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青空

 青葉高校には、一人、一人の鍵付きロッカーがある。

 だいたい、みんなお弁当をそこにいれている。


「はい、これ」

「ありがとう」


 青空から受け取った重箱をしまう。

 こんなお弁当を持ってきてる人はいるのだろうか?

 鍵を閉めて、スカートのポケットにしまう。

 

 父が朝から張り切って用意していたのをわかっていたから断り切れなかった。

 でも、それに青空が気づいてくれて一緒に食べてくれるのがわかって嬉しかった。


 授業が始まる。

 休み時間になると青空の席に女子生徒が行くのが見えた。



「理子」


 10分ほどの休み時間は、青空を無視するようにトイレに行く。

 青空が悲しそうに目を伏せるのは見えるけれど。

 小、中といじめられてきた私としては、高校ぐらいは何もなく生きたいと思ってしまうのだ。



ーーキーンコーンカーンコーン


「美浜君、一緒にお弁当食べよう」

「ああ、悪い!先約があって」

「ええ、うちらも一緒に食べたかったのに」

「ごめん」



 そっか。今は、美浜青空みはまそらなんだ。

 ……名字変わるって言ってた。

 昔は、新名青空にいなそらだった。



「理子、行くぞ」

「あっ、うん」



 青空に声をかけられて教室を出る。

 


「茜にも連絡してもらっといたから」

「青空の友達に?」

「うん」

「茜ちゃんの彼氏なんだよね」

「そうそう。茜から聞いた?」

「少しだけ」

「そっか。あっ、俺は茜の連絡先は知らないから」

「別に聞いてない」



 ロッカーの鍵を開けて、お重箱を取り出した。

 ずっしりと重い。



「持とうか?」

「大丈夫」

「あっ、そうだ。ちょっとだけ待ってて」



 青空は急いで、どこかに走って行ってしまった。

 待っててと言われても、いったいどこで待っていればいいものなのか。



ーードンッ


「ご、ごめんなさい」

「大丈夫です」



 ぶつかった拍子に重箱を落としてしまった。

 中身は確認出来ないけれど、風呂敷が濡れている様子などもないので大丈夫だろう。




「ごめん、ごめん」

「ううん」

「ほら、レジャーシート借りてきた」

「そんなのあったの?」

「部活によっては、持ってるって聞いたから。どこで食べる?屋上でもいい?」

「うん」



 青空と一緒に屋上へ行く。

 屋上には、かなりの生徒が集まっている。

 青空は、レジャーシートを敷いてくれた。



「開けよう」

「うん」



 嬉しそうな青空の顔を見ながら、風呂敷をほどいて重箱を開ける。



 ぐちゃぐちゃ……だ。

 見るからにぐちゃぐちゃになっている。

 もしかしたら、さっき落としたから?



「うわーー、汚い」

「何、あれーー」

「ヤバっ」



 さすがに青空も、こんなお弁当食べたくないよね。



「うわーー、割り箸忘れた」

「食べなくていいよ」

「何で?うまそーじゃん」

「ごめんね、遅くなって。美味しそう」

「あっ、茜ちゃん」

「割り箸とお茶」

「おう!サンキュー。食べよう、理子」

「これ理子ちゃんのお父さんが全部作ったの?」

「うん、そう」

「すごいね」

「これ、紙皿」

「ありがとう」



 青空と茜ちゃんは、ぐちゃぐちゃになったお重箱の中身を食べ始める。

 茜ちゃんの彼氏も一緒に……。


 胸の中が熱くなる。

 忘れたくない。

 こんなの忘れたくないよ。



「あのさ、理子」

「何?」

「人間の記憶って、脳だけじゃないんだよ」

「えっ……」

「味覚や嗅覚や触覚だってあるんだよ」


 青空は、父と同じことを話す。

 そんなので、思い出せるの?

 そんなわけないじゃん。

 


「これこれ」

「どれ?」

「この卵焼きって本当にありかなしかわからないよな。はい」



 私の口に青空が卵焼きをいれてきた。

 あるはずない。

 そう思っていたのに……。




「ビミョー」



 涙がポロポロこぼれ落ちる。

 味覚が覚えていた記憶。

 それは……。
















 イチゴジャムの入った卵焼き。

 母が梅干しと間違えて入れたやつで。

 不味くて泣いた私に青空が「たぶん、ありだぞ」って笑って自分の卵焼きと交換してくれたんだ。

 これって、味覚が覚えていてくれたってこと?


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