わたしの為に……
「アイ様、閣下がアイ様を利用しようとしているというのは違います。その王子こそ、でまかせを言っているのです」
「そうです。アイ様、きいてください。閣下は、あなたを利用しようとしているわけではありません。その反対なので……」
「ピエール、それからパトリス、やめろ」
フェリクスは、ピエールの言葉を静かにさえぎった。
「おれのことは、どうでもいいことだ。しかし、利用されるだけ利用されて殺されるであろう彼女を、王子といっしょに行かせるわけにはいかん」
「閣下、いいかげんにして下さい。このままだと、アイ様に誤解されたままになります」
「閣下、ピエールの言う通りです。あなたは、アイ様のことを愛おしく、さらにはかけがえのないほど大切に想っているのです。それを、そのことを黙ったままでいるなんて。おれたちには、これ以上耐えられそうにありません」
「パトリス、やめろっ」
フェリクスの怒鳴り声に、さらに言い募ろうとしていたパトリスは口を閉じた。
ただ、その翡翠色の瞳は、ずっとわたしを捕えて離さない。そして、わたしもまた彼の瞳を見つめたままでいる。
アイコンタクト、ではない。
そんなうわべだけのものではない。
おたがいの気持ちを、想いを、静かに伝え合い、感じ合う。
フェリクスがあんな態度を貫き通したのは、すべてわたしの為だった。
死が迫る中、しかもアムラン王国の刺客につねに命を狙われる状態で、彼はわたしを巻き込まないようわざとああいう態度で遠ざけようとしていたのである。
「やはり、黙っていられません。アイ様。閣下は、動くこともままならない状態のはずなのです。そんな状態の中、『ラングラン侯爵領に出没しているアムラン王国の諜報員があなたに接触をしている』と、侯爵家の執事と管理人から、ある日連絡があったのです」
ピエールは、フェリクスに怒鳴られてもそれを無視して言い始めた。
「こちらでも、すぐにその件について調べました。すると、そこにいる諜報員だけではなく……」
パトリスは、馬上でエルキュールを指さした。




