バック トゥザ 浦島
夕日で輝く海岸線を歩く桃太郎一行。
「鬼ヶ島は、本当にこっちで間違いないんだろうなァ。キルコンヌよ」
「誰がキルコンヌよ!鬼ヶ島レーダーが反応してるんだから、こっちで間違いないわよ!岡部桃太郎!」
未来から桃太郎に復讐しに来た鬼の女子高生・鬼島キル子は、桃太郎に首輪をつけられ、赤いリードで亀甲縛りされ、拘束されていた。恰好は、桃太郎の趣味で下乳が見えるほど丈の短い黒のセーラー服。
「こ〜ら、こらこら、私のことは、奇跡のマッドサディスト天草四郎時サドと呼べと言ってるだろ。もしくは、ご主人様とお呼び」
と言って、桃太郎は、リードを強く引っ張る。いろんなところが、くいこむ鬼島キル子は、顔を真っ赤にして、
「誰が呼ぶか!この金髪ガングロ粗チン野郎!」
と牙を立てる。
「ふぅんぬ。そんな反抗的な態度をとるならば、今から、歌舞伎町に連れてって、壁穴にして、放置するが、よいか?」
「ぐぅうっ……」
鬼島キル子は、睨みながらも、目が潤む。
その激カワな顔を見て、あぁ、踏まれたいと思うオムツにネクタイ一丁姿の犬(犬神響也・彼女いない歴=年齢の独身男性)。背中には、羞恥心とマジックインキで書かれている。
もちろん、それも桃太郎のプレイの一貫である。
「新しい信長さま〜。だめですじゃ〜。いくら、探しても、このあたりには、船は、一隻も見つかりませんわな〜」
と砂浜を駆けてくる猿(木下藤吉郎)。
「困りんこだぷ〜。鬼ヶ島の位置がわかっても、船がないと、どうにもならんなぁ〜」
黒のブーメランパンツ一丁の桃太郎は、腕組みし、大胸筋を無意味に張らす。
「あそこにおじいさんがいるから、訊いてみますか?地元の人なら何か知ってるかも」
と怪しげな姿の犬は、無闇におじいさんに近づく。
「あの〜、すみません。おじいさん。このへんに船を調達できるところは、ありませんかね〜」
やさしい口調で訊くオムツ姿の犬をおじいさんは、まじまじと見つめ、
「それより、わしの家は、知りませんかのう。いくら、探しても見つかりませんのじゃ」
と訊き返す。
犬は、困った顔で桃太郎の方を振り向く。
「どうしましょう?徘徊老人でしょうか?」
「いや、こいつ、浦島太郎じゃね?」
と桃太郎は、鬼島キル子にヘッドロックしながら、近づき言う。
「え?浦島太郎?」
桃太郎に言われて、犬は、改めて、おじいさんの姿をようく見てみる。
ちょんまげに和服姿で、藁の腰ばかまに、魚の餌の入った袋、足には、わらじ。手には、木でできた釣り竿を握っていた。
「確かに、浦島太郎に見えますねぇ。でも、浦島太郎が、なんで、この時代に?」
「タイムリーパーだろ。最近、空間事故が多いからなぁ。誰のせいか、知らんけど」
と犬に桃太郎は、どうでもよさそうに答える。
「おじいさん、どうやって、ここに来たか、覚えてますか〜」
とおじいさんの耳元に口を近づけ、訊ねる犬。
「えっと、亀を助けて、竜宮城に行ってみれば、鯛やひらめの舞い踊りで、乙姫さんに花びら大回転で、陸地に帰って来て、玉手箱開けたら、なんかもふもふして、気づいたら、なんば秘密倶楽部にいて、尻毛が濃いんだよと罵られて、店から出たら、もう自分の家がどこか、わからんようになってましたんじゃ」
「間違いありません。この人、やっぱ浦島太郎です。しかも、僕の同志です」
と確信する犬。
「ただのボケ老人じゃね」と猿。
「誰か、わしの家まで連れて行ってくれませんかのう」とおじいさんは、桃太郎を見た。
桃太郎は、おじいさんをまっすぐに見つめ返し、
「じじい、今すぐに俺達が乗れる船を用意しやがれ。そうすれば、お前を元の時代に戻してやる」
と言う。
「そんなイジワルな。このおじいさんに船なんか用意できるわけないでしょ」
と犬は、言うが、
「船なら、あるよ」
と浦島らしきおじいさんは、藁ばかまからしぼんだゴムボートを取り出す。
「おじいさん、どうして、そんなものを」と驚く犬に
「亀にもらった」と答えるちょんまげじじい。
「おし、交渉成立だ」と桃太郎は、じいさんを掴み、じいさんと共にこつ然と消える。
しばらくして、桃太郎のみが姿を現す。
「送って来た」
と桃太郎は、言い、ゴムボートを一気にふくらます。海にそれを投げ、
「さぁ、乗れ。鬼ヶ島に行くぞ」
と自ら、さっそく乗り込む。
「ゴムボートでどうやって、鬼ヶ島まで行くんですか?電動のエンジンが付いてるわけでもないのに」
「大丈夫だ。俺達には、フレディ・カタルシスがいる」
桃太郎がそう言うと、フレディ・カタルシスは、サムズアップして、ウィンクしてみせた。
「フレディ、もっと左」
ゴムボートに乗った桃太郎、犬、猿、鬼島キル子の四人を、縄でゴムボートに繋がったフレディ・カタルシスは、力強いバタフライで泳いで引っ張った。
「フレディ、マッハ」
桃太郎軍曹の指示のもと、ゴムボートは、ぐんぐんと鬼ヶ島に向かって、進んでいく。
「でも、浦島太郎さんの帰った時代って、一体、何時代だったんですか?江戸時代ですか?鎌倉時代ですか?」
犬は、興味本位で桃太郎に訊いた。
「ああ、あれは、浦島太郎じゃないよ。詐欺師のセブンという奴だ。時々、ああやって、変装して、俺を騙しに来るんだ。ムカつくから、絶対に戻れん時代に放置してきた」
桃太郎に知らない時代に放置されたセブンは、浦島太郎老人バージョンの変装を解き、紫の長髪をポマードでオールバックした若々しい顔に戻り、紫のスーツ姿でジャングルの密林をかき分けていた。
人間の裸足が視界に入ったので、そっちに向かって、話しかける。
「おい、あんた、ここは、何時代のどこなんだ?」
しかし、その裸足は、奇妙なことに緑色をしていた。
「クエ?」
セブンに話しかけられ、振り向いたその人物は、人間の身体に爬虫類の顔をしていた。
「本当に何時代のどこなんだ?」
セブンのその問いに答える者は、その時代には、いなかったとさ。
おしまい




