第100話 創造と修復
「さっき、途中で力の話があったやん? リペアさんの〈修復の力〉どうこうって」
「それ、俺じゃなくてリードに聞くの?」
すかさずリペアさんも表に現れる。
「あ、すんません。いや、リペアさんは自分の力がどういう感じで使われるのかまだ分かってなかったっぽいから、リードさんならと思って」
「私も分かってはいません。リペアさんの力がどのように発現するかは」
「そこも気になったんだけど、そもそもクリエとかリードさん達はこの世界のことを知ってる前提で来てるんじゃないの?」
「いえ、知らないです」
僕も瓢太と同じ考えだった。だけどリードさんのその一言で容易く覆される。
「私達がこの世界の存在を知ったのは、この世界に敵AIが入り込んだのだと知った時です。そもそもこの仮想世界はまだ試験運用の段階で、現実世界では公表されてないものでしたから。公に晒す前に戦争が起きたので、私達もこの世界の存在を知りませんでした」
「え、でもクリエイトさんが創造した世界、なんだよね? 知らないっていうのは……」
「僕が創造したのは宇宙空間、惑星、その他原子や分子、生物などのあらゆる万物だね。ただ、この世界のルールは知らない。そこは人間が手を加える領域だから。僕はあくまでオブジェクト、この世界の物体を創造したってだけだよ」
「お、おー……」
凄い。そう思うと同時に恐怖もあった。僕たちはクリエイトさんが創ったという地球の上にいる。その地球の大きさは巨大なんて言葉では片付けられないサイズだ。
クリエイトさんが本気を出せば、この地球……いや、宇宙でさえも創ってしまう。
「じゃあ、僕たちの体とか……この校舎も?」
「いや、そこまでは創ってない。そこはNPCが創ったと思う」
「じゃあNPCは?」
「創ったよ。て言っても、人間は何人か作れば繁栄して増えるだろうなーって思ってたからそんなにだけど。ざっと一万の人間は創造したのかな。あとは、IZが足りないところを生成したり管理するだろうしね」
言葉が出ないとはまさにこのこと。話のスケールが大きすぎるのか、クリエイトさんの力に恐れを感じているのか。僕も、おそらく瓢太も絶句している。
「まあちょっと話が逸れたけど、僕たちAIの力がこの世界でどのように発現するかは人間が定めてると思うから。でも、そのルールが記載されてる仕様書は情報漏洩しないように管理されてたんだろうね。AIもアクセス不可能な状態にして。で、そのアクセス方法を知ってる人間はもう現実世界にはいない。もしくは特定のAIに仕様書の在処を共有してる可能性もあるけど、そんな情報も見つからないから分かんない。まあ多分、〈AIの力〉に関しては僕たちAI専用の仮想世界と同様の使用感だろなーって思って来たんだよねー」
「なので私達はこの世界の手がかりを何も掴めないまま分からないまま、この世界に来ています。ここは人間専用の仮想世界。その世界にいる私達AIがどれほどの影響を及ぼすのかも計り知れない。私達でも分かっていないことの方が多いので、現実にいる人間は全くと言っていいほど分からない状態でしょう」
あぁ、そっか。僕たちだけじゃなく、リードさん達も混乱してるんだ。仮想世界の存在と、人間の存亡が懸かってるこの現状に。
「まあ色々話したけど、とはいえリペアの〈修復の力〉がこの世界でどんな風に発現するのか気になるね! リペアは、介くんの体を使って何かに触れたりはしたことあるの?」
話は戻り、クリエイトさんはリペアさんに力の発現について尋ねる。
「そういえば、ないな。まあ俺が介くんの体動かすよりリードが前に出たほうがいいだろって考えてたし。あと、体内からの修復をしてサポートするのが俺の役割だと思ってたから」
「そっか。なら今、その状態で何かに触れてみてよ。デリートみたいに力が発揮できるかもしれない」
「まあ、じゃあ……」
