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アイズエーアイズ  作者: 鈿寺 皐平
#2 彼女たちの正体

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第15話 あの時の警察官

「あ、はい」


 ドア越しに男性の優しい声が掛かってきて、僕は慌てて返事をすると、ドアが静かに開き出す。


「愛田介さん、いらっしゃいますか?」


「あ、僕が愛田介です」


 すると、紺色の警官帽を被った一人の男性が顔を出した。僕はその人が孝子さんの言っていた警察の人だと分かって、すぐさま椅子から立ち上がる。


「あ、こんにちは。愛田介さん……お一人、なのかな? 保護者の方は?」


「あ、たか……親は今、病院内で仕事をしている最中で……」


「あぁ、そうなんですね」


 見た目からして三十後半くらいだろうか。話し方も丁寧で温厚な印象。


 だが昨夜、この背格好くらいの人に僕は襲われた。この人の髪色や瞳の色はどちらも黒だから、あの時の人とは違うのだろうけど。


 それでも相手が警察の人だと、そんなこと関係なく肩肘が張ってしまう。


 その方は扉を全開まで開けると、堂々とした顔つきで病室に入ってきた。


『彼は別に乗っ取られってはいないようですね。話は一旦、中断にしましょう』


 そう言って、リードさんは僕の視界からスッと消える。こういう時、リードさんは頭のどこにいるんだろ……。あ、また聞きたいこと増えた。


「じゃあ、保護者の方がいなくても大丈夫かな? 確か、もう十八歳だとは聞いてるんだけど」


「あ、はい。十八です」


「そうですか。未成年だと、やむを得ない場合を除いて保護者同伴をさせないといけないんだけど……十八は成年だし、大丈夫かな」


 あー……これは襲われたとか関係なく、警察の人の言葉一つ一つになぜだか得体のしれない圧を感じてしまう。


 少しでも変なことを口にしたら牢獄にぶち込まれそうな……背後に強大な権力を感じる。今、めっちゃ失礼なこと考えたな、僕。


「事情聴取の件は、聞いてるかな?」


「はい。親から聞いてます」


「分かりました。とりあえず、受け応えも問題なさそうで何よりです。あと……」


 そこで言葉を切ると、警察の人はふと背後に目をやる。その視線の先を追ってみると、もう一人の男性警察官がおそるおそる入ってきた。


「愛田さんは彼の顔に、見覚えありますよね?」


「……はい。あります」


 その人を見た途端、電気のような痺れと怖気が一瞬で全身を駆け巡った。


「愛田さんは、この人に何をされました?」


「……け、拳銃を……向けられました」


「それは、間違いないですね?」


「……はい……」


 この人……この人だ。帰り道、倒れた楓を抱えてたらいきなり現れて拳銃を向けてきたあの警官の人。


 間違いない。顔立ち、背丈……あの時見たまんまだ。でも、瞳と髪の色が違う。真っ黒だ。


「だそうだけど。かま、憶えてるか?」


「……すみません、かわさん。まったく憶えてないです」


「そうか。謝るのは俺にじゃないけどな」


「すみません……」


 反省の色を見せる釜井さんを前に川田さんは呆れたように眉尻を落とし、後頭部をポリポリとかく。


 しかし何度その顔を見ても、昨夜見たあの警官の特徴と一致している。瞳と髪の色以外は全て同じだ。


「本当に、ないんだな?」


「あ、でも……薄っすらとだけ、この子のような顔の少年を見た記憶があります」


「あるのかよ」


 その釜井さんの発言は、僕にとって衝撃的なものだった。


「その子に殴り掛かっていた記憶も……ほんの僅かですけど」


 薄っすら、ほんの僅か。どうやら昨夜のことははっきりとは覚えてない様子。


『相手に支配されていたからか、記憶も曖昧なのでしょう』


 いや、結局出てくるんですか。気を張ってたから良かったものの、危うく叫んじゃうところでしたよ。


「……ど、どういうこと?」


 手で口を隠し、警官二人にはまるで驚いてるような素振りに見せて、僕はリードさんにしか聞こえないよう小声で訊ねた。


『あの釜井という方は、体はもちろん、意識や記憶すらも、あの時アイ・コピーに全て支配されていました。しかし、僅かに記憶があることから、もしかすれば完全に支配されていたわけではない……か、もしくは私達がアイ・コピーからあの方を救い出したことで支配されていた脳機能が解放され、今現在は回復の兆しを見せているとも考えられます』


