表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか桃太郎  作者: 紙緋 紅紀
2/29

犬編

犬神響也は、社畜である。

月に24連勤は、当たり前なのをエナジードリンクの力を借りて、5年間繰り返していたら、腎臓を痛め、病欠している間に、会社から首を宣告された哀れな社畜。

現在、無職。

泉の女神に「あなたの落としたのは、金の斧ですか?銀の斧ですか?」と今、訊かれたら、彼は、間違いなく、こう答える。

「僕の落としたのは、プライドと人生です」と――。

そんな想像をしながら、犬神響也が、きびだんごを食していると、黒ブーメランパンツ一丁の金髪髭面の外国人プロレスラーのようなマッチョの男が寄って来た。

「あなたが、社会の犬さん?」

と男に訊かれ、犬神響也は、

「あなたが、プリプリプリティ桃太郎さん?」

と訊き返す。

犬神響也の目印が、きびだんご。プリプリプリティ桃太郎の目印が、シュリンプソルトミックスびっくりモンスターバニラソフトクリームだった。

自称プリプリプリティ桃太郎は、シュリンプソルトミックスびっくりモンスターバニラソフトクリームをれろれろしている。

二人は、闇バイトの待ち合わせをしていたのだ。

「日給15万って、本当ですか?」

犬神響也は、きさらぎ駅駅前のベンチから腰を浮かして、訊いた。

「はい。それは、もちろん」

自称プリプリプリティ桃太郎は、にんまり笑って、シュリンプソルトミックスびっくりモンスターバニラソフトクリームを黒パンツにしまった。

そうすることで、大量の白濁液が黒パンツから溢れ出す。

見るに堪えなかったが、犬神響也は、「ハハッ」と笑った。

身体に染みついた営業愛想スマイル。

せっかく掴んだ収入源を失うわけには、いかない。

犬。という言葉が彼以上に似合う者は、いるか。

「あの仕事内容は、なんなんでしょうか?誰でもできる簡単なお仕事と書いてありましたが?」

「はい。鬼ヶ島に行って、鬼をメタクソにボコって、帰るだけの仕事です」

「鬼をボコる?」

犬は、固まった。

「大丈夫ですよ。バール、使っていいですからね」

と桃太郎は、笑顔で言う。

それでも、不安そうな犬に、

「フルフェイスヘルメットで顔、隠してもいいですから、復讐される心配もありませんよ」

と付け加える。

「ふぁい。わかりました」

犬は、金銭的にだいぶ参っていたので、判断力などなかった。

「じゃあ、鬼ヶ島行きの切符、渡すから、先に現地に行って、待っててくれる?俺は、あと二人、連れて行くから」

桃太郎は、白濁液でべとべとな手で切符を犬に渡す。

「あと、できたら、先に一人で何匹か鬼、倒しといてくれる?」

できるかー!!

とは、犬は、言えなかった。

ただ「へへっ。へへっ」と笑って、改札を通って、電車に乗り込んだ。

そして、電車が発車し、桃太郎の姿が見えなくなると、緊張感が抜け、深い眠りに落ちた。

起きた時には、終点で鬼ヶ島駅をとっくに過ぎていた。

どうやら、終電の時間も過ぎていて、あたりは、すっかり真っ暗だった。

仕方なく、犬は、駅を降りて、道行く人に、ここは、どこか?と尋ねた。

「ここは、月だぴょん」

とウサ耳を生やした人は、答えた。

「え?」

犬が真っ暗な空を見上げると、そこには、まぁるく青い地球があった。

「あの、あそこに戻るには、どうすれば?」

と犬は、ウサ耳を生やした人に、地球を指差し、尋ねた。

「快速なら、一日で着くけど、次の快速が発車するのは、50年後だぴょん。普通電車だと1億3000時間かかるぴょん」

ウサ耳を生やした人は、軽やかに声を弾ませ、答えた。

「あの、……酸素……酸素、どこで、いくらで売ってくれますか?」

犬は、わなわな震えて、自然と四つん這いになる。

「にんじん3本で売ってやるぴょん」

「もっ、持ってない……」

犬は、酸欠で倒れて、気を失った。

目を覚ますと、練馬駅だった。

なんだ、すべて、夢だったのか。

そりゃ、そうだ。あんな黒のブーメランパンツ一丁の外国人プロレスラーみたいなおっさんが、街中で普通に歩いてやってくるなんて、……ましてや、鬼退治なんて、ありえない。

そう思って、なんとなしに犬がズボンのポッケをまさぐると、白濁液まみれの鬼ヶ島駅行きの切符が出てきた。

「あれ?」

おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