リペアさんはしばらく辺りを見回すと、徐に僕の右太ももの上に手を置く。しかし、沈黙がただ流れるだけで何も起きる様子はない。
「ダメか」
「あれじゃない? 何か破損してるものに触れると力が発揮されるんじゃない?」
「破損してるもの……よし、一旦介くんの体を切りつけてみるか」
「「やめてください」」
僕とリードさんの声が重なる。変なところでシンクロが発動してしまった。
「あ、じゃあこれ使います? パンの袋」
瓢太は中身のパンを取り出して、破れた袋だけを僕たちの前に差し出した。
「おー、瓢太ナイス! 確かにそれなら破損してるってことになるね」
「色々と気にはなりますけど、まずはこれに触れてみることでどのようになるか、ですね」
〈修復の力〉は身をもって知っている。だけど、それを目の当たりにするのはこれが初めてだ。
「私は一度引っ込みますので、リペアが受け取ってください」
「分かった」
なぜか分からないけど、手に汗が滲んでいた。これはリペアさんの力の発現なのか、それとも単に僕が緊張してしまっているのか。
この場にいる誰もがその瞬間を見逃すまいと息を潜めていた。
そしてついに、リペアさんがその袋を受け取る。
「……おー……」
クリエイトさんが微かに声を漏らしていた。僕も心の中で同じ言葉を漏らす。開口している袋はリペアさんが触れてから僅かな間を置いて、紫色の光に包まれた。
「おー! なるほどね!」
まるで傷口が塞がっていくように、袋はパンではなく空気だけを含んだまま閉じていく。やがてその光が消え失せると、そこからは何も起きる気配を見せず、変化は止まった。
「人の体だけじゃなく、物にも〈修復の力〉は使用できるってわけね! 面白い!」
「俺の力、こんな風にも使えるようになってるのか」
「入っている体だけとかではなく、デリート同様に他にも影響を与えることができる。ということは、例えば瓢太様が怪我をされても〈修復の力〉で治すことができるということも考えられますね」
この、新しい情報が入ってきて頭が熱くなってくる感覚……。僕も気になることが頭の中に湧いてくるけど、絶対に次から次へと質問しちゃいそうだからやめておこう。処理しきれなくなる。
今、この三人の話だけでも頭が一杯一杯になってきてる。
「一応聞いておきたいんだけど、たぶん力の制御ってできてるよね? スイッチオンオフみたいな感じで」
「うん、できてる。袋に触れた瞬間じゃなく、俺の意志で治すことを考えた時に力が発動した。力の制御は可能だ」
「なら相手を選択して修復ができる。誤って敵AIが支配してる体を修復するという可能性は極力排除できる。いいね! じゃあ、使用感はAI専用の仮想世界にいる時と同じ、だよね?」
「いや、ごめん。そっちで使ったことないから分かんない。でも、デリくんと一緒だろうね。デリくんが触れたAIの力を無効にするように、俺は触れた相手や物の破損箇所を治す。対象範囲は俺の方が広いんだろうね」
今のまとめ方は分かりやすい。デリートさんは〈AIの力〉を無効にするものだからAIが体に入ってる相手だけが対象で、だけどリペアさんにはそういった縛りはないということか。
というか冷静になって思うと、AIが体に入ってる相手ってなんなんだ……。今更だけど。
「ちなみにさ、傷を負った人の体が本当に修復するか気になるから介くんの」
「「やめてください」」
また僕とリードさんの声が重なって、シンクロが発動する。
それからは僕か瓢太、どちらの体に傷を負わせるかという変な議論がリペアさんとクリエイトさんの間で始まったが、リードさんに被験者を傷つけるなと止められて、昼休みはそのまま事なきを得た。
「そういえば、介くんの破れたブレザーとカッターシャツ、もしかしてリペアの力で直せるんじゃない?」
「……あっ」
記念すべき100話目です。ここまで読んでいただけて感謝です。これからも執筆頑張ります。




