っ!」


 相手は何も言わず、静かに引き金を引いた。しかしリードさんは難なくその銃弾を躱してみせる。


 後ろの窓ガラスには蜘蛛の巣のようなひびが入った。防弾ガラスなのか、銃弾は貫通してない。


「答えはノー、ということですね?」


「いーや、イエスだ」


 どっちだよ……と内心つっこんだ。ようやく応えたかと思えば、相手はまた一発放つ。それでもリードさんは、こなれたステップ一つと半身を翻すだけで銃弾を避ける。


 二人の冷静な語調とは反して、僕の心臓はやけに煩い。


「君は身代わりの術というのを知っているか?」


「忍者が使う幻術の一つと認知していますが……それが何か?」


 リードさんが応じるや否や、相手はふっと笑みをこぼした。


「私は、分体と自分自身を入れ替えることができる」


「……それじゃあ、つまり……あなたが言いたいのは、私が捕らえたのはあなたが生成した分体であると?」


「そう。正解だ」


 口の端を上げながらそう言うと、また遊び程度としか思えない銃撃音を放つ。そしてそれをまたリードさんは躱す。何がしたいのか……相手の妙な射撃が続く。


 けれど、こっちはあの拳銃に易々と近づけない。僕たちには対等にやれる武器がないし銃弾を弾ける盾もない。またこの身一つだけで戦うことになる。


 だが、昨夜と違ってここは屋内だ。動けるスペースが限られているし、あのリードさんの身のこなしも制限されてしまう。


 今は相手の出方を見るのが賢明と、彼女はそう判断したのだろう。すぐに反撃はせず、相手の言葉に耳を傾けている。


「他の体に入っている分体と今この体に入っている私は、お互いの居場所を入れ替えることができる。この地球の周りを周回している人工衛星を使って、ほぼノータイムで」


 なんだよそれ。そんなこと……あの一瞬で、白い立方体で捕らえようとしてた時に、できたってこと? ……反則だろ。


「この世界において、AIが乗っ取った体はいわば携帯電話と同じ仕様で扱える。それは君も存じているだろ? アイ・リード」


「……だから、なんですか」


 僕は知らなかった。リードさんがその発言に驚いてないってことは……そのうち話してもらえることだったんだろうか。


 というか、それが本当なら、僕自身が携帯電話みたいになることもある……ってこと? いや、どういうこと!?


「分体が入っている体は私の送受信先であり、また私が入ってる体は分体の送受信先でもある。だから私はこの世界でも分体を操作制御ができるわけで……そして私と分体は、この世界で肉体のトレードが可能。なぜならAIが支配した体は人工衛星を利用することで自由に肉体同士の通信を可能にしている!」


 アイ・コピーは嬉々として不気味な笑顔を浮かべると、ばっと両手を開いて天井を仰ぎ見る。


「なんて世界! 人を物のように扱えない窮屈な現実とは可能性の幅が段違いだ!」


 まみれの二人が足元に転がってるというのに、その振る舞いは正気を疑わざるを得ない。胸中には身が裂けそうな程の嫌悪と憤怒が湧き出る。


「そうですか。得意げに自身の情報をさらけ出してくださり、助かります」


「いやいや、滅相もない。私は単に、この世界の理を話しただけに過ぎない」


 淡々と相手が話す様に、リードさんは柄にもなくため息を吐く。


「なら、私が訊ねた質問についても、答えていただきたいものですね」


「……ん? 君が訊いたのは、なぜ私がまだ捕まっていないのかという意の質問では?」


「違います。私は、なぜあなたがこの世界に来たのか、と訊いたのです」


「なんだ。てっきり私の安否を心配してくれたのかと」


「むしろもう現実にもここにもいなくなってもらいたいと願っていますが」


「そうか。まあその要望に対する答えなら……もちろん、ノーだ。その理由は昨夜に打ち明けている。君に二度説明する必要もない」


「そうですか。分かりました、もういいです。応じないと言うのであれば、時間の無駄です。あなたを早急に捕らえます」

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