大成功
それから、みんなで慈善病院の近くにある食堂に行くことになった。
すでに暗くなり、夕食の時間になっている。
屋敷に戻ってもいいけれど、だれもがお腹を空かせていた。だから、医師や看護師たちも誘って食堂に行ったのである。
みんなでシチューやパイを食べながら雑談をした。その間、援助の話はいっさいでなかった。
食後のお茶とデザートが出てきたタイミングで、切り出してみた。
「病院をご覧になっていかがでしたか?」
そのように。
「最後に話をさせてもらったのは、いずれもアムラン王国からやって来た患者でした。ジラルデ帝国人ではなく、です」
ジョフロワの言葉に無言で頷いた。
その通りだからである。彼が最後に話しこんでいたのは、たしかにアムラン王国からやって来た患者たちだった。
「彼らだけではありません。他にもアムラン王国人はいましたし、それ以外にも他国からの患者がいました」
「ええ。ジョフロワ、あなたの言う通りです。このジラルデ帝国は、アムラン王国も含め四か国と国境を接しています。病院には、そのいずれの国々の患者が入院しています。いいえ。入院患者だけではありません。わざわざ通院している患者もいます。とくにアムラン王国はこの領地からだと一番近いですから、その数も他国よりも多いのです」
「どうしてそのことを強調しなかったのですか? 同国人であるわれわれが援助をすべきだ、と」
「彼らは住んでいる国が違うというだけで、患者は患者です。ケガや病の人たちに同国人だとか他国の人だからという観念はありません。あなた方がその為に援助をしなければならないということはないでしょう? だから、そのことを振りかざして援助を強要するつもりなどないわけです」
「アイ、あなたという人は……」
ジョフロワは、呆れたように頭を左右に振った。それから、お茶を飲んだ。
そういう一連の動作もまた、スムーズすぎる。
「叔父上、援助をすべきです。いいえ。しなければなりません」
「わかっているさ、ジョフロワ。ひよっ子のおまえに意見されるまでもない。というわけだ、アイ。よろこんで援助させてもらおう。ただし、翡翠の件でいろいろ口をきいてもらうことは忘れないで欲しい」
「も、もちろんです、エルキュール。ありがとうございます。ジョフロワ、あなたにも心からお礼を言わせて下さい」
「いいえ。決断したのは叔父上ですので。ですが、そうですね。是非とも近いうちに葡萄酒の感想をきかせて下さい。約束してもらえますか?」
ジョフロワの碧眼は、これまでにも増して真剣みを帯びている。
一瞬、戸惑った。というか、困惑した。そして、違和感を覚えた。なにに対してか、はわからないけれど。
しかし、援助してもらえるといううれしさと援助にこぎつけたという達成感とで、それらはすぐに消え去った。
「もちろんです。約束します」
「では、また近いうちにお会いしましょう」
ジョフロワが手を差し出してきたので握手を交わした。続いて、エルキュールとも握手を交わした。
この夜、すべてをやり終えた安心感でぐっすり眠ることが出来た。
彼らだけの援助ではまだまだ足りない。しかし、彼らは他の商人にも呼び掛けてくれるとも約束してくれた。その約束が守られ、多くの援助者を得られるという、楽観的なことを考えているわけではない。ほんの少しだけ期待しているだけである。ひとりでもふたりでも、「援助してやろう」と申し出てくれる人がいれば幸運よね、というくらいにしか考えないようにしている。
それでも前進した。それが一番の収穫。
わたしでも出来た。
名ばかりのまだ見ぬ夫からまったく必要とされないわたしでも、出来たのである。
それがうれしくて、しばらくの間有頂天だった。
そう、しばらくの間だけは……。




