入学式
「きたきた、恵美子」
「お父さん!何で、恵美子おばさんに声かけてるのよ!」
「そりゃあ、理子の晴れ姿だからなな!」
「理子ちゃん、可愛い。水色のセーラー服ってやっぱり可愛いわよね」
「去年、そこらの高校と合併して青葉高校に変わったからだな」
「兄さん、本当に嬉しそうね」
「当たり前だ!理子が高校に行くって言ってくれたんだからな」
わざと私立高校にしたのは、父からお金がないと反対されることを見越してだった。
だけど「そうか!じゃあ、家を売ろう」と言い出してビックリした。
まさか、売るはずないと思った私は「お願いします」というと父は本当に家を売却してしまったのだ。
「家、今からでも取り戻せるんじゃない?やめようか?」
「いや、いらない、いらない」
「何で?」
「だって、母さんはもうあの家の事なんか何一つ覚えてないから」
父の言葉にハッとした。
父が戸建てを建てたのは、私が4歳の時だ!
今の母が覚えている私は2歳。
母が覚えているのは、最初に住んでいたアパートだ。
アパートは、昨年取り壊されてしまったので戻る事は不可能。
それで、私達は築の古い戸建てに引っ越した。
「青葉高校の入学金、結構高かったんでしょ?」
「なーーに、家がすぐ売れて助かったよ」
「でも、兄さん。悲しかったんじゃない?」
「まあ、そんなの一瞬だよ。だって、ほら。みんな生きてるから」
「おねーさん、さらに痴呆が進んだって聞いたけど」
「まあな。だからよかったんだよ!ほら、女の人は家を売却するの嫌がるだろ?まあ、今日はそんな話やめやめ。理子の晴れの日なんだから」
「それもそうね」
父が嬉しそうにしているけれど。
私は、全然嬉しくなかった。
「じゃあ、教室に行くから」
「はいはい」
父は体育館で待っているようで。
私は、クラスへと向かう。
1年E組。
青葉高校は、少人数で質のいい授業を心がけている学校だ。
どうせ、クラスメートと友達になる気もない。
中学の頃と同じように生活するだけ。
「やっぱりだ!」
そう思っていたのに……。
「ほら、やっぱり理子だったじゃん」
「本当だ!理子ちゃん久しぶり。元気にしてた?」
私の目の前に現れたのは、青空と茜ちゃんだった。
「覚えているの?」
「当たり前だよ、理子ちゃん」
「忘れた事なんてないよ、理子」
「そんなの嘘」
「嘘じゃないって」
「私もちゃんと覚えていたよ!それに、理子ちゃんにずっと会いたかったんだよ」
「私は……私は二人に会いたくなかった」
嘘をついて席に座る。
本当は、嬉しかった。
どうせ、みんな忘れるって思っていたから。
少しぐらい変わったのに。
私の名前も顔も覚えていたなんて。
「理子!どうした?キャラ変わった?」
「別に……」
「何で、怒ってるの?」
「馴れ馴れしく呼ばないで、それと話しかけないで」
「どうした?理子」
ーーキーンコーンカーンコーン
先生が入って来るのがわかって青空は自分の席についた。
気安く話しかけないで欲しい。
どうせ、すぐ忘れちゃう関係なんだから。
10年以上も覚えてたのに?
そんなの関係ない。
この先、忘れちゃうんだから。
自問自答を繰り返しているうちに、ホームルームが終わり。
出席番号順に廊下に並ぶ。
「皆さん、先生についてきてください」
先生の指示にしたがって、私達はついていく。
机の上に置いてあった桜のバッジを胸につけて歩く。
体育館では、父が嬉しそうに見守っていて。
私は、いつか祖母や母のように忘れてしまう。
今日と言う日を……。
それなのに何で忘れたくないって思っちゃうのかな?
少しだけ、心が揺れちゃうのかな?