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入学式

「いやーー、よかったよ、理子」

「理子ちゃん、おめでとう」



 入学式が終わり、父と恵美子おばさんと桜の木の下や看板と一緒に写真を撮った。

 どうせ、思い出せないのに写真をパシャパシャ嬉しそうに撮って馬鹿みたい。



「母さんに見せるからな」

「いいよ、どうせ誰かわからないんだから」

「そんな風に言っちゃ駄目だぞ!どこかでちゃんと覚えているから」

「そんな事あるわけないじゃん。馬鹿じゃないの」

「理子ちゃん……おばちゃんも奇跡はあるんじゃないかって信じてるよ」

「恵美子おばさんまで、変なこと言わないでよ。変なのは父さんだけで充分だから」



 私の言葉に恵美子おばさんは、困ったように眉を寄せている。

 


「理子ちゃん」

「理子」

「おお!さっそく友達か?」

「違う」

「違わないだろ?俺達は、保育所の時の幼馴染みです」

「違う!こんな人達知らない。行こう、お父さん」

「待て待て、理子」



 茜ちゃんと青空とまた友達になんかなりたくない。

 どうせいつか忘れるのに、馬鹿みたいな青春なんてやりたくないし。

 恋なんてする必要もない。



「理子……。あれって、青空君と茜ちゃんじゃないのか?」

「えっ?何で?」

「何でって。理子が初めて出来た友達が茜ちゃんで。初めて好きになったのが青空君だ」

「何で、覚えてるの?」

「覚えてるに決まってるだろ。青空君が好きなのって言ってきた時は、父さん悲しかったからなーー。だけど、ほら。一生理子と一緒にはいれないでしょって母さんに怒られて応援しようって決めたんだ。茜ちゃんは、初めて出来た友達だって嬉しそうに理子が話してくれて。理子は、保育園行くのをすごく嫌がってたのに……。いつの間にか、茜ちゃんと遊ぶからって嬉しそうに行くようになって。父さんも母さんも嬉しかったのを覚えてる」

「何で?」

「怒ったのか理子?」

「何で、今さらそんなこと言うのよ」



 父を置いて私は走り出した。

 どうせ、すぐに忘れちゃうんじゃないの?

 何で?覚えてるの?

 

 どうして、あんな話しするのよ。

 どうして、今さら。




「理子、はぁ、はぁ、はぁ」

「何で?」

「さっき、理子のおばさんに聞いた。お母さん、施設に入ってるって」

「だから、何?」

「お母さんが忘れちゃったから、俺や茜も理子を忘れるって思ってるのか?」

「そんなのあんたに関係ないでしょ」



 走り出そうとした私の腕を青空が掴む。




「離して」

「関係あるよ」

「何でよ」

「理子、覚えてないの?」

「何を……」

「引っ越しする時に告白した俺に理子は「青空もお祖母ちゃんみたいにすぐに私を忘れる」って言ったんだよ」



 

 あの夢……。

 私は、青空にお祖母ちゃんの話をしてたんだ。




「だから、何?」

「だから、忘れなかった」

「はあーー?」

「俺は、絶対に理子を忘れなかったんだよ」

「ふざけないで!今さら何?何が言いたいの」



 青空の腕を振りほどいて走り出す。

 今さら何を言われたって私の心が動くことなんてない。




「あれーー、臭子ちゃんじゃん」



 最悪だ。



「もしかして、その制服青葉?」

「嘘ーー。お風呂も入らなかった臭子ちゃんが県内で一番高い私立高に行ったの?」

「入学金なんか出せたもんじゃなかっただろ?どんな手使ったの?」

「もしかして、パパ活?」

「ヤバーーイ」

「理子!!」

「そ、青空……何で?」

「臭子に彼氏とか出来たわけ?」

「調子乗ってんじゃねーよ」

「悪いけど。こいつ俺のだから」

「はあ?」

「この子、お風呂何週間も入らないんだよーー。それ知ってる?」

「だから何?」

「何って」

「そんなのどうでもいいから」



 青空は私の腕を掴んで引っ張っていく。



「離して」

「いじめられてたの?」

「まあ、自分が悪いから」

「悪いって何かしたの」

「お風呂入らなかったし」

「お風呂入らないのがいじめる理由には何ないだろ?」

「なるでしょ。臭いわけだし」

「お風呂入らなかったのには、理由があったんじゃないの?」

「あるわけないじゃん」



 今さら、私の中に入ってこないでよ。

 今さら、私の世界を書き乱さないでよ。



「理由もないのに理子がそんな事するわけないだろ」

「ちょっとしか知らないくせに、知ったふりしないでよ」

「ちょっとしか知らなくてもわかるよ!何が怖いの?理子が俺達を忘れること?それとも俺達が理子を忘れること?」

「知らない」

「それとも、両方?」

「知らないって言ってるでしょ」



 私が腕を振り払った瞬間。

 青空は私を自分の胸の中に引き寄せた。



「離して」

「約束しただろ?俺は、理子を忘れないって」

「嘘つき、嘘つき」

「俺の言葉が嘘かどうか確かめて見ればいいだろ?」

「離して」



 無理矢理、青空から離れた。

 青空は、少しだけ悲しい顔をしている。

 あの頃よりも、男らしくなった腕。

 私より高くなった身長。

 だけど、変わらないぐらい真っ直ぐで。

 相変わらずのイケメンぶり。



「理子……」

「何の意味もないの、このやり取りも。これから先の日々も」

「意味なんていらないだろ?」

「だったらいらないでしょ?どうせ忘れちゃうんだから。別に何もしなくたっていい」

「そうやって死んだように生きてくのか?」

「あんたに何かわかんないよ」



 これ以上、私の人生をぐちゃぐちゃにしないで。

 これ以上、私の中に入ってこないで。

 

 だって……。


 振り返らずに走る。

 

 だって……。



 これ以上、青空といると。

 忘れたくなくなる。



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