 にわかには信じがたいし現実味に欠ける話だが、リードさんが言うならそうなのだろう。


 僕にはその事実を知るすべはないし、だからこれ以上は深く考えないようにした。


『あくまで仮説にすぎませんが』


「なにその知らんけどみたいなオチ……」


 リードさんが言うなら、とか思うんじゃなかったよ。


「そういうことで……この度は、部下が本当に申し訳ございません」


 リードさんとこそこそやってたら、気付けば僕は警官二人に深々と頭を下げられていた。


「うちの者が迷惑をかけてしまい、なりふり構わず君を殴ったこと、本当に申し訳ない」


「……申し訳ございませんでした!」


「あ、いや……」


 なんでだろう。なんか……スッキリしない。むしろ怒りが込み上げてくる。


 謝ってもらってるのに、こんなにも粛々(しゅくしゅく)と頭まで深く下げてもらってるのに……全然心がスッキリしない。


『もう分かってるとは思いますが、彼らはアイ・コピーに支配されていません。警戒する必要はないです』


 そう言われても、あの……まず赤の他人を前に緊張してるというか、人見知りっていうのがあってですねぇ……。


「ほんと、あの……大丈夫です。この通り、体は無事ですから。お医者様にも問題ないと言われましたし……擦り傷を負ったくらいなので」


 なんでスッキリしないのか、ふと今分かった。謝られる相手が違うからだ。


 だってこの人達は何も悪くない。謝らないといけないのは……リードさんの言う、アイ・コピーだ。


「ほんと、申し訳ない……」


 釜井さんは再度深々と頭を下げてみせ、今度は喉を絞めつけられてるような声で謝罪する。


「そういえば、小耳に挟んだのですが……妹さんがこの院内にいるのだとか……」


 予想もしていなかった発言に、自分の中で落ち着けていた感情が不意にふつふつと沸き始める。


 けれどそれは、今目の前にいる警官の人たちに向けるものではないと即座に考え直し、ぐっと堪えた。


「その時は、妹さんもご一緒だったんでしょうか?」


「……はい。夕飯の買い物帰りで、その場にいました。今はベッドで寝てると、親から……」


 伏し目がちにそう話しながら、内心今にも溢れそうな思いを僕は抑えつけていた。少しでも気をゆるめたらブレーキが効かなくなりそうだ。


「そうですか……。釜井は、心当たりとかないのか?」


「いえ。自分が憶えてるのは彼と、他に運ばれた二、三名ほどだけです……」


「本当か? それ。どうせ妹さんも一緒に殴ったりしたんじゃないのか?」


「いや、その……顔を見ないことには……なんとも」


 殴っ……ては、いなかったかな。戦闘がひと段落した後、楓に傷がなかったのは確認したし。


「うーん……とりあえず、愛田さんの妹さんにも頭を下げることになるだろうな、これは」


「……すみません。本当に……」


「まったく……一般人を殴った挙句、その記憶もないとか……。酒か? 勤務中に酒とか飲んでたんか、釜井」


 呆れたようなため息を吐いて、川田さんは辟易しながら再度問いただす。


「いや、それはさすがにないです! でも、本当に憶えてなくて……」


「はぁ……。しかも、拳銃も紛失したって?」


「……すみません」


「こりゃあ、ただじゃ済まないな」


 え……あの時使ってた銃、くしてるんだ。


 そういえば最後にアイ・コピーと殴り合いになった時、リードさんの攻撃を止めるために落としてた。その時、どっかに行ったのかな……。

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