表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

目撃してしまう

「アイ、お願いです。現地は、かなり深刻な状態なのです。老若男女、多くの人たちが苦しんでいます。もちろん、あなただけに負担をかけたり重荷を背負わしたりはしません。一刻もはやく王都からの応援がくるよう、わたしたちも手を尽くします。アイ。人々は、癒しと加護の力を使うことの出来るレディがやって来たというわけで希望を持つことが出来ます。希望は、人々に生きる力を与えます。それだけでも充分な効果をもたらすことが出来ます」


 ジョフロワはテーブルの向こうから身を乗りだし、わたしの手を握った。


「当然、あなたの身の安全は保障します。わたしがあなたの側にいて、守ります。アイ、病に苦しむ人に国や人種の違いはありません。どうかいっしょに行って下さい」

「ジョフロワ、落ち着いて下さい。このことは、わたしだけの問題ではないのです」


 あまりにも強引すぎる。


「わたしは、ラングラン侯爵夫人です。夫が帰って来ていることもあります。わたしの身勝手で家をあけたり、ましてやジラルデ帝国から出て行くことは出来ません」

「それはわかっています。わかっていて、あえてお願いしているのです」


 いまや痛いほど、彼に手を握りしめられている。


(このままでは、うんと言うまで帰らせてくれないわね)


 そんな勢いである。


「少しだけ時間を下さい。ここで即答は出来ません」


 どうしても険がある言い方になってしまう。


 ジョフロワとエルキュールは、一瞬だけど視線を交わした。


「アイ、わかりました。ですが、急いでください。今日、また会えますか?」

「今日? わかりました。出来るだけはやく結論を出します」


 ここからはやく出たくて、というよりか彼らの前からはやく去りたい。


 その気持ちがあるからか、無意識の内に立ち上がっていた。


「慈善病院まで送りますよ」


 すると、彼らも同時に立ち上がった。


 拒否したかった。だけど、出来なかった。


 二人のオーラが物々しかったから。


 エルキュールが財布を出す前に、わたしが勘定を支払った。


 そして、カフェから出て慈善病院へと歩き始めた。


 人通りが多くなっている。馬車や馬の行き来も増えている。


「見つけた。やっと見つけたわよ、フェリクスッ!」


 レディの甲高い声が響き渡ったのは、慈善病院が見えたときだった。


(フェリクスですって?)


 声のする方に、弾かれたように体ごと向いた。


 声がしたのは、馬車道の向こう側である。


 パトリスとピエールを従え、フェリクスが歩道を歩いている。彼らは、こちらに向いている。


 その三人、というよりかフェリクスの巨躯の前に立ちはだかっているのは、ひとりのレディ。


 その背は、レディにしてはかなり高い。高いヒールを履いているとしても、それでも平均的なレディよりかなり背が高い。


 小柄なわたしとだったら、並んで立つのが恥ずかしくなるほど身長差がある。


 その彼女の背中が自信に満ち溢れているのが、ここからでもよくわかる。


「フェリクス、やっと見つけたわ」

 

 彼女の甲高い声に、通行人たちは足を止め見ている。


「アンヌ・リヴィエール! まさか、こんなところまで追いかけてくるとは」


 フェリクスのごつい顔の表情まではわからない。


 しかし、その声には言葉ほど嫌悪は混じってはいない。


 すくなくとも、わたしに対する声よりかはずっとずっとやさしくて愛想がいい。


(なるほど。彼女が、例の『遊んでくれるレディ』というわけね)


 勘? いいえ。勘を働かせるまでもない。


 どこからどう見ても、それ以外に考えられない。


「当り前よ。どこまででも追いかけるわ」

「いい加減にしてくれ」

「とにかく、ここで会ったからにはきっちりしてもらうわよ」

「勘弁してくれ」

「勘弁しないわ。ぜったいに許さないから」


 気がついたら、両方の拳を握りしめていた。


 ラングラン侯爵家の執務室でフェリクスに諫められたときのように。


「アイ、大丈夫かい?」


 肩に手が置かれた。


 その手の先を見ると、ジョフロワの心配げな表情に行き当たった。


 このときばかりは、彼のキラキラも色あせて見える。それをいうなら、この世のすべてが暗く感じられる。


「大丈夫。大丈夫です」


 彼に答えたというよりかは、自分自身に言いきかせていた。


 同時に、足が動き始めていた。


 これ以上、見たくない。フェリクスと彼の遊び相手か本気の相手かはわからないけれど、とにかくレディとのやりとりを見たくない。


 本能的に動き始めた足。


 その足を止めることはしなかった。


 エルキュールとジョフロワが名を呼んでいたかもしれないけれど、とにかく本能のままに足を動かし続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