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ジョフロワの告白

「アイ様、いつもありがとうございます。本日の三種類のケーキもお気に召していただけるといいのですが……」

「ええ、アリソン。この組み合わせは最強よ。わたしには、食べる前から間違いないことがわかるの」


 笑いながら彼女に言うと、彼女はうれしそうに「ごゆっくりなさって下さい」と頭を下げ、つぎのテーブルへと移動していった。


「いつも三種類とも食べるのですね。多かったかなと思ったのですが、せっかくですので三種類とも頼んでしまいました」

「ジョフロワ、大正解です。ここには、いつもメイドたちと来るのです。三人とも大好きですから、ついつい三種類とも頼んでしまいます。それどころかときにはさらに追加したりして、動けなくなるまで食べてしまうこともあります」

「それはそれは。わたしも負けていられないですね」


 二人で同時に笑ってしまった。


 それから、しばしケーキとお茶を楽しんだ。


「アイ、ウジェの葡萄酒はいかがでしたか?」


 三種類のケーキは、どれも美味しすぎた。


 全体的にほどよく甘く、ビターチョコレートのほろ苦さやフルーツの酸味、こういった余韻を楽しんでしまう。


 すると、ジョフロワがそう尋ねてきた。


 そういえば、お土産でもらったウジェの葡萄酒の感想を教えてくれと言っていたわね。


 いまさらながら、そのことを思い出した。


「ジョフロワ、ごめんなさい。じつは、まだ飲んでいないのです。ウジェの白葡萄酒があまりにも希少すぎて、なにかお祝い事があるときにしか飲む勇気が出そうにないのです」


 それは、真実である。


 ウジェの白葡萄酒は、ほんとうに希少で高価な物。


 ふつうのときに飲んでしまうなど、わたしには出来そうにない。そういう贅沢すぎる概念じたい、わたしにはない。


「ほんとうにごめんなさい。貧乏性すぎるって笑って下さい。わたしには、もったいなさすぎるのです」

「貧乏性だなどと……。そこまで大切に考えてくれていて、その方がうれしいですよ」


 彼は、笑って許してくれた。しかも、うまい具合に取り繕って。


「アイ、謝るのはわたしの方です。ウジェの感想をきくというのは、あくまでも表向きにすぎません。いいえ、口実と言った方がいいでしょうか」


 彼は、テーブル上に両肘をついて身を乗りだしてきた。


 そのきれいな蒼色の瞳を見た瞬間、なぜか翡翠色の瞳を思い浮かべてしまった。


 そう。フェリクスのあのきれいな翡翠色の瞳を。


「感想など、口実にすぎないのです。アイ。わたしは、ほんとうは……」


 彼は、さらにキラキラ光る美しい顔を近づけてきた。


 ドキリとした。いいえ。ドキドキし始めた。


(いよいよなのね。いよいよ援助打ち切りのことを告げるつもりなのね。これ以上援助は出来ない、と打ち明けたいのね)


 覚悟を決めた。が、覚悟とは別にどんな顔をしてその凶報を受け止めていいのかわからない。


 とはいえ、とりあえず表情をあらため、彼の告白を待った。


 衝撃を受ける準備がまだ完全ではないままに……。


「アイ、あなたに会いたかったのです。会って、話をしたかったのです」

「ええ、わかっています。覚悟は……、そうですね。たったいま、覚悟が出来たと思います。おそらく、ですが。とにかく、はっきり言って下さい。その方が、わたしもある意味スッキリすると思います」


 このときばかりは、ハッキリすっきりクッキリ告げて欲しかった。


 まるでヘビの生殺しのようにジワジワうじうじされるると、ストレスが溜まってしまうしムダに疲れてしまうから。


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